第3話 貴方の為に


数年前〖クリス商会談話室〗


「クリス様‥‥‥大丈夫ですか?お元気がありませんね」


「アリアか。また派閥間の争いに発展しちまったんだ。俺はただ‥‥‥」


「教師就任をお祝いしてあげたかっただけなんですよね?」


「‥‥あぁ、そうだ。俺はただ、たんにテリクスと‥‥‥」


「仲良く。お友達になりたいんですよね。クリス様は‥‥」


「何故、分かる?俺はまだ、何も話していないだろう?アリア」


「フフフ‥‥分かりますよ。クリス様の事なら何でも分かります。だってクリス様は私の最初の初恋の方で‥‥‥私が歌手になるきっかけをくれた恩人で、大好きな婚約者なんですから!」


「‥‥アリア‥‥お前は‥‥」


「クリス様。聴いて下さい。貴方の為だけに歌います‥‥‥《貴方の為の私の歌》‥‥‥聴いて下さい。私のクリス様」


「あぁ、聴くよ‥‥‥ずっと俺の傍(そば)で聴かせてくれ。アリア」



クリス商会所有『歌唱ホール・オークションの舞台・リゴレット劇場』


「何をボーッとしている?アリア。そろそろ本番だ。しっかりしろ。私の歌唱人形よ」

〖資産家・アルバ・シュトロノム〗(異名・親族殺し)


「‥‥‥はい。御兄様‥‥‥申し訳ございません」

〖歌唱人形・アリア〗(かつてのマキナ公国が誇る歌姫)


ギシッ!


「アリアさん‥‥魔機体の手入れはしているのか?今、貴女から変な異音がなったが?気のせいか?」

アルバ・シュトロノム〖護衛人(ガード)ルイ・ギルド〗(用心棒)


「‥‥‥はい。ルイさん。ご心配して頂き、ありがとうございます。ですが私は今夜で‥‥‥」


「不要な会話は止めた前よ。用心棒君のルイ君と人形に落ちぶれた歌姫のアリア‥‥この有名歌手アルバ・シュトロノムが、本番が近いと言っているんだ。静かにしたまえ!」


「それは失礼ですがね。シュトロノムの旦那‥‥‥アリアさんの身体はちゃんと手入れなさってるんで?悪いがさっきの異音は少し不味い‥‥‥」


「黙れ!たかだか雇われの用心棒が、この私に命令する気か?!少し腕が立つからと、あの方の推薦で雇ってやったが、事ある毎に私に意見しよって!良いか。この歌唱人形は今日のオークションで〖リスリラ社〗が高値で買い取る予定なのだ。その後にこの壊れかけの人形が、壊れようと私には一切関係ない!」


「‥‥‥」


「‥‥‥ですがオークションが始まる以前から、〖マキナ公国〗中の興行で、アリアさんの身体はボロボロの筈ですぜ。少しは身体を休ませてあげねば身体に体調を崩す羽目になりますがね」


「ルイ・ギルド君‥‥人ではない〖人形(モノ)〗に何の心配と配慮をしているのだね?」


「‥‥‥はい?シュトロノムの旦那。今、何と言いました?」


「この壊れかけの人形(アリア)は人ではない、人形(モノ)だと言ったんだが、聴こえなかったか?‥‥‥少し闘いの腕が立つからといって余り調子に乗らないでくれたまえ。君は大人しく私の周囲を護衛していれば良いだけなのだからな」


「‥‥‥えぇ、そうしますぜ。シュトロノムの旦那‥‥‥(これが親族殺しの異名を持つ。アルバ・シュトロノム‥‥‥想像以上の残虐性と兄妹に対して人形(モノ)とは、終わっているな)」




〖一般客席〗


私達は〖最果ての図書館〗から出た後にオペラとオークション会場になる


「あの方が、かつてマキナの歌姫と言われた。アリア・シュトロノムさんですか。リク先生」


「えぇ‥‥‥その隣がアルバ・シュトロノムさんですか‥‥家族殺し、教団、嫉妬、人形化ですか‥‥‥」


リク先生はアルバさんとアリアさ関する〖手記〗が書かれた紙を詠みながら、ホール会場の真ん中に居る、ご兄妹を時折見ている。


「そんで、その隣がルイ・ギルドかよ。やりづれえな」


ロロギアはそう言って苦い表情を浮かべる。私はロロギアさんのそんな珍しい表情がとても気になり、ある質問をしてみる事にした。


「ルイ・ギルド‥‥‥さんですか?どんな方、何ですか?ロロギアさん」


「ん?気になるかい。マリー‥‥‥ルイ・ギルドはな。冒険者や騎士の世界じゃあ、有名な用心棒だ」


「用心棒ですか?」


「あぁ‥‥昔は〖浮遊機城(クレピタークル厶)〗にも務めていた猛者さ。そんな奴がアルバ・シュトロノムの護衛とはね‥‥もしも歌姫アリアを落札できずに闘いになったら、厄介このうえないな。リク」


「‥‥‥君の全てを信用し、任せますよ。親友のロロ」


「出たよ。リクの俺に対する全幅の〖右の手乗せ〗」


リク先生はそう言ってロロギアさんの右肩に手を置いた。この二人が何かを起こす時は、いつも行う行動‥‥儀式みたいなもので、学生の頃、何か大きな事をやる度にやっていたのを覚えている。


「まぁ‥‥‥最終的には君が予想している通りに事が運ぶでしょうが、先ず最初に始めるのはオペラですのでお二人はこれをお渡しします」


リク先生は手品の様にどこからともなく二つの仮面を取り出し私とロロギアさんに手渡した。


「〖隠しの仮面〗ですか?」

「何で仮面?」


「身元や身分がバレないの為ですよ。ちゃんと付けておいて下さいね。先程まではクリスさんの計らいで、会場にある目隠しの魔具(ミーティア)により、僕達三人が別の誰かに擬装されていましたたが、会場から飛び出したらその効果は消えます。そして、劇場に一歩でも足を踏み入れれば誰なのか分かってしまう。それを防ぐ為に‥‥この仮面です」


リク先生はそう言い終えると〖目隠しの仮面〗で顔を覆う。それに続いて私とロロギアさんも仮面を装着する。




〖リゴレット劇場〗


コンコン‥‥‥

黒い杖を持ったシルクハットとタキシード姿の太った男が杖を数回に渡り、床を叩き鳴らした。


「‥‥‥時間だ!司会。始めたまえよ‥‥歌唱人形の‥‥アリアの最後のオペラを」


「はい。アルバ氏‥‥‥リゴレット劇場にお出で下さいました。紳士淑女の皆々様!!これより!クリス商会によります。シュトロノム家主催のオペラ&オークション開催致します!!」


「「「「「ワアァァァ!!!!」」」」」


歓喜の歓声が上がる。今夜、響き渡る歌唱人形の歌と出品物を欲する者達の興奮入り交じっての大歓声が。


「本日はシュトロノム家の現当主にして、資産家としても名高い、アルバ氏による単独オペラから始まり‥‥‥その最後を務めますのは〖マキナ公国〗が誇った歌姫。ですがあの悲しき呪いの人形事件の被害者〖歌唱人形・アリア〗による終演の歌唱が開かれます」


「「「「ワアァァァ!!!!」」」」


再びの大歓声。アルバさんの時とは違い。アリアさんの名前が出た時の大歓声‥‥‥そう。この〖リゴレット劇場〗に集まった殆どの方達は〖歌姫アリア〗の生歌を聴くために集まった方達。そして、その極一部は違う意味で集まった方達。


「‥‥‥そして、その後に開かれますは、今日、二度目の御披露目になる。〖歌唱人形・アリア〗が出品されるオークションです!!」


「「「「‥‥‥‥‥」」」」「ヨシッ!」「我が社の元に!」


先程の様な大歓声は余り上がらなかった。極一部の方達は盛り上がっていたけれど‥‥‥‥


「そして、こちらが本日のオークションの出品でございます!目を凝らしに凝らし、名品。珍品をお買い上げ頂き、今日という日を良き思い出にして頂きたいと思います!!」



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《クリス商会オークション・出品物一覧》


〖大海賊エク●スの財宝〗

〖星詠みの石〗

〖天のルルエラ像〗

〖トリストメギストスの赤の魔法書〗

〖鍛神の槍〗

〖飛行石〗

〖クリス商会の会員書〗

〖氷の世界の物語〗

〖魔機界(マキナ)見聞録〗

〖星の賢者の書〗

〖エルフの聖霊石〗

〖リリクのレストランの招待券〗

〖機天の片翼〗


本日一の高価出品物‥‥‥『歌唱人形・アリア』


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