第16話 閑話 ナユハの想い
――綺麗な子だった。
まだ十にも満たない年齢だというのに、『彼女(リリア)』は将来獲得するであろう美貌の片鱗をすでに漂わせていた。
伝説に謳われた銀色の髪は日の光を受けてキラキラと輝いていて、神話に語られる赤色の瞳は宝石よりもなお美しく煌めいている。
それに対して、私はどうだろう?
不吉の象徴とされる黒い髪。
闇を閉じ込めたような黒い瞳。
およそ美の基準からかけ離れたそれらは自分ですら疎ましく思ってしまう代物であり。こんな私を見た人間が不愉快な顔をしてしまうのも心底納得できてしまっていた。
友達はできなかった。
領民からは恐れられた。
使用人たちも、私への嫌悪感を隠さなかった。
いっそのこと、こんな髪なんて剃ってしまいたい。
こんな瞳なんて潰してしまいたい。
それをしなかったのは、お父様がいたからだ。
それを今もしないのは、お父様に対する弔いだ。
私の髪を、瞳を、唯一認めてくれたお父様。唯一褒めてくれたお父様。たとえ世紀の大罪人であったとしても、私にとってはただ一人の父であり、ただ一人の味方であったのだ。
つまるところ、私は亡きお父様のために自分の黒目黒髪を受け入れていた。鉱山で働くようになってからも貴族令嬢のように長髪を維持し、できうる限りの手入れもしてきた。
漆黒をさらして生きるのはお父様のため。
お父様のためにと、自分自身が決めた道。
だけれども、そんな私でも美しさの頂点に立つ銀髪赤目の少女を前にしては恥辱しか感じることができなかった。
あぁ、私はなぜ黒い髪をしているのだろう。
なぜ黒い瞳なのだろう。
どうせ生まれるのなら銀の髪がよかった。
いいや、そんな贅沢は言わないから、せめて他の人と同じ茶色の髪が欲しかった。
こんな会う人会う人から驚かれ、嫌われ、避けられる髪ではなく……。
ほら、銀髪の少女も驚愕で目を見開いている。
この後に予想される反応は様々だ。泣き叫ばれるか。逃げられるか。石を投げられるか。銀髪の子は幼少期から大人に匹敵する魔法が使えるらしいから攻撃魔法が飛んでくるかもしれない。
内心で畏れ、諦観している私に向けて銀の少女は口を開き、そして――
「――綺麗な髪ですね」
その言葉がどれだ衝撃的だったか。
どれだけ嬉しかったか。
きっと少女は理解していないのだろう。
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