第102話 疲れたから結果を聞いたら寝たいよね。

《side フライ・エルトール》


 目を開けると、天井が見えた。いや、正確には天幕の布だ。


 どうやら野戦病院のような場所に運ばれていたらしい。薄い布越しに聞こえるざわめきと、実況と思われる声が頭に響く。


「おいおい、何があったんだ……」


 体を起こそうとすると、全身に鈍い痛みが走る。


 視界に映るのは包帯で覆われた自分の腕だ。ぼんやりと記憶をたどると、最後の戦場での激しい戦いが思い浮かぶ。


「あ、フライ様! 目を覚ましましたか?!」


 ジュリアの声がして、慌ただしくこちらに駆け寄ってくる。その顔には安堵の表情が浮かんでいた。そのまま胸に飛び込んでくるので、モフモフな頭を撫でてあげる。


 自分が決めたことではあるけど、最終決戦で身体強化を使わないで剣と放出系の魔法だけで戦いに挑んだのはなかなかに骨が折れたね。


「ジュリア……どうなったんだ?」


 ジュリアは少し目を伏せたが、すぐに笑顔を作った。


「結果が出ましたよ。実況ちゃんが今ちょうど順位を発表しているところです!」


 そう言って、彼女は天幕の外を指差した。


 外では観客たちの声援と歓声が響いている。


 外に出ると、大きなモニターに順位が映し出されていた。傷を抱えながら歩いている仲間たちが、それぞれ結果を見つめている。


「さぁ、皆さん! ついにクラウン・バトルロワイヤルの結果が出ました! 五日間にわたる熾烈な戦いを制したのは……!」


 実況ちゃんの声が響き渡る。その高揚感に、観客たちは興奮を隠せない様子だった。


 実況の声とともに結果発表がなされる。


「まずは第8位! 平民同盟! 初日に大きく削られたものの、最後までローズガーデンの兵士として健闘しました! 仲間たちとの絆が光りましたね!」


 平民同盟のリーダーが悔しそうな表情を浮かべながらも、拳を握りしめていた。その背中に仲間たちが肩を叩き、労いの言葉をかけている。


 私と目が合うと顔を真っ赤にして視線を逸らされてしまう。


「続いて、第7位! ロガン王子率いるゴールデンクロー! 圧倒的な機動力で序盤は勢いがありましたが、帝国英傑会に組み込まれた最終戦での消耗が響きました!」


 獣人たちが唸り声を上げるが、その中に不思議な一体感がある。彼らの戦いぶりは確かに印象的だった。


 ロガン王子に策士が加われば良いチームになるけど、そこが難しいところだね。


「第6位! 自由同盟! フリーダム氏が率いる竜騎士たちの絆と勢いで駆け抜けたものの、戦力不足が響きましたね。でも、彼ららしい最後を見せてくれました!」


 フリーダムがラドンの背に乗って吠える。


「まだまだやれるぜ!」


 声を張り上げている姿がスクリーンに映し出され、観客席から笑いが起きた。


「そして、第5位! 竜人族! シルバーフラッグと同盟を結び、その圧倒的な戦闘力で多くの敵を退けましたが、クラウンであるエスカルーデ選手がゴーレムによって敗北しました!」


 竜人族の代表たちが腕を組んで無言で結果を受け入れている。その目には次を見据えた鋭い光が宿っていた。


「第4位は……シルバーフラッグ! アイス王子率いる陣営です! 冷静な指揮と防御の巧みさで粘りましたが、最後の攻防で力尽きました!」


 アイス王子がスクリーンに映し出される。彼は無言のまま視線を上げ、どこか悔しそうな表情を浮かべている。


 いよいよ上位3位だな。


「さぁ、いよいよトップ3の発表です! 第3位は……ローズガーデン!」


 その声が響くと、ジュリアやノクス、バクザンたちが歓声を上げた。


「フライさん! 私たち、3位ですよ! すごいです!」

「まぁ、こんなもんだろうね。上出来だよ」


 私が軽く笑うと、ジュリアが肩を叩いてくる。ノクスも苦笑いを浮かべながら剣を支えに立っていた。


「フライ様」

「セシリア、約束は果たしたよ」

「ええ、十分な成果です。アイス王子に勝利したのも大きい結果になりました」


 セシリアの視線が悔しそうな顔をするアイス王子に向けられる。


「僕は疲れたから、しばらくはゆっくりしたいよ」

「フェスティバルも大詰めですからね。ゆっくりできますよ」


 エリザベートが私を労ってくれて、セシリアと両脇から腕を支えてくれる。


「続いて、第2位! ブライド皇子率いる英傑チーム! 終始優位に立ちながらも、最後の決着をつけることができずに惜敗!」


 スクリーンに映し出されたブライド皇子は冷たく、どこか不満げな表情を見せていた。


 どうやら上手くいったようだね。


「そして、栄えある第1位は……アクアリス・ネプチューナ率いる海人族! 最後の決戦を漁夫の利で制し、見事に優勝を飾りました!」


 スクリーンに映るアクアリスは、海のように澄んだ瞳で微笑みながら手を振っている。その姿は、彼女が計算された勝利を得たことを物語っていた。


 私はその結果を見届けながら、静かに息を吐いた。


「どうやら成功したみたいだね」


 ジュリアが私を見上げて聞いてくる。


「フライ様、次はどうしますか?」

「さぁね、ひとまずゆっくり休みたいところだけど、あのブライド皇子やアイス王子が素直に終わるとは思えないよ。次のゲームが始まるかもしれないね」


 私は肩をすくめながら、再び天幕に戻る。


 十分に学園生活を楽しんでいるね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る