第1話 歌唱人形〖アリア〗

〖クリス商会・商談室〗


豪華な部屋。部屋に置かれている家具、絵画、魔具(ミーティア)に至る全ての物が一級品の物ばかり、クリス商会の財力の高さが伺える部屋。


「先ずは座れ。ここは俺、専用の部屋でな。魔機界(マキナ)中から集めた選りすぐりの家具を飾っているんだ」


クリスさんは両手を広げて自慢のコレクションを私達に嬉しそうに説明してくれる。その人に自慢したい気持ち、凄く分かる。私も自慢のコスを着た時は、心が高揚して、人に見せびらかしたくなるもの分かる。


「それで?何故、こんなオークション会場の奥にある談話室なんかに、僕達を案内したんですか?クリス君」


「テリクス。お前達の目的は〖ユグドラの万能薬〗とか言う、下の世界の奴が作った薬らしいな?」


質問を質問で返した?ふざけているの?‥‥‥‥いや、そんな事よりも何故、クリスさんが私達が欲しがっている。〖ユグドラの万能薬〗の事を知っているの?


「‥‥‥親しい仲間内でしか、知らない筈ですがね?」


リク先生はそう告げるとロロギアさんの顔を見つめた。


「何だよ?俺を疑ってるのか?リク!俺は何も喋ってないぞ。クリス何かに喋ったら、何の悪事に利用されるか分からないからな」


「‥‥‥ロロ。君はクリス君に借金をしていて‥‥‥それを数日前に返済したんでしたっけ?」


「いや、ロロギアは何も喋ってないぞ。テリクス。これは俺が個人的に、とある情報屋から仕入れただけの話だ」


「とある情報屋ですか?まさか政庁の‥‥‥」


「それは教えてやれねえな。こっちも商売がかかってるんでな」


‥‥‥クリス商会。〖マキナ公国〗の経済界に多大な影響を持ち、政庁や浮遊城にも顔が利くと言われる大商会。黒い噂も絶えず、信用にはかけるこの商会の会長が私達の目の前に入る、クリス・ドルイスさん。


彼は学生時代、リク先生と何度も対立した好敵手だったりするのだけど。本当に何でこんな場所に呼び出したのかしら?


「‥‥そうですか。ならば深くは聞きません」


「そうか。それは良かったぜ。政庁何かに本気で来られたら、いくら家が大商会だろうと潰されちまうからな」


「それで?僕達を呼んだ要件は何でしょうか?」


「ハハハ、相変わらず俺に対しては疑り深いんだな。テリクスは、先ずは信用をお前達からの得る為に、これを見せてやる‥‥‥」


クリスさんはそう告げると、自身の服(高そうなスーツ)のポケットから緑色の液体が入った小瓶を取り出した。


「クリス、何だこれは?ポーションか?」

「‥‥‥潤滑油(エール)でしょうか?」


ガタッ!

「クリスさん‥‥‥この‥‥‥この小瓶の中身はもしや?」


私とロロギアさんが興味津々に見ていると、リク先生が突然立ち上がり、いつも冷静な筈リク先生が驚きの表情を浮かべていた。


「そうだ。今回のオークションの最大の高値が付くと思われる。〖ユグドラの万能薬〗だ‥‥‥競りになればティアの金額はお前達が考える数倍の額になる代物だな」


「は?マジかよ!それがリクが探してた。〖ユグドラの万能薬〗?!」

「‥‥‥クリスさんが何故、持っているんでしょう?」


クリスさんは〖ユグドラの万能薬〗の小瓶を優しく撫でながら語り出す。


「それが何故、貴女の元にあるのですか?それを見せた僕達に自慢でもしようと?」


「‥‥‥やるよ。お前達にな。ほれ‥‥‥そうすれば。そこの手記人形になっちまったマリア・シュリルは元の人間に戻るんだろう?良かったな。テリクス」


クリスさんはそう言うとリク先生に〖ユグドラ〗


「それで?僕達にこれを渡して、何を望むのですか?また昔の用な無茶な要件を‥‥‥」


「あー、違う。違う。学生の時は、お前達と俺との派閥があって色々とやり合ったが、もうそんな幼稚な事はしねえ‥‥‥歌唱人形って知ってるか?テリクス」


「歌唱人形ですか?‥‥‥隣国〖ギルドナ〗王国で起こった〖呪い人形〗事件の時に、実律型人形(マギ・オートマター)に変えられてしまった。〖歌姫アリア〗の事でしょうか?」


「‥‥‥‥あぁ、その〖歌姫アリア〗の事だ。まぁ、何だ。お前達の為に、オークションが開催される前に俺が買い取ってやったんだ。三億ティアもしたんだぞ」


リク先生が政庁から引っ張ってきた予算と同じ金額を?クリスさんはどれだけよ資産があるの?


「そうですか。それはとてつもない金額を払いましたね。そんな高い物を買って、タダで僕達に渡す何て、貴方の性格ではあり得ない事ですね」


「まぁな‥‥‥とある個人資産家が〖歌姫アリア〗を今回のオークションに政庁の許可も取らずに無断で出品しやがった。それを実律型人形(マギ・オートマター)を開発する会社の〖リスリラ社〗が買い取ると言ってきてな」


「‥‥‥人だった。歌唱人形を買い取る?そんな事できるわけありません。政庁のあの方がそれを許すわけが‥‥‥」


「出品者が〖歌姫アリア〗の家族だとしてもか?」


「家族?」


「アルバ・シュトロノム‥‥‥〖マキナ公国〗の有名歌手にして、資産家が〖歌姫アリア〗。アリア・シュトロノムの兄貴なんだよ。そいつが〖リスリラ社〗の頼みを聞き入れやがって、〖歌姫アリア〗をオークションに出品しやがった。普通の取引では政庁の監査が入るのを恐れてな。そして、基本的にクリス商会はオークションで出品されるものに対して、個人的に以外には口を話せない。出品物に関係する者は口を出せないんだ」


「〖歌姫アリア〗の兄が、あのアルバ・シュトロノムの妹?そんな話始めて聞いたぜ」


ロロギアさんがそう言って二人の会話に割り込む。この人は何でいつも人の話を最後まで聞けないんだろう?


「義理の兄妹だそうだ。俺も数日前にアリアから聞いた時は驚いた」


「‥‥‥アリア?名前呼びとは中が良いのですね。〖歌姫アリア〗さんとは」


「あぁ、アリアは俺の婚約者だ!」


「歌唱人形‥‥‥〖歌姫アリア〗がクリスさんの?」


「そうだ!〖ユグドラの万能薬〗はお前達にくれてやる。その代わり、お前達は〖歌姫アリア〗‥‥‥アリアを競り落とすか、救い出せ。それがお前達をここに呼び出した目的だ。頼む!婚約者を!アリアを助けてくれ!」


ゴツンッ!


クリスさんはそう叫ぶと談話室にあったテーブルに頭を強く打ち付け、私達に頼みこんだ。



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