第2話 記録室長リク・テリクス
「リク先生。紅茶を入れました。どうぞ‥‥‥」
その女性から発せられる声はどこか機械音の様な声。私の前に立つ女性。この世界(マキナ)で崇められている神〖ルルエラ〗の様に美しい女性をしたお人形。マリア・シュリルさん。
〖アークス教団〗が起こした人を実律型人形(マギ・オートマター)に変えるという非人道的な〖魔機(エスク)〗の呪い実験が行われた〖呪い人形〗事件。
彼女はそれに巻き込まれ、人形‥‥‥‥いや、ただの人形ではなかったか。機械人形の身体になってしまいました。
マリアさんの身体の事は、時間が経ってから話していこうと思っています‥‥‥‥が。
「どうすれば貴女を戻せるか、そればかり考えてしまいますよ。僕は‥‥君が」
「はい?こちらのお飲み物の方が良かったですか?フフフ、リク先生が飲んだら身体を壊しますよ。はい、どうぞ」
マリアさんはそう言うと魔機油(オイル)が入ったティーカップを僕の机の前に置いた。
「いや、入りません。それは魔具(ミーティア)を動かす為の潤滑液(エール)ですよね?マリアさんは飲んでも平気でも、僕が飲んだら倒れますよっ!」
「クスッ‥‥‥してます。すみません。私、先生をからかってしまいました。フフフ、ごめんなさい。悪い手記人形で‥‥‥フフフ」
「‥‥はい?冗談ですか‥‥」
マリアさんはそう答えるとコロコロと楽しげに笑う。僕をからかっていつもの様に笑う。
あの事件以来、手記人形‥‥‥いや機械人形に成った被害者はかなりいた。身体は人形化したものの、被害者全員が人の心‥‥‥つまり感情と表情を失わなかった。
ですが身体だけは別だった。身体だけは全ての被害者が色々な症状を持った人形へと変えられた。
「マリアさんは相変わらず真面目そうに見えて、悪戯(いたずら)やご冗談がお好きですね」
「はい!大好きです。特にリク先生を驚かせる事が特に好きですよ。フフフ」
彼女はそう言ってまたコロコロと明るく楽しげ笑う。そして、僕はそれを見て思うのです。
やはり、呪いの人形化を解いてあげたいと。
‥‥‥しかし、手がかりを探してはいるが見つからない。毎日、魔具(ミーティア)や実律型人形(マギ・オートマター)の記録については全てチェックしている」
「やはり、下の世界に居ると言われる〖治癒師〗を探して、人形化の呪いを解いてもらうのが一番ですかね?マリアさん」
「呪いを解ける〖治癒師〗さんですか?そんな方がこの世界の何処かに入るんですか?」
「まぁ、僕も友人のロロギアから聞いただけなので本当に下の世界に居るのかは定かではありませんがね」
「ロロギアさんですか‥‥‥‥確か浮遊機城(クレピタークル厶)の天空騎士の方ですよね?」
「えぇ、良くご存じですね、マリアさん。流石、日頃からちゃんと勉強されているだけの事はある。ロロギアいわく、下の世界には色々な大陸があり、その大陸の一つに身体の傷、あらゆる呪い、心の傷まで癒す万能の〖治癒師〗が何処かに居るらしいのです。てすから、その方に頼み、マリアさんや他の方々がかかった呪い‥‥‥アークス教団によりかけられた人形化の呪いを解けるかも知れないのです」
「‥‥‥‥そうなれると嬉しいですね。もし、人間に戻れたら、昔の様にリク先生と〖マキナ〗公国の色々な所をまた見て回りたいです。楽しい時間を共に‥‥‥作りたい」
「‥‥‥‥マリアさん」
彼女は悲しそうに涙を流した。手記人形の潤滑油(エール)ではない。人間としての悲しみの涙を‥‥‥
僕の心の中で何かがさざめく、何かを思う。彼女を、マリアさんを救いたいと強く思うのです。
そして、ふと僕の仕事スペースの机に山積みになっている〖記録書〗の一つの文字が目に入り、それを手に取る。
「〖ユグドラの万能薬〗の記録書ですか‥‥‥‥これは手がかりになるでしょうか?ねぇ?マリアさん」
「え?‥‥‥リク先生。それは数日前に手記が終わった〖記録書〗です」
「そうでしたね。場所はエクシルス通りの魔具(ミーティア)の老舗店〖カンデラ〗ですか。成る程、此処ならもしかしたらあるかもしれませんね」
「‥‥‥‥あの?先生‥‥‥‥」
カラーン!カラーン!カラーン!カラーン!
「ちょうど良く、今日の仕事の終わりを告げる浮遊機城(クレピタークル厶)の鐘の音が聴こえて来ましたし‥‥‥魔具(ミーティア)の店。〖カンデラ〗に行ってみましょうか。マリア‥‥‥」
「へ?は、はいっ!デートですね、私、嬉しいです。リク先生」
「‥‥‥いえ、建前は〖記録院〗としての仕事ということにしておきましょう。マリアさん、では準備ができ次第出発ですっ!」
「‥‥‥‥はい。仕事として行くんですね。了解です‥‥‥リク先生のバカ。何が〖記録院〗としての仕事ですか。(ボソッ)」
マリアさんの声が本当に機械音的に聴こえた。そして、〖カンデラ〗に行く前のマリアさんは何故か、不機嫌になってしまって、エクシルス通りに到着するまで、気まずい状況になっていたのは何故何でしょうか?
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