第84話 覚悟の説得!

《side セシリア・ローズ・アーリントン》


 決して後悔をしない生き方を私は選んでみせる。


 そう心に誓いながら、私は学園都市にやってきた。


 それは、今この場でも変わらない。


 フライ・エルトール様の屋敷の扉をくぐった。


 アーリントン公国の未来のため、そして私自身の想いを叶えるため、ここに来ることを決めました。


 クラウン・バトルロワイヤルのパートナーとして、フライ様を説得すること。それが私の目的です。


 ですが、胸の奥で静かに高鳴る鼓動は別の感情も含んでいます。


 それが何であるかは、自分でも分かっているのです。けれど、それを表に出すわけにはいきません。


 今の私は、アーリントン公国の公女として、フライ様の力を借りるためにここにいるのですから、クラウン・バトルロワイヤルは、他国の勇者たちが競い合う場でもあります。


 そこで力を示すことで、公国はここにあると他国に示すことができるのです。


 メイドに案内されて客間に通されると、紅茶が差し出されました。優雅に香る紅茶の湯気を見つめながら、私は深呼吸をします。


「大丈夫、私はできるわ……」


 そう自分に言い聞かせた直後、客間の扉が静かに開きました。


「エリザベート様?」

「よくぞおいでくださいました。セシリア様」

「どうしてあなたが?」

「当然です。我々ユーハイム家と、エリトール家は家族のようなものですから、フライ様が来るまでの相手はわたくしがさせていただきますわ」


 彼女は、エリック様の婚約者だというのに、フライ様との関係を何かと邪魔してくるので、少しだけ苦手に思っています。


 お茶会でも彼女と私はライバルのような関係になってしまう。


 目立つ花は二輪あると目移りしてしまうのです。


「それで? どういうつもりでこちらに? 事と次第によっては、フライ様にお会いする前にお帰りいただくかもしれません」

「……クラウン・バトルロワイヤルで、フライ様が活躍するお姿を見たくはありませんか?」

「なっ!? 見たいですわ!」


 私は一手目に最も彼女が望むであろう言葉を投げかけた。


「しかし、フライ様はあまり表に出ることを良しとしておりません。残念ながら、活躍を見ることはできませんわ」

「ですから、我々が協力するのはいかがでしょうか?」

「協力? どうするのです?」

「決まっています、私がフライ様をパートナーとして、口説きます。その援護射撃をエリザベート様にお願いしたいのです」


 無策でここにやってきたわけじゃない。フライ様は、自分と関わりにない他人に対しては無関心な方です。


 ですが、自分が大切にされている方々、特にエリザベート様、アイリーン様の言葉はちゃんと聞いてこられました。


 つまりは、将(フライ様)を射抜くためには、馬(エリザベート様)を味方に向けるのが最善手なのだ。


「分かりました。あなたの言動や動向を見させていただきます」

「お任せください」


 第一関門は突破した。


 次は、フライ様本人を説得しなければならない。


 しばらく談笑していると、現れたのは、紛れもなく私が待ち望んだフライ・エルトール様です。


「お待たせしました、公女セシリア嬢」


 彼の穏やかな声に、私は微笑みを浮かべながら立ち上がる。


「それで、今日はどのようなご用件で?」


 フライ様の言葉に、私は視線を向けます。


「実は……フライ様にお願いがあって参りました。クラウン・バトルロワイヤルで私のパートナーとなっていただきたいのです」


 その言葉に、フライ様が少しだけ驚いたような表情を見せた。そして、その隣でエリザベート様がわずかに目を細めた。


「それは素晴らしい目標ですが、僕は……そのような舞台に立つのは得意ではないんです。それに、あなたには他にも相応しいパートナーがいるのでは?」

「いえ、フライ様でなくてはなりません」


 私は即座に否定し、真っ直ぐにフライ様を見つめました。ここは折れてはいけません。押して、押して、押しまくるのです!


「お恥ずかしい話を聞いていただけますか?」

「ええ、差し支えがなければ」

「では、失礼します。実は、学園都市に入学した理由として、私はお婿さんを探しにきました」


 彼が驚いたようにこちらを見つめます


「私は、本当にあなたと共に戦いたいのです。あなたの力が必要です。どうか、私にその機会をください」


 その場の空気がピンと張り詰める。エリザベート様の視線が冷たく私を見つめる中、私は決して目を逸らさなかった。


「セシリア嬢……」


 フライ様が困惑した様子で言葉を紡ぐ。それを見て、私はさらに言葉を重ねた。


「フライ様、私はあなたをただの戦力として見ているわけではありません。あなたの人柄、その力強さ、そして何より……あなたがどんな時でも周りの人々を笑顔にする、その魅力を私は信じています」


 その言葉に、フライ様の瞳が少しだけ揺れ動いた。


「それほどまでに僕に期待を……?」

「ええ、フライ様。私はあなたと共に勝利を掴みたい。そして、出来れば未来を共に歩きたいと思っております」


 どさくさに紛れて、告白に近い言葉を選んでしまいました。ですが、フライ様が素敵だからいけないのです。


 ただ、エリザベート様の反応は意外でした。エリック様の婚約者なのに、まるで、フライ様の婚約者のように嫉妬を向けてこられました。


「もしかしたら何かあるのかもしないわね。情報は公国の命とも言えるわ。しっかりと調べないと」


 屋敷を出て、深呼吸をします。


「これでよかった……」


 なんとかフライ様に協力を取り付けることができました。


 その理由は、エリザベート様が参加するなら、守らなくちゃいけないからだそうです。


 悔しさがありますが、それでもチャンスを頂けたので、必ずフライ様とお近づきになりたいです!!


「私の覚悟は止まりませんから、覚悟してくださいね。フライ様!」


 私はもう一度、エルトール家の屋敷を振りかって一礼しました。

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