第14話 愛し子
「――キュ○ピー三分メイキングー!」
両手を広げながら高らかに開幕を宣言した私である。もちろんBGMは三分で料理ができるあの番組ね。以心伝心な妖精さんたちがどこからか持ってきたミニマムサイズな楽器で演奏してくれている。
たぶん、『なんで異世界の妖精があの曲を知っているの?』というツッコミをしたら負けだ。何かに負けてしまう。
「お、お~?」
状況が理解できないながらもとりあえず拍手をしてくれるナユハ。うん、この押しの弱さはちょっと心配になってくるね。美少女なのだから悪い男に引っかからないよう気をつけさせないと。
ちなみにここは採石場の端にあるちょっとした平地だ。他の作業の邪魔にならず、しかも色々|やらかす(・・・・)のに丁度いい広さをしている。三方が崖に囲まれているのでそんなに音も漏れない……と思う。
「はい! では今日はカメラを作りたいと思います! 日本語で言うなら……写真撮影機? かな? まぁとにかく私の前世知識をフル動員させれば結構いいものができるはず!」
「かめら? にほんご……しゃしん?」
可愛らしく小首をかしげるナユハちゃん。でも説明していると三分で作れないからまた後でね。
なお三分で作ることの意味は特にない。ノリと勢いは大事である。
つくって遊ぶゴロ○のようにナユハを横に立たせてから私は一辺が30センチくらいの四角い箱を取り出した。
「はい、妖精さんにゴミ捨て場からいい感じの木箱を盗って――じゃなかった。妖精さんの不思議パワーでカメラ本体に使えそうな箱が手に入ったのでさっそくレンズ代わりの穴を開けます。魔法でちょちょいのちょいってね!」
私がノリノリで解説していると数人(匹?)の妖精さんが顔を寄せてなにやらコソコソ話をし始めた。
『ちょちょいのちょいだってー』
『やっぱり言葉のチョイスが古いよねー』
『いくら外見が美少女でも中身がオバサンじゃあねー』
「はいそこ! ケンカを売るなら真っ正面から売ってきなさい! っていうか前世でもオバサンって歳じゃねぇえっ! 身も心もピッチピチじゃーっ!」
むがー! とクマのように両手が振り上げると妖精さんたちは楽しそうに四方八方へと散っていった。今日もまた大絶賛からかわれ中である。
あ、腕を振り上げたときに箱落としちゃった。
しゃがんで箱を拾い、手の上でくるくる回してみる。幸い壊れてはいないみたいだ。
と、ここで気付く。
普通の人には妖精さんの姿は見えないし、声も聞こえない。説明しようにも相手には妖精さんが見えていないのだから説得力皆無だ。
(今の私って、ナユハから見たら一人で絶叫している痛い人じゃーん)
思わず頭を抱えてしまう私。まぁでも変人扱いされるのには慣れているし、そもそも妖精さんとのやりとり以前からだいぶ痛い言動をしているのでたぶんセーフだろう。うん、ポジティブシンキングは大切だ。
すくっと立ち上がりナユハに対して爽やかな笑顔を向ける。
「あー、ナユハさんや。今のはですね、」
口を動かしながら私がどう説明するかなぁと悩んでいると、ナユハは唇を震わせながら私に尋ねてきた。
「あ、あの、リリア様は妖精が見えるのですか? 声が聞こえるのですか?」
うん?
この言い方は……。
「ナユハも『愛し子』なの?」
妖精さんの姿が見え、声が聞こえる人間のことをそう呼ぶらしいのだ。
「い、いえ! 私などが妖精様に愛されるはずなどありません! ただお姿を視認でき、声が聞こえるだけで! 愛されるなどとてもとても!」
「……妖精様ねぇ?」
近くにいた妖精さんの襟をつまんでみる私。こんなデフォルメ顔相手に様付けするのはちょっと無理があるよね。まさかほんとに頭からボリボリと食われるとでも?
ただ、そんな私の行動を見てナユハは顔を蒼くしていたので、妖精さんにからかわれすぎた私の感覚が麻痺しているだけなのかもしれない。
ナユハの口ぶりでは妖精さんの姿が見え声が聞こえることと“妖精の愛し子”であることには大きな差があるらしい。
つまりナユハにとって妖精さんとは恐れの対象であって仲良く遊ぶような存在ではないと。
「……あ、でも、それだけでも助かるね」
「は、はい?」
「だってナユハって妖精さんが見えるんでしょう? だったら私が妖精さんと遊んでいても奇異の目で見たりはしないじゃん」
なにせ普通の人からは私が一人で騒いでいるように見えるらしいのだ。前世で言うと狐憑きみたいな感じかな?
私の説明を聞いてナユハは言葉を失っていた。あれ? 別におかしなことは言っていない……はず、だよね? 普段やらかしすぎているせいかちょっと自信ないなぁアハハハハ。
「その、“銀髪”であるリリア様でも奇異の目で見られるのですか?」
「うん? そーだね。かなりの変人扱いをされているよ」
「しかし、銀髪とは優秀な魔法使いの証です。建国神話の時代より語り継がれてきた銀髪で、しかも赤目なのに、それでもおかしな人扱いを受けてしまうのですか?」
この国を建国した金髪金眼の神様と、彼女に付き従った銀髪赤目の大魔法使いは子供でも知っている昔話だ。その昔話があるからこそ金髪は高貴さの証であるし銀髪は優秀な魔法使いになると言われている。
でもねぇ。
「銀髪は確かに凄いって言われているけどねー。そんなものはおとぎ話や伝説の世界の話だもの。今を生きる人たちにとって『珍しい美しい』以外の意味はないんじゃないのかな? 変なことをしたら笑われるし、悪いことをすれば怒られるよ」
だいたい、いくら銀髪の人間が魔法の才能を有していたとしても(大昔ならとにかく)国家や軍隊には太刀打ちできないのだし。相対的な利用価値は昔より下がっているだろう。
あぁ、私の師匠なら国の一つや二つ滅ぼせるかもしれないけどね。そんな歴史に残る規格外と、か弱い美少女リリアちゃんを比べてはいけません。
……こら、妖精さんたち。なぜ呆れたように肩をすくめるのか。
「そんな……」
言葉を失うナユハ。
たぶんだけど、銀髪に対しての過剰な期待があったのかな? 黒髪の自分に比べて特別扱いされているに違いない、って感じに。
やれやれ。
「何か勘違いしていない? この銀髪は、確かに血統主義の人間は褒め称えてくるけれど、それもあくまで“銀髪の嫁”や“銀髪の血”が欲しいだけ。私という個人は端から相手にされていない。無意味に注目されるだけで私が得することは何もないよ」
黒髪に比べて人から好かれやすいって? 外見で判断するような連中から好かれてどうするのさ。少なくとも私にとっては何の意味もない。
「…………」
下を向いてしまったナユハがどんな顔をしているのかは分からない。驚いているのかもしれないし、悲嘆しているかもしれない。あるいは、『持って生まれた者』である私の口ぶりに怒りを覚えているかもね。
少しばかり重苦しい雰囲気が漂ってきた。
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