第81話 君が望んでも僕は動かない
「なぜ?」
アイス王子の言葉が喧騒の中に溶け込む。
酒を酌み交わしていた私たちは、一瞬の静寂に包まれた。ロガンがジョッキを置き、ノクスが警戒心を露わにする。バクザンも驚いたようにアイスを見つめていた。
私だけが笑みを浮かべたまま、冷静に彼の申し出に向き合う。
「クラウン・バトルロワイヤルのチームメイトのスカウトか〜面倒だよね。それに僕らのような不良に声をかけなくても、アイス王子ならいくらでも優秀な人材を呼べるでしょう。どうして僕たちを選んだんですか?」
軽い調子で問いかけたが、内心では興味津々だった。この夜更けにわざわざ現れた理由があるはずだ。
アイスは静かにフードを取り、銀髪を月明かりにさらした。その姿はどこか神秘的で、人々の目を引きつける魅力に満ちていた。
「君たちは、特別だからだよ」
アイスの落ち着いた声が酒場全体に響く。その声には威圧感はなく、それでいて自然と人を引き込む力があった。
「特別? 僕らが?」
ロガンが眉をひそめる。獅子のような力強い眼差しでアイスを見据えるが、彼は微笑を崩さない。
「そう。君たち四人は、それぞれに突出した才能を持ちながら、それだけではない価値がある。それを私は見抜いたからここに来たんだ」
そう言いながら、彼は私たち一人一人に視線を向けた。その目には揺るぎない自信が宿っている。
「まず、ロガン・ゴルドフェング君。君は獅子族の王子で、卓越した力を持ちながら、戦闘に対する純粋に楽しみ、喜びを持っている。君のような戦士が先頭に立って、皆を率いて鼓舞してくれるだけでかなりの士気が高まると思うんだ」
ロガンは褒められると得意げに腕を組んだ。
「当たり前だろ。俺は誰にも負けない!」
アイスは軽く頷き、次にバクザンに目を向けた。
「バクザン君。君は鬼人族として傭兵業をやりながらも、多くの経験を積んで、圧倒的な肉体を持ちながらも、戦闘だけでなく状況判断や仲間を支える力がある。君のような存在は、陣営全体を安定させられるだろう」
「よくわかってんじゃねぇか、兄貴と一緒ならどこにでも行くけどな!」
バクザンは私を見て、酒をあおるようにジョッキを掲げた。
「ノクス君」
アイスが彼の名前を口にすると、ノクスは少し身構えた。
「君の剣術はまだまだ荒削りだが、ここにいる者たちに匹敵する力を持っている。それは凄いことだ。その力は今後の成長に期待できる。何よりも、君の冷静な判断力が、このチームに欠かせない要素になる」
「俺は……別に特別な存在じゃない。ただ、必要だって言うなら、それは……」
ノクスは戸惑いを隠しきれない様子だった。それを見たアイスは優しい笑みを浮かべる。
「自分の価値に気づくのは難しいことだ。でも君は確かに、特別なんだよ」
そして、最後に私を見た。
「そして、フライ・エルトール君」
彼の声が少しだけ真剣さを増す。
「君は、戦場でも、酒場でも、人を繋げる力を持っている。才能だけでなく、人を惹きつけ、仲間を作るその力こそが、君の最大の武器だ。君がいれば、このチームは完璧になる」
私は笑いながら、ジョッキを置いた。
「なるほど。そういう風に僕たちを見ているわけだ。でも、アイス王子。一つ聞いていいかな?」
「もちろん」
私からの言葉に微笑むアイスを王子に、少しだけ意地悪をしたくなってくる。
「君は、どうして僕たちを巻き込もうとしているんだい? クラウン・バトルロワイヤルなんて、ただの競技だ。政治的な思惑もない。学園の遊びだよ。君ほどの立場の人間が、わざわざここまで来て、僕たちを誘う理由がないんじゃないかな?」
私の問いに、アイスは一瞬だけ表情を曇らせた。しかしすぐに、再び微笑みを浮かべた。
「そうだね。多分君からすれば遊びに見えるだろうね。フライ、だけど、クラウン・バトルロワイヤルはただの競技じゃない。これは、私たち王族にとっては次代の覇者を決めるための試金石でもある」
彼は少し声を潜めて続けた。
「帝国のブライド皇子が参加を表明した。彼が動き始めている以上、私もただ黙っているわけにはいかない。彼は危険な思想の持ち主だ。彼の野望を食い止めるためにも、私は最強のチームを作らなければならないんだ」
アイスの言葉に、酒場の空気が少し緊張したものに変わったように思える。みんな聞き耳を立てて、酒場の喧騒はどこへやらだ。
「ブライド皇子……参加したのか……」
小説には、そんな記述はなかった。つまりは歴史が変わり、新たな道へ進んでいるということなのだろう。
私は小さく呟いた。アイス王子が言うことに嘘はないだろう。それにしても、こんな形でブライド皇子が動いているとはな。
「どうだい、フライ? 君たちの力を貸してほしい。私は君たちが必要だ」
アイスの真剣な目が私たちに向けられる。その視線を受けて、ロガンが腕を組んで言った。
「面白そうだな! だが、俺にも派閥があるからな。仲間たちが参加するなら、参加はできない」
ロガンの言葉に、アイスも無理に参加を強制することはなかった。
「フライの兄貴が行くなら、俺もついていくぜ!」
バクザンの意見は変わらないようだ。ノクスは少し考え込むような仕草を見せたが、やがて口を開いた。
「俺は、まだお前のことを信じられるわけじゃない。ただ……フライが決めるなら、それに従う」
二人の視線が私に向けられて、彼らの言葉を聞いてから、ゆっくりとアイスを見た。
「アイス王子、ロガン王子は参加しても良いんじゃないかな? だけど、僕は遠慮させてもらうよ。僕は面倒なことが嫌いでね。それにブライド皇子のことも別に嫌いじゃない」
アイスは少し驚いたようだったが、やがて静かに頷いた。
「分かった。だけど、君の決断が変わることを待っているよ」
そう言って、彼は再びフードを被り、静かに酒場を後にした。
残された私たちは、ジョッキを掲げながらその後の夜を楽しむことにした。
三人はアイス王子から褒められて、上機嫌で酒を楽しむ。
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あとがき
どうも作者のイコです!!!
今日はここまで!
やっぱり難産! たくさん考えないと……。
よろしくお願いします(๑>◡<๑)
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