第83話 本物の孤独とは?

《side アイス・ディフェ・ミンティ》


 一人で歩く、夜の学園都市は静かだった。


 酒場の喧騒が嘘のように、路地裏に入れば闇が広がっている。


 いつもそうだ。本当にほしい。

 

 掴みたいと思ったものほど手に入らない。


 フライ・エルトールからの明確な拒絶を受けた。彼は学園都市の中では不真面目な生徒に分類される。


 だが、不思議と彼の周りには人が集まっていく。


 そして、私もその一人だ。


 酒場を後にした私は、石畳を一人で歩いていた。風が冷たく頬を撫でるが、その寒さよりも、胸の奥に広がる冷え切った感覚の方が、はるかに鋭かった。


「断られた、か……」


 私は自嘲気味に呟いた。


 フライのあの柔らかな笑顔、周囲を和ませる空気。その裏に隠された、揺るぎない意志。彼が私の誘いを断った理由も、そして彼が何を思っているのかも、理解しているつもりだった。


 同類だと思う節があった。それも嫌悪するのではなく、同調できる。同志だとどこかで思っている。


「貴族でありながら、貴族らしくない。平凡だと言いながら、誰よりも特別な存在……」


 それは王子でありながら、病弱で王子らしくない。平凡になりたくなくて、必死に特別になろうとした自分とどこか似ているように思えた。


 フライという男は、私にとって興味深い存在だ。


 彼の持つ強さは単なる剣術や魔法の力量ではない。それ以上に、人を引きつけ、まとめ上げる特別な力がある。


 だからこそ、彼が必要だった。


 彼のような人材がいれば、私の陣営はより強固なものになる。いや、自然に彼がいることで強固になっていく。だが、それはあくまで理想にすぎない。


「支配者に理想は不要か……」


 自嘲混じりに笑う。


 王族に生まれた以上、理想だけでは世界を動すことはできない。とうの昔に理解していた。


 それでも私はどこかで、「理想」を追い求めていたのかもしれない。フライ・エルトールという男に、その可能性を感じたから。


「孤独……」


 ふと、そんな言葉が口をついて出た。


 私は幼い頃から孤独だった。


 王の道を歩む者は、誰もが孤独だ。それが宿命であり、覚悟でもある。だが、時折ふと、胸の中に空いた穴を埋めたくなる衝動に駆られる。


 フライに声をかけたのも、彼の力を求めた以上に、そんな衝動の表れだったのかもしれない。


「唯一私の隣に立ってくれるかもしれない者。ふっ、愚かだな、私は……」


 足を止め、夜空を見上げた。星々が煌めいている。その光はあまりに遠く、届くことのない希望のように見えた。


 しかし、その瞬間、胸の中に冷たい炎が灯った。フライの拒絶が、私の中の弱さを一掃し、決意を燃え上がらせる。


「……いいだろう。彼がいなくても、人はいくらでもいる」


 フライがいなくても、ロガンがいなくても、ノクスがいなくても、バクザンがいなくても、私は私のために突き進む必要がある。


 ブライド・スレイヤー・ハーケンス。


 奴はクラウン・バトルロワイヤルで、必ず倒さなければならない。


 優秀な者たちだけを優遇して、奴は大陸を統一しようとしている。


 だが、人には弱さがあり、それが魅力なんだ。世界は動かせるなんて傲慢な考え、打ち砕いておかなければ、未来にとって不幸を招く種になる。


「私に残っているのは、小賢しい頭脳だけだ。ならば、知略と戦略、それだけで盤面を支配すればいい」


 私は、自分が優秀であることを知っている。ならば、負けない戦い方も、どんな者たちを使ったとしても勝てる盤面を作り出せばいい。


 全ては、未来のために、自分の役目を果たすだけだ。いや、それ以上のことを成し遂げてみせる。


 それがこの世界で王族として生まれた者の義務であり、私が存在する理由だ。


「支配者に必要なのは、信念と覚悟。そして、どんな手段を使ってでも勝つ力だ」


 どんな手段を使おうとも、私は勝つ。それが世界の未来を左右する戦いであるならば、なおさらだ。


 薄暗い路地裏の先へと足を進める。


「フライ、君の選択を尊重するよ。でも、君がどんな道を選ぼうと、私は私のやり方で勝利を手に入れる。ブライドは私が潰す」


 路地裏の奥にある怪しい店に入って、私は仮面をつける。


「今より、私は闇の中に生きる。そして、革命を」


 ブライド・スレイヤー・ハーケンス。

 フライ・エルトール。


 この二人は、私の計画にとって障害になり得る特別な存在だ。だが、彼らがいなくても問題はない。この世界には、駒となる者がいくらでもいるのだから。


 盤面を支配し、勝利を手にする。それが支配者の役目であり、私の宿命だ。


「皆の者よ! 私と共に歩む覚悟はあるか?!」


 その言葉の向こうで、大勢の人々が私に向けて拳を突き上げている。


 敵と友。


 私にはどちらも必要ない。全ては計画を実行して、成功させるだけだ。


 いくら、末端の尻尾を切ろうとも、頭を潰さなければ、何度でも蘇る。


「我らの力を、今こそ見せてやろうぞ」


「「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」」」」」」」」


 地下道に響く、大勢の民衆の声に、私は今後の方針を計画する。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 あとがき


 どうも作者のイコです。


 今日はここまで。


 仮面をつけて何をしているんでしょうね?w


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