第2話 ウィザードパンク! 2
自分が何者であるのかを自覚した時、ナイヴ・ライフスは戸惑いよりも納得感が先に立ったのをよく覚えている。
普通ならまず自分の正気を疑うような、自分は異世界から転生してきたという自覚をすんなり受け入れたのもそのせいだ。
パズルのピースを嵌めるように、今まで自分が感じてきた違和感の正体が露わになっていく感覚。それは全能感にも似ていたが、それと同時に九歳だったナイヴを
世界がちょっと酷すぎた。
前世の記憶から引っ張ってきた言葉で言うなら、サイバーパンクな世界だった。
それも碌でもない方の。
雨とかネオンとか巨大な高層ビルに、巨大企業が世界を牛耳っていて超が付く格差社会で、ニヒルな笑みを浮かべて「この街では誰も信じるな、それが鉄則だ」みたいなセリフが似合いそうな、そんな世界だった。
唯一、違う点をあげるとするならば、
九歳のナイヴ・ライフスからすれば、大した違いでは無かったが。
*
おっかねぇ。
今にも追撃がきそうだったので、効果が低くなるのを承知で急ぎ魔術を使ったが正解だったとナイヴは安堵した。殺しきれなかったのが残念だが、欲をかいていれば死んでいたのは自分の方だったろう。
どっと疲れが押し寄せてくる。
碌でもない異世界の、碌でもない街の、碌でもない
チートも身分も何もないからと、生きる為になった
ナイヴは後部座席にグッタリと座りながら口から出そうになる溜息を堪える。
バー『無駄働き』のオーナーは金に汚いし性格も口も悪いが、自分が世話をしている傭停に嘘を教える程には終わっていない。
そうだとしたら依頼主が最初から嘘をついていた事になる。なるのだが、依頼主が誘拐された娘の親である、というのは『無駄働き』のオーナーも裏を取っている。
依頼主が、誘拐犯が
ちょっとした
ただの誘拐事件で出てくるようなコマじゃない。
ああ、糞。ナイヴは喉元までせり上がってくる溜息を必死で飲み干す。だがまぁ状況は状況で、この街ではいつもの事なのだ。
誰かが誰かを利用しようとしていて、今回はその最終的なツケを払うのが俺というだけなのだ。
そんな生活から抜け出す為にナイヴは傭停をやっているのだ。時には街で英雄視すらされる、馬鹿と馬鹿の間を飛び回り跳ねまわり、騙されたり血を吐いたり、腹に穴が
ナイヴは思わず顔を覆った、全て身に覚えがあった。
碌でもねぇ仕事をしてるな俺。本当に碌でもない。
いつかは金を貯めて自分の事務所を立てて人を雇って悠々自適な平穏な生活をする、という夢の為に。誰でもなれて、誰にでも一攫千金の夢がある傭停をやっているが、自分は何かヒドイ間違いをおかしているのではないかと、ナイヴは悩みそうになった。
その考えを断ち切ったのは少女の――
「ねぇ! カルフォルニアって何なの!?」
その声に、もっと言うのならば、その声を発する少女の瞳に、隠す気のない好奇心でギラギラと光る瞳を見て。
この状況でよくもまぁそんな疑問が出てくるもんだと、ナイヴは我慢に我慢を重ねた溜息を吐いた。
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