第7話 おじいさま


 レナード邸の隣は数十年買い手が付いていない空き屋敷だ。


 そんな隣の空き屋敷と土地を購入し、屋敷は解体して銭湯にするという話になった。


 屋敷なんて炎系の魔法で灰にしちゃえばいいじゃん、火の粉が飛ばないよう周りを結界で覆ってさ。……と、提案したらまたお父様が胃の辺りを押さえてしまったので大人しく引き下がったリリアちゃんである。


 我ながらよくできた娘だね。


 もちろん、よくできた娘なのでお金のことはちゃんと話し合いますよ?


 お父様と交渉して温泉の発見&公衆浴場のアイディア料&建設準備の手間賃ということで浴場の純利益の3%を支払ってもらえるようにしてもらった。ちょっと少ないがまだ9歳なのだからこんなものだろう。


 入浴文化の廃れたこの国で公衆浴場が売り上げを伸ばせるかどうかは未知数だけど、とりあえず元日本人(お風呂好き)としては成功を前提にして行動するべきだね。なぜならお風呂にはそれだけの力があるのだから。


 と、いうわけで行動を開始した私はレナード邸の別館に足を運んだ。お父様に当主の地位を押しつけた――じゃなくて、平穏無事に世代交代を成し遂げたお爺さまが隠居している住まいだ。


 お爺さま、とは呼ぶけれど確かまだ四十代だったはず。この国は十代後半で結婚子作りするのが普通だから孫がいても三十代四十代という人も多いのだ。


 ただ、お爺さまの学友である国王陛下の場合は色々あったらしく、お爺さまの孫である私と、陛下の息子である王太子殿下が同い年となっている。


 えぇ、そう。その王太子こそゲームにおける攻略キャラの一人だ。最初はバッドエンドルートしかなく、他のルートを全部クリアするとトゥルーエンドが解放される系のメインヒーロー。学園に行けば何かと関わりができるだろう。


(……まぁ、今のところはそんなに気にしなくてもいいか)


 恋愛やら何やらは未来の自分に丸投げするとして、私は別館の玄関に付いている呼び鈴を鳴らした。数分も待たずに扉が内側から開けられる。


 ドアを開けてくれたのは金色の髪が眩しいメイドさんだった。少しつり上がった目が印象的な、二十代前半くらいに見える美人さん。先の尖った耳が印象的だね。


「あら、リリア様。お久しぶりでございます」


 私を見て懇切丁寧な一礼をしてくれたメイドさんの名前はアーテルさん。いわゆるエルフという種族であり、かなり若い見た目をしているけど実年齢は百を超えているらしい。


 ちなみにメイドをしているけどお爺さまの二人目の奥さんだ。


 そう、この世界は男女問わずに重婚が認められていて、原作ゲームにおいては『逆ハールート』があったのだ。むしろ逆ハーendのために重婚がある世界観にしたのかな?


 ……いや、王太子やら宰相の息子やら、将来の国を担っていく男性たちが一人の女性をシェアするなんて現実的にありえないのだけれどね。そこは『ゲームだし! 二次元だし!』と全力で楽しんでしまったのが前世の私である。


 まぁ、前世の私がどうしようもない人間だったのは脇に置いておくとして。私は笑顔を浮かべながら今日の訪問目的を伝えた。


「お久しぶりですアーテルおばあ様。お爺さまに会いたいのですけど大丈夫ですか?」


 貴族が先触れもなく訪問するのは非常識だって? 大丈夫大丈夫、これは家族間のお話だし、そもそもレナード家は元平民だもの。他人の目がなければ全力で庶民っぽい行動をするのが普通なのさ。


「はい、問題ありません。アレは日がな一日ごろごろしていますから」


 メイド兼お嫁さんからアレ呼ばわりなお爺さまである。一応は国を救った英雄なのにね。


 案内をしてくれるというアーテルおばあ様。その提案は嬉しかったけど、下手をすればお爺さまがさらに『アレ』扱いされてしまうので懇切丁寧に断り、淀みない足取りでお爺さまの部屋へと向かう。


 お爺さまの部屋前に到着し、扉をノックすると即座に――、いや、正確に言えば扉を叩く直前に入室許可が下りたので迷いなくドアを開ける。

 すると、


「――リリアちゃ~ん! 久しぶりだね~!」

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