第17話 ストーンスネイク
「どうしてこうなった……」
燃え尽きたカメラ(仮)の前でうなだれる私、リリア・レナード。自分の不器用さにちょっと呆れてしまうのですよ、はい。
『どんまいどんまいー』
『元気だせー』
『まぁスキル“未熟なるもの”を持っているからしょうがないよねー』
ふよふよと妖精さんが集まってきて励ましてくれた。いつもより数が少ないのはナユハと遊んでいるからかな?
うん、励ましてくれるのは嬉しいのだけど、最後の“未熟なるもの”って何さ? もしかして私のスキル?
私が内心で首をかしげていると妖精さんたちが唐突に仮面なライダーの変身ポーズを決めながら説明し始めた。え~っと、一号、二号、BLACKにRXかな?
『知らぬのならば教えよう!』
『未熟なるものとは、生まれつき強大な力を持つ者が獲得しやすい称号(スキル)なのだ!』
『このスキルを持つ者は自らの力を制御できずに暴走させてしまうことがある! その頻度は用いる力や変化する事象の大きさによって上下する!』
『通常は成長するにつれてスキルの効果は薄まっていくからご安心!』
「お、おう?」
スキルの内容よりも妖精さんが饒舌にしゃべり出したことにビックリですよ私は。いつもの間延びした口調はどこ行ったのさ?
『――未熟であるが故、隙がある。未熟であるが故、放っておけない。完璧な人間ほどつまらないものはなく、故にこそ、この称号を持つ者は良き出会いに恵まれる』
最後だけ少し真面目な口調で妖精さんは締めくくった。
「……よく分からん」
思わず貴族らしくない言葉遣いをしてしまう私。う~ん、とりあえず、私が失敗したのはこのスキルのせいで、私のせいじゃないと解釈すればいいのかな?
妖精さんたちが『そんなわけないじゃんー』、『失敗したのは実力さー』、『よっ、未熟者ー』とケンカを売ってきたので雷系の魔法を落としておいた。もちろん無傷だったけどね。
「まったく、励ましてくれた直後に貶すとは悪魔のような存在だね」
しかし、未熟なのは9歳だからと言い訳するにしても、気になるのは最後の説明だ。
完璧な人間がつまらないというのは、まぁ分かる気がする。前世の私もパーフェクトピーポーにはまったく興味を抱けなかったし。
でも、なんでそれと良き出会いがイコールで繋がるのかねぇ?
ダメな人間は放っておけないから? 庇護欲を刺激しちゃってる?
うむむ……と私が首をかしげていると。
「り、リリア様! 先ほどの爆発は!? おケガはありませんか!?」
どこか悲壮感すら感じさせる声を上げながらナユハが駆け寄って――いや、歩くくらいの速さで近づいてきた。ナユハの足やら腕やらに妖精さんが纏わり付いてうまく動けていないのだ。
「…………」
ナユハにとって妖精さんはたぶん“畏れ”の対象だ。恐がり、敬い、自分などでは接することすらはばかられる存在。
そんな妖精さんに纏わり付かれながらも私の心配をしてくれるナユハは間違いなく底抜けの善人であり……。
「……良き出会いに恵まれる、か」
思わずつぶやいた言葉に苦笑してしまう。
魔法を使って色々と『やらかしてしまう』のは困ってしまうのだけれども。それがスキルの力だとしたら、ナユハみたいな善人と巡り合うきっかけになったのだし、ちょっとくらい感謝してもいいのかもしれない。
ナユハに向けて手を振りながら私はそんなことを考えた。
…………。
うんうん、我ながらいい展開だ。いいお話だ。小説ならばここで幸せな雰囲気のまま一区切りと言ったところ。
でも。
残念ながら、私はそんな平穏無事な星の下には生まれていないようなのだ。自覚のありなしにかかわらずいい雰囲気とかシリアスな展開を完全破壊してしまう。
それは前世の頃からそうであったようで、前世の親友が付けやがったあだ名はシリアス・デストロイヤー。
……私(わたし)を一体何だと思っているんだ?
とりあえず、前世の親友とはもう一度腹を割って話し合うべきだろう。主に私の評価について。
まぁ、話し合うには親友もこの世界に転生していないとだから無理だけどねー。
…………。
………………。
……あ、もしかして“フラグ”を立てちゃったかな私?
私が冷や汗を流していると――、妖精さんを引きずりながらこちらに近づいてきていたナユハの動きが止まり、視線が私の背後へと移動した。
その先にはカメラレーザーの直撃で破壊された岩肌があるはずで、ナユハの表情からしてまた厄介な事態が進行していそう。
ナユハの視線を辿るように私が振り向くと――崩れた崖面から、見上げるほどに大きな蛇が這い出してきた。
ストーンスネイク。
生ける岩石。呪い受けし大蛇。その表面は本来生物ではありえない鉱石の鱗で覆われており、通常の弓矢や剣など簡単に弾き返してしまうほどの防御力を有している。
元々大人しい性格であり危険性という意味でのランクはE。ただし戦った場合の脅威度で考えるとBランクに跳ね上がる。
つまりはBランク冒険者か、Cランクの冒険者がパーティーを組んでやっと討伐できる魔物。
その本質は岩石に近く、普段は山と同化して眠りについており人前に姿を現すことは希だ。もし遭遇したとしてもストーンスネイクは肉をエサとはしていないので人間が襲われる心配はない。
ない、はず、なのだけど?
ストーンスネイクさんはいかにも不機嫌そうな目で私を睨み付けていた。
あー、私のせいで安眠妨害されて怒り狂っているパターンですか? あるいは攻撃されたと勘違いしたか。
それについては100%私が悪いので謝罪することもやぶさかじゃない。
「えっと、ゴメンなさい。悪気はなかったと言いますか……。崩れた崖は魔法で元に戻しますので、ここは怒りを静めてはもらえませんかね?」
私が秘技・『美少女が少し困ったような笑顔を浮かべながら謝る!』を繰り出すと……。なぜだかストーンスネイクさんはこちらに殺気を向けてきた。お爺さまと修行しているおかげかこういう殺気とか敵意には敏感なのですよ。
え、というか、なんで? なんで殺気向けられているの私?
『知識不足ー』
『天然トラブルメーカー』
『ストーンスネイクにとって人間の笑顔は“宣戦布告”しているように見えるんだよねー』
妖精さんの言葉に愕然とする私である。
「何それ初耳! 異文化コミュニケーション! 謝罪したつもりが地雷を踏み抜いたの私!? どうしてこうなった!?」
『そもそもストーンスネイク相手に話しかけてる時点でねー』
『お笑いだよねー』
『人間の言葉が通じるわけないじゃんー』
「ごもっともで!」
容赦のないツッコミに天を仰ぐしかない私である。
ここで魔物と心通わせることのできるスキルでも持っていれば万事解決なのだけど。残念ながら私にそんなヒロインっぽいスキルはない。と思う。
自らのスキルも把握していないのは中世ファンタジー的な世界観的にどうかと思うのだけど、幼い頃にスキルを見てくれた鑑定士のおじさんが『おぉ! 私は何と罪深いことを!
自分で自分を鑑定するわけにもいかないしねぇ。鏡を使ってもスキルは見えないのだ。
「――――――ッ!」
私と妖精さんたちが緊迫感のないやりとりを繰り広げていると、ストーンスネイクが何とも文章にしがたい唸り声を上げた。岩と岩が軋み合ったかのような、とでも表現しようか?
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