第4話 コス人形と空の騎士〖ロロギア〗

数ヶ月前の〖隣国・首都ラリア〗雨


‥‥‥‥私の中の心臓の音が聴こえない。代わりに聴こえて来るのはカチッ!ギシッ!キィーッ!等の機械音。


そんな音が私の身体の新しい音だった。


涙は出る。感情もある。表情は悲しげだった。


でも、人の、人間の温もりは、もう私の身体から失われていた。


雨が降る‥‥‥悲しみ涙に合わせる様に。


雨が降る。私の新しい身体になった事を御祝いする様に、あの時は雨が降っていた。


「‥‥‥‥違う。俺は‥‥‥ただ、彼女が幸せになってほしくて‥‥‥こんな事になるなんて思っていなくて‥‥‥こんな事に‥‥‥」


誰かが私を見つめていた。悲しそうに怖がる様な表情で。


「俺は‥‥‥俺は‥‥‥うわあぁぁ!!!」


そう叫ぶとこの雨の中、何処かへと走り出す悲しげな誰か。


バシャッ!


「‥‥‥何ですか‥‥‥これは‥‥‥この状況は?‥‥‥」


その人入れ替わる様に私の知っている人が来た。その人の表情は、とても険しかった。とてもとても怒っていた。


「‥‥‥‥先生‥‥‥リク先生‥‥‥」


「マリアさん?!マリアさんが何で此処に?‥‥‥‥そんな‥‥‥これは‥‥‥どうして?!」


狼狽するリク先生。


「リク先生‥‥‥聴こえないんです。心臓の音が‥‥‥生きた音が聴こえないですっ!!感情は有るのに、涙は普通に出るのにっ!身体から私の命の音が聴こえないのっ!‥‥‥私の身体から‥‥‥機械みたいな音が聴こえる‥‥んです‥‥‥」


そして、私は再び涙を流す、悲しみの涙を流していた。


「マリアさん‥‥‥‥‥かないで下さい」


「‥‥‥‥‥え?」


「泣かないで下さい。マリアさん。僕がどうにかしま。だから泣かないで下さい」


「‥‥‥‥リク先生?」


「心配しないで下さい。この後の事は僕がなんとかします。だから、マリアさん、泣かないで下さい‥‥‥‥貴女には〖ルルエラ神〗像の様な、楽しげな笑顔が似合うのですから‥‥‥」




そんな事件から数ヶ月が経ち、その間にも色々な事があった現在、私は〖メイヤの洋服店〗へとやって来ました。



〖メイヤの洋服店〗店内


パシャッ!パシャッ!パシャッ!パシャッ!パシャッ!


「良いっ!凄く良いよっ!マリーッ!!可愛すぎいぃ!!何でそんなに可愛いの?マリーッ!!先生もそう思うでしょう?」


「‥‥‥‥グッときます‥‥‥そして、僕は少し心を落ち着かせる為に、少し席を外します。グッとやられたので」


「おぉ!!好評だねっ!やったね。マリーッ!」


店内には奇怪な機械音と私の親友の一人、アイナさんの興奮した声が響く。そして、私は何故かメイド服を着せられて何かの〖魔機〗で記録?されている?


「あ、あの、アイナさん。そのパシャッ!パシャッ!と鳴る。ウルサ‥‥‥響く箱は何なんですか?」


「んー?これ?例の珍しいお客様の買い取り品の一つ〖星屑の炉〗から造った〖魔写真機(オブスキュラ)〗てっ言う。撮った物を絵に残せる新しい魔機だよ。マリー」


「〖写真機(オブスキュラ)〗ですか?‥‥‥こんな〖魔機〗初めて見ました〖記録〗として手記しときます」


「おぉ、仕事熱心だね。マリーッ!!その表情と体勢残しておこう!!」


凄い嬉しいそうに〖魔写真機(オブスキュラ)〗で私を撮るアイナさん‥‥‥


「只今、戻りました‥‥‥てっ!何で手記してるんですか?マリアさん」


「あっ!リク先生。いえ、あのですね。何でもアイナさんが持っている〖魔写真機(オブスキュラ)〗には、例の珍しいお客様が所有していた〖星屑の炉〗が使われているらしくてですね。これは珍しい〖記録〗と〖記憶〗と思って書き始めたんです」


「はぁー、珍しい出来事に遭遇すると書き留める。マリアさんの悪い癖が出たんですね。納得です‥‥‥そして、その〖魔機〗には下の世界の物が使われているとは本当なんですか?アイナさん」


パシャッ!パシャッ!パシャッ!‥‥‥‥


「んー?そうそう。そうだね。あの〖帰還者〗のお客様から買い取った十個の品のうち、〖魔具(ミーティア)・カンデラ〗‥‥‥ていうよりも、私が個人的に〖星屑の炉〗が欲しかったから、パパから大金はたいて買い取ったんだ。それで造ったのがこの〖魔写真機(オブスキュラ)〗。良いでしょう。〖魔機界(マキナ)〗の世界だとこれ一個しかない超貴重だよ」


アイナさんはそう言って〖魔写真機(オブスキュラ)〗をリク先生に見せびらかせ始めた‥‥‥‥そろそろ、私も欲しい服を見て回りたい、〖コス〗をしたいーーっ!!


「ほう。それは興味深い話しですね‥‥‥〖帰還者〗が時たま持ち帰る下の世界の品。それは〖魔機界(マキナ)〗には無い力を秘めていると言われていますからね‥‥‥‥」


多分、リク先生はあの時のラテおじ様とのやり取りを思い出してるのだと思う。あの時の‥‥‥カンデラのお店でのやり取りを。



▽▽▽▽▽


「珍しいお客と珍しい品だったからな。買い取りの後、店に並べたら即座に駆け付けた上客(・・)達が買いに来やがった」


「上客ですか?」


「あぁ‥‥‥どこまで話したら良いか‥‥‥浮遊機城(クレピタークル厶)の神官と騎士か、それと政庁と高名な冒険者パーティー、も買いに来てたな。魔法書何かは魔法使いの派閥で奪い合いの決闘になってたのは笑えたな。ハハハ」


「‥‥‥その中で〖ユグドラの万能薬〗はどんな方が買われたのですか?」


真剣な顔をしたリク先生がラテおじ様に詰め寄る。


「だから、お客の個人情報は教えられねえよ。政庁でもそうなってるだろう?」


「そうでしたね。ではどの様な容姿だったかだけでも教えて頂けませんか?マリアさんの為にもっ!」


「マリアちゃんの為にもだと?‥‥‥‥あーっ!そういう事か‥‥‥‥たくっ!‥‥‥‥」


ラテおじ様が一瞬だけ、私を見て、自身の頭を軽く叩いた。何か言おうか悩む表情をしている。


「‥‥‥‥クリス商会の小僧‥‥‥それしか教えられねぇな」


「クリス商会ですか?‥‥‥‥成る程。それだけ聞ければ十分手がかりになります。ありがとうございます。ラテ亭主」


「マリアちゃんはアイナの親友だからな。特別だぞ‥‥‥‥それとな。リク先生よぉ」


「はい?何でしょうか?ラテ亭主」


「〖ユグドラの万能薬〗か?それが欲しいなら、〖帰還者〗を探した方が手っ取り早いと思うぜ。ソイツに依頼して、下の世界に行ってもらい、新しい物を持って来てもらう。それもマリアちゃんを治す一つの手だと俺は思うがね」


「〖帰還者〗‥‥‥《幻神鳥(ハーピィー)》を探すですか‥‥‥成る程。それも一つのてとして考えておきます。貴重な情報の提供ありがとうございました。ラテ亭主」


「ラテおじ様。ありがとうございます」


「おうっ!また。何か用事があったら遊びに来なっ!オーイッ!アイナ!!話し終ったからもう降りてきて良いぞ。それと今日は店じまいだから、遊んで来いっ!」


ダッ!ダッ!ダッ!


「パパ。本当?店の手伝いは終わりだね?やったーっ!良し、マリー、となり〖メイヤの洋服店〗に直ぐ行こう。もう行こう。コスッ!しようっ!直ぐしようっ!」


「あっ!待って下さい。アイナさん!!そんなに強く引っ張らないで下さい。壊れますっ!!」


ギイィ‥‥‥カラン‥‥‥カラン‥‥‥


「リク先生よぅ‥‥‥政庁はなんて言ってきてるんだ?」


「シュリル家のご令嬢はどんな手を使ってでも、直せだそうです。それと身辺の護衛をと」


「‥‥‥‥それから?」


「場合によっては〖機天使(リーク〗・ロロギアを護衛に付かすとも言われました」


「政庁大派閥のご令嬢‥‥‥‥それくらい当然か」


「はい‥‥‥」


「カンデラも何か非常時には協力する方針だ。余り背負うなよ。先生」


「ハハハ、その言葉だけでも頼もしいですよ。また来ます。ラテ亭主」



▽▽▽▽▽


〖メイヤの洋服店〗


「毎度あり~!何時も何時もこんなに買って頂きありがとう。マリアちゃん、アイナちゃん」


「はいっ!コス服は大好きなのでっ!」


「そうそう。そして、私はマリーが着飾るのを見るのが好きにして、メイド服はロングスカートに限るメイド好きですからな。こんなに‥‥‥買っちゃって大丈夫‥‥‥か‥‥‥な?給料飛ぶ?」


「政庁の〖発明課〗の給料なら大丈夫でしょう‥‥‥しかし、本当に大量に買いましたね。流石の財力ですね。マリアさんにアイナさんは‥‥‥‥」


リク先生が会計場に大量に積まれた服を見て少し引いている‥‥‥何故?


「はいっ!いっぱい買いました。リク先生!」


そして、私はその反対に嬉しげな表情で答える。好きな物にお金を使う仕方がない事だもの。うん。仕方がない。仕方がない。



「‥‥‥‥店出ましょうか。そろそろ、お腹も空いてきましたし、〖リリクのレストラン〗にでも行きましょう。彼処なら個室もありますからね」


「おぉ、賛成‥‥‥てっ!おいおい、マリーッ!ちょっと来いや」


「な、何ですか?アイナさん」


アイナさんは私の右手を掴むと店の少し奥へと連れ出した。


「(オイッ!どうなってんだ?何で三人?‥‥‥‥何で何も進展してねんだい?この数ヶ月何してた?マリーさんや)」


「(‥‥‥‥手記して仕事してました)」


「このアホオォォ!!親友!!!」


アイナさんが私の背中を軽く叩いた。けど‥‥‥‥


バキンッ!


「あっ!痛いぃ!!そうだった!マリーの今の身体は固かったっ!!!」


「‥‥‥‥楽しそうですね。二人共」


リク先生が笑顔で私達のやり取りを見ていた。




「ありがとうございました~!」


カラン!カラン!


三人で〖メイヤの洋服店〗を出る。


「あー、痛たたっ!」


「何かごめんなさい。アイナさん‥‥‥私」


「あー、いやいや。ふざけた私が悪いんだから。マリーは悪く無い。悪く無い。それよりもほら、リリク君のレストランに行くんでしょう?お腹も減ったし急ごう。急ごう。彼処なら純度の高い魔浮石もあるからマリーも大丈夫だしね。ねぇ?先生」


「‥‥‥‥‥」


リク先生が黙ったまま上を眺めている。


「リク先生?‥‥‥どうかされましたか?」


「そうそう何で黙ってんの?上に何かはあるわけ‥‥‥‥」


アイナさんも上を見た瞬間。静かになる。


そして、私も上を見上げ様とした瞬間。白い羽が舞い落ちてきた。


「‥‥‥‥上から白い翼の羽?‥‥‥いったい何の?」


「オオォ!!此処に居たのか?お二人さん。たくっ!政庁に居ないから。飛び回ったぜっ!リク。情報持って来てやったぜ」


「‥‥‥ロロですか。お久しぶりですね」


「おうっ!二週間振りだな。リクとアイナ‥‥‥‥それとマリア・シュリルのご令嬢様」

〖浮遊機城(クレピタークル厶)の空の騎士・ロロギア〗


そう上を見上げると、〖マキナ〗の空に浮いていたの白き羽が生えた方だった。


〖浮遊機城(クレピタークル厶)〗が誇る英雄。騎士・ロロギアさんが‥‥‥‥‥

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