第25話 王都のオバケ屋敷


(前世の私、キャラ濃いなー!)


 王都に到着する予定日の朝。見たばかりの夢に対してセルフツッコミをしてしまう私であった。


(……そういえば、前世の私から一方的に知識を得たり思考が流れ込んできたりすることはあっても、会話をしたことはなかったなぁ)


 今度じっくりおしゃべりしてみるのも面白いかもしれない。どうやればいいかは分からないけど。


 それはともかくとして。

 地面を波打たせて岩を転がすというのは意外と難易度が高く、王都に帰るまで三日もかかってしまった。

 久しぶりにお爺さまと野宿&狩った魔物を使って解体方法を教えてもらったので有意義な時間は過ごせたのだけどね。皮を剥ぐのがちょっと難しかった。


 ちなみにおばあ様はまだ領地での仕事があるので別行動だ。でもなければ魔物の解体なんてできないよねさすがに。


 おばあ様はやるべきことをやった後なら比較的自由にさせてくれるけれど、それも貴族としての範囲内でのこと。たとえば魔法研究者や発明家になる貴族は(後継ぎでなければ)普通にいるからそれに類することは許してくれると思う。


 逆に言えばその範囲外のことは不許可となってしまう。狩りをする貴族はいても、獲物を自分で解体することはない。


 職業に貴賎無し。というのは前世日本での常識。この世界では確固たる身分制度があるし職に貴賎は存在する。そして家畜の解体はかなり下の方の役割。


(身分制度とか超面倒くさいよねー)


 内心そう思っていても口にはしない9歳児。だって私は身分制度の恩恵を受けている側の人間だものね。そんな私が何かを言ったところで説得力がない。身分制度が嫌なら家を出て庶民として暮らしてみろって話になってしまう。


 当然私としてはウェルカムなのである程度金儲けが軌道に乗ったら独立する気満々だ。現状でも冒険者としてならすぐに独立できるだろうけど。ストーンスネイクを単独撃破できるのだからBランクくらいには問題なく到達できるはず。


(ま~でもある程度お金を稼いでからの方がいいよね絶対。冒険者とスローライフって対極に位置しているし。家族にしたって経済的な余裕を見せた方が安心してくれるはず)


 うちの次期当主は弟のアルフだし、私に政略結婚をさせるほどレナード家は権力に飢えていない。そもそも貴族籍を金で買ったのだって王国の財政難を助けるためだったらしいし。


 そんな家なのだから本質は貴族よりも商人――平民に近い。私が本当に望めば市井での生活も許されるだろう。

 ……元王族であるおばあ様の説得には少し骨が折れそうだけど。


 今からおばあ様の説得方法を考えておくか~とか、独立したらナユハを秘書としてスカウトしようとか考えながら王都の屋敷に到着した私は、首をかしげた。銭湯を建築するために買い取った隣の空き屋敷の解体が進んでいなかったのだ。


 内装から売れそうなものを撤去するのに時間が掛かっている……にしても解体のための骨組みを組むことくらいはできるはずだし、業者が出入りしている様子もない。


 お父様の部屋に赴き、お爺さまと一緒に帰宅の挨拶をした私はその疑問をぶつけてみることにした。


「お父様。隣の屋敷はまだ解体しないのですか?」


 私の質問を受けてお父様はまた胃の辺りを押さえてしまった。


「予定ではもう解体は始まっているはずだったのだけどね。どうも、その……、幽霊が出たらしくて」


「幽霊ですか?」


 思わず首をかしげてしまう私。

 前世とは違い、この世界の人間は大半が幽霊を信じている。そもそもが魔法のある世界だし、スケルトンやゾンビ、ファントムといった『本来は死んでいる』魔物も頻繁に出没するためだ。


 そして、そんな世界であるから幽霊への対処法も発達している。屋敷に出る幽霊ならたぶんファントムかゴーストだろうけど、それだったら教会にお布施をして神官を派遣してもらえば半日もかからず除霊が完了する。


 私が首をかしげたのはそんな簡単な対処をお父様がしないはずがないと確信しているから。除霊費――じゃなくてお布施をけちるなんてこともないだろうし。


「なにか厄介な幽霊なのですか? たとえばリッチとか……」


 リッチとは簡単に言えば王様や大賢者といった『生前凄かった人』の幽霊であり、並の神官では“格”が負けてしまい除霊ができないという話を聞いたことがある。


 あと強力な魔法使いが自分からアンデッドになった場合もリッチと呼ぶことがあるみたい。


 どちらにせよリッチが出た場合は大神官クラスの人材を派遣してもらわないといけないので解体作業が進んでいないのも頷ける。凄い人はそれだけ忙しいのだ。


 私の予想にお父様は首を横に振った。


「いや、話を聞くに幽霊自体は普通のゴーストだと思う。ただ……その幽霊は黒髪だったらしくてね。『悪魔に違いない』と神官が逃げ出してしまったのだよ」


「…………」


 ナユハと友達になった私としてはその神官を一発殴りたい。

 というか黒髪が仮に悪魔だったとして、悪魔相手に逃げ出すのは神官としてどうなのさ。職務放棄も甚だしい。


 怒るべきか呆れるべきか。私が微妙な顔をしていると隣に立っていたお爺さまが肩を叩いてきた。


「よし、その幽霊退治、俺(・)とリリアがやろうじゃないか」


「へ?」


 普段のお爺さまは一人称『私』なのだけど。どうやら元冒険者としての血が騒いでしまったみたい。口調もちょっと乱雑になっているし。


「リリアの友達のためだ、黒髪は悪魔なんかじゃなくただの幽霊だって証明してやらないとな」


「あ、はぁ……」


 私は別に黒髪=悪魔だなんて考えていないし、その逃げ出した神官が言っているだけなのだから証明する必要なんてないと思う。というか幽霊退治なんて面倒くさい。


 でもなぁ。屋敷を解体してくれないと銭湯や温泉水路の建設ができないし、そうなるとナユハの元に遊びに行けるのが遅くなってしまう。


 やるしかないか。今日くらい部屋でごろごろして旅の疲れを癒やしたかったのになぁ。

 どうしてこうなった……。


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