第100話 激戦の果てに

 四日目の夕刻を迎えようとしていた。


 総力戦に突入した戦場は、予想通り泥沼化していた。


 どの陣営も疲労の色を隠せず、初日から次第に磨り減っていった兵士たちの姿は、見ていて痛々しいほどだった。


 空には赤い夕陽が沈みかけ、戦場の景色を血に染めているように見える。


 その中で、兵士たちが倒れていく音、魔法の炸裂音、金属のぶつかり合う音が響き渡っていた。


 ドラゴンの咆哮は、嫌というほどに響いて、ゴーレムが崩れ落ちる。


 100を超える人々とドラゴンやゴーレムなどの魔物が入り乱れ倒れていく。


「ノクス、耐えられるかい?」

「フライさん。ええ、まだやれます」


 ノクスは、既に何度も敵の攻撃を受けていた。最前線で立ち続けられる。これが彼女が物語の主人公としての強さなのだろう。


 それでも歯を食いしばり、剣を握る手に力を込めている。


「俺は平気です。ただ、他の奴らが……」


 視線の先には、ローズガーデンの兵士たちが倒れていた。


 ブライド皇子の陣営やアイス王子の陣営とぶつかったことで、打ち倒される光景が広がっていた。


 エドガーのゴーレム部隊が押し寄せ、疲弊した兵士たちは対処しきれずに蹂躙されている。また、そんなゴーレムも残りは一体になっていた。


「クソが! あいつら……!」


 バクザンが拳を握りしめ、怒りを露わにする。彼の服は裂け、体中に傷が刻まれていた。それでも鬼人族としての誇りだけで前線に立ち続けている。


 大きな戦斧が振るわれて、竜人を吹き飛ばした。


「バクザン、焦るな。ここで潰れるわけにはいかない」


 私は冷静を装いながら、じりじりと追い詰められる戦況を見つめていた。


「ふん、雑魚どもが」


 ブライド皇子の声が響く。彼の後ろには、エドガーの操る巨大なゴーレムと、冷静沈着な剣士アイクが控えていた。


 だが、ブライド皇子自身も泥に塗れ、他の兵士はいない。


「おい、エドガー! 少しは考えて動け!」


 アイクが苛立ちを露わにするが、エドガーは気にも留めない。


「勝つためには手段を選ばない。それが主君の意志だ」


 ゴーレムの攻撃は容赦なく、兵士を倒したがすでに最後の一体もボロボロになっていた。その光景に、ブライド皇子は冷たく笑う。


「よくやった。我の駒としては上出来だ。だが、まだ終わらんぞ」


 一方、アイス王子の陣営は湿地帯を拠点とし、防御に特化して戦況を見守っていた。しかし、竜人族のリーダー、エスカルーデが前線に出ることで攻撃を仕掛け始める。


「我々竜人族が加勢した以上、負けることなど許されない!」


 エスカルーデが咆哮を上げ、竜化した姿で敵陣に突っ込んでいく。その一撃一撃は破壊的で、数人の兵士を吹き飛ばしていく。


 だが、そちらの戦場でも、フリーダムが竜騎士としてラドンと駆け回り、活躍を見せた。


「おい、行くぞラドン様! フライの兄貴に恥かかせるんじゃねぇ!」


 ラドンが咆哮を上げ、巨体をうねらせて突撃する。竜人族の戦士たちがその咆哮にたじろぎ、一瞬動きを止めた。その隙を逃さず、フリーダムはラドンの背から飛び降り、地面に着地する。


「来いよ、竜人ども! 俺が相手になってやる!」


 彼の挑発に乗った竜人族の戦士たちが突撃してくる。彼らの竜化した姿は圧倒的な力を誇り、普通の人間では太刀打ちできない。しかし、フリーダムは怯まなかった。


「はっ! そんな翼広げて威嚇してる暇があったら、まず俺に触ってみろってんだ!」


 竜人族の一人が鋭い爪を振り下ろす。その一撃をフリーダムはギリギリのタイミングでかわし、逆に拳を相手の腹部に叩き込んだ。


「どうだ、痛ぇだろ! これが自由同盟の力だ!」


 相手が悶絶して後退するのを見て、フリーダムはラドンに手を振る。ラドンが地を蹴り、一気に竜人たちを弾き飛ばした。その巨体の一撃は、竜人族の戦士でさえも耐え切れないほど強力だ。


 戦場は一瞬、静寂に包まれた。竜人族が倒れ伏す中、フリーダムは肩で息をしながらも、いつもの軽口を叩く。


「おいおい、竜人族ってこんなもんかよ? お前らの誇りとやらはどうした? フライの兄貴に俺たちの力を見せるぞ!!」


 彼はその言葉を最後に、別の竜人に吹き飛ばされて散っていった。最後まで面白い奴だったから、今後も友人になりたいね。


「エスカルーデ、敵の進軍を止めろ。これ以上ブライド皇子とローズガーデンの勢力を伸ばすわけにはいかない」


 アイス王子は冷静に指示を出しながら、全体の状況を見渡している。


 そして夕陽が沈む頃、戦場には両陣営の兵士たちのうち、わずかな者しか残っていなかった。


 ブライド皇子の側には、アイク。


 アイス王子の側には、エスカルーデ。


 そして、ローズガーデンには私と、バクザンとノクスが立っていた。


「ふん、ここまで来て残ったのは我々だけか」


 ブライド皇子が冷たく笑う。彼の前に立つアイクは、剣を握りしめながら静かにフライたちを睨む。


「この場で決着をつけるのか?」


 アイス王子が険しい表情で尋ねる。隣のエスカルーデは既に呼吸が荒く、それでも目に力を宿して立っている。


「決着か……それも悪くないね」


 私は微笑みを浮かべながら、ボロボロの体で剣を構えた。バクザンとノクスがその背後に控える。


「だが、ここで決めるのは僕じゃない。みんな、それぞれがどう動くか。それを見守るのが僕の役割だと思うよ」


 それぞれの陣営が疲れ切り、それでも最後の力を振り絞って戦おうとしていた。


「さて、ブライド皇子、アイス王子。僕たちで最終章を盛り上げようか?」


 私は剣を軽く振りながら、戦場の中心に向かって一歩を踏み出した。夕陽に照らされた戦場が、最後の舞台となるだろう。


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 あとがき


 どうも作者のイコです!


 話数で100話に到達しました。もうすぐこの三章も終わりを迎えます。

 その際に、人物紹介と100話記念のSSを書こうと思います。

 どうぞ今後も応援をよろしくお願いします。


 この話も⭐︎5000行きたいけど、あと一カ月では無理かな(^◇^;)


 とりあえず頑張って執筆します! 


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