第15話 カメラ(レーザー)

 少しばかり重苦しい雰囲気が漂ってきた。


 よし、ぶち壊そう。


 ノータイムで決断する私。

 なぜなら私の前世の渾名はシリアス・デストロイヤー。重苦しい空気なんて星の彼方まで吹き飛ばしちゃうぜ。


「まぁ、私がどう見られているのかなんて重要じゃないよね。――重要なのは、ナユハが妖精さんからのイタズラの避雷針になってくれるってことだし」


「え? ……え!?」


「いや~助かるよ。妖精さんも自分の姿が見えない相手へのイタズラだとやる気が削がれちゃうみたいでさ。今までは私が一身に被害を引き受けていたんだけど……妖精さん、さっきから『やってやるぜ!』とばかりにイタズラする隙を狙っているんだけど、気付いてなかった?」


 私の周りにいる妖精さんは特にヤバいのが多いのさ。決して類が友を呼んだわけではない。と信じたい。


「え、うそ、ほんとうに?」


 ナユハが恐る恐るといった様子で目線だけ動かして妖精さんの姿を確認し、絶句した。その光景はまるで壁際に追いやられたネズミと、今にも飛びかかるとする猫(複数)である。


 なんというか、ご愁傷様? 窮鼠猫を噛むことを祈っているよ。



『小豆研ごうかー』

『人取って喰おかー』

『ショキショキー』

『ショキショキー』

『喰べちゃうぞー』



 なぜか前世の妖怪、小豆洗いのセリフを唱えながら妖精さんたちがナユハに襲いかかった。


 うん、妖精さんには『悪人を頭からボリボリ食う』という伝説があるけれど……まぁナユハは悪人じゃないし大丈夫だろう。


 ぴぎゃー。そんなナユハの絶叫を横目(横耳?)に私はカメラ製作を再開させた。先ほど穴は開けたので、あとは感光紙を――


 …………。


 この世界には感光紙もフィルムもない!


 よく考えれば当たり前じゃないか! 何で今の今まで気付かないかなぁ私! くっ、ナユハを見捨てた罰が当たったか!


 いやしかし慌てるような時間じゃない! 感光紙がないなら……そう! 魔法! 魔法で何とかしよう! ヒロインのチートなら何とかできるはずだ!


 え~っと、とりあえず光を操れば何とかなるかな? となると、雷系の魔法? 光るんだし応用できるんじゃないかな、きっとできるさ、できるといいなぁ。


 ちなみに語感からして聖魔法の方が光を操りやすそうだけど、実際の聖魔法は時間操作系なので論外だったりする。患部の時間を巻き戻して傷を治すという理屈ね。

 で、それと対となる闇魔法は空間操作系。テレポートも実はこの系統だったりする。


 聖と闇。実際は時空系の魔法。

 なんでそんな名前になっているかというと、この国の建国神(金髪金眼の美女)が時間を操り未来を見通す力を持っていたから聖なる力=聖魔法。それに敵対した邪神が空間操作系の力を持っていたから邪悪な力=闇魔法となったらしい。


 だから他の国では普通に時間魔法・空間魔法と呼称していることの方が多い。この国が特殊というだけで。

 治癒魔法に関して言えば『聖魔法』の方がそれっぽいけどね。


 ……あれ? よく考えたら私って(神話的に考えれば)主神と邪神の力を使えるのか。チートもここまで来ると笑えてくるね。神にも悪魔にもなれる美少女・リリアちゃんである。

 写真は魂が抜き取られるって俗説もあるし、それを作ろうとしている私は悪魔かな?


 なぁんてことを考えながら私は妖精さんに頼んでお爺さまの仕事場から紙を数枚盗って――じゃなくて譲ってもらうことにした。


 この世界ではパピルスっぽい植物を原料にした紙が大量生産されている。それとは別に公式な書類ではまだ羊皮紙も使われていたりして……まぁ前世の世界とそれほどの違いはないと思う。

 無論、我がレナード家が取り扱う紙は最高級品だともさ。


(しかし、羊皮紙かぁ。魔法のある世界なのに前世と同じ動物もいるんだね。もちろんドラゴンなんかは違うけど……。う~ん、でも正直リリア(わたし)的にはゲームの世界だって実感が薄いんだよねぇ。確かに前世の知識と合致することも多いのだけど)


 信じたくない、というのが本音なのかもしれない。9年も生きていた世界が作り物でしたと教えられても実感なんてできないし、しょうがない部分もあるのかな?


 ……それに、どうでもいい問題でもある。

 この世界が現実だろうが、作り物であろうが。私が私として生きていることに変わりはないのだから。


(ゲームのヒロインならここでしばらく苦悩する場面だろうにね。ほんと私ってヒロインらしくない性格しているなぁ)


 自分のポジティブさに苦笑していると妖精さんが紙束を抱えて戻ってきた。

 紙束から一枚抜き取り、カメラの中にセットする。そしてカメラを手にして写したいもの――妖精さんから必死に逃げているナユハ、は、ブレそうなので近場の岩肌に向けた。


 要は光を使って紙に光景を焼き付ければいいのだから、魔法でいい感じにやれば写真っぽいものができあがる、はず。


「むっ! 来てます、来てます……。今なら何でも写せそうな気がする! 雷魔法、ファイヤー!」


 雷なのにファイヤー? という突っ込みは受け付けておりません。

 雷魔法を限界まで引き絞って私はカメラのピンホールに流し込んでみた。うまくいくかは分からないけど失敗したらやり直せばいいだけだしね。


 結果として。

 なぜかカメラ本体からレーザービームっぽいものが出た。びゅん! って。

 雷光がごときレーザー(?)はフォーカスした岩肌に着弾。大轟音と共にちょっとした崖崩れを巻き起こした。


 ……どうしてこうなった?


 幸いにして岩肌から離れた場所にいたナユハに被害はなく(妖精さん? 爆発くらいで傷ついてくれたら苦労しない)、比較的近くにいた私も自動防衛系のスキルが発動したのでケガはなかった。


 しかし、レーザー(?)を発射した影響かカメラは無残にも灰燼に帰してしまった。これでは失敗してもやり直せないじゃないか。


 どうしてこうなった……。




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