第74話 グラディエーター・アリーナ決勝戦 後半
怯えるミミに剣を向け続ける彼らを許せるはずがないよね。
「ねぇ、彼女は怯えているんだ。武器を下ろしてくれないかい?」
「黙れ! 貴様らは目撃したことを不運に思うんだな!」
「そうか、交渉は決裂だね」
重力魔法を発動し、目の前の武装した集団を押さえ込む。
「頭が高い! 僕に牙を向けるな」
私は軽く笑いながら、周囲を見渡す。武装集団は、一斉に床に押さえつけられ、動きを封じられていた。彼らの表情には動揺と恐怖が見て取れる。
「フライ様、すごいです……! 本当に一瞬で……!」
ミミが驚きと尊敬の入り混じった声を漏らす。私は彼女に目配せしながら続けた。
「ミミ、少し離れていなさい。ここからは僕一人で大丈夫だから」
彼女が頷き、一歩引くと、私は床に押さえつけられた男たちに近づいた。
「さて、君たちがリベルタス・オルビスだと聞いたけど、それで間違いないかな?」
私の問いに答える者はおらず、沈黙だけが場を支配する。しかし、その一人の肩が微かに震えているのを見逃さなかった。
「なるほど、そういうことか」
私は彼の近くに膝をつき、冷たい声で囁いた。
「僕は君たちをここで捕まえて終わりにしたいだけなんだ。でも、それ以上のことを望むなら、そうなるかもしれないよ?」
その瞬間、遠くから駆け寄る足音が聞こえてきた。振り向くと、そこには剣を構えたノクスの姿があった。
「どうして君が?」
「何をした!?」
こちらの話を聞く気がないようだね。
「……お前がやったのか?」
「僕の質問には答えないのに、質問かい?」
ノクスの低い声が響き渡る。彼の目は怒りに燃え、その視線は私を射抜いていた。
「うるさい! 貴様は貴族だろ?! 俺たちの邪魔をしやがって!」
どうやら私の見た目で貴族と判断した上で怒りを覚えたようだ。彼の沸点はよくわからないね。
私は警戒しながらも冷静に尋ねたが、ノクスの反応はただ怒りに満ちていた。
「仲間たちを魔法で押さえつけたのはお前か! 戦闘員では無い者もいるのに、貴族はやっぱりやることが下劣だな!」
彼の剣先が私に向けられた瞬間、彼の身体から何かが解き放たれるような感覚を覚えた。それは聖痕だった。
「聖痕!!! ハハ、君がそれに目覚めるのはもっと後のはずだ! 歴史が変わるということそういうことも変わるのかい?」
ノクスの身体に刻まれた紋様が淡く輝き、周囲の空気が変わった。
私が発していた魔法を打ち消す力が、彼の周囲に渦巻いていく。
これだ。
聖痕の理不尽さが目の前で広がっていく。
「なっ、なんだこれ?」
そうか、本人も知らないのか、そして、これが初めての聖痕の覚醒。
「どうせ、気づくだろうが、今すぐ教えてやるつもりはない。剣を取れ、ノクス。貴様らの行動を僕が止めてやろう」
「何が起きているのかわからないが、魔法が無効化されたなら、お前なんて相手じゃない! 俺の剣で倒してやる」
私は子供の頃から剣術をやってきた。残念ながら才能はなかったけれど、素振りやイメージを忘れたことはない。
剣を抜き放ち、ノクスと対峙する。
ノクスが怒りを剥き出しにして飛びかかる。彼の剣筋は鋭く、一撃一撃が命を奪うつもりで放たれている。それに対して、私は剣を交えて防御と回避に徹した。
キンッ、キンッ!
鋼が交わる音がアリーナの地下空間に響き渡る。ノクスの剣のスピードと力は、予想以上に高いレベルだった。
私は魔法で肉体の強化もできない。対して、ノクスは聖痕の力によって強化されている。
「すごいね、ノクス。本当に君は強い。平民だろうが何だろうが、ここまで来られるのは実力があってこそだ」
「ふざけるな! お前みたいな貴族が俺たちを見下している間、血を流して努力してきたんだ……!」
ノクスの怒りが剣に乗り、攻撃がさらに激しさを増す。一撃一撃が鋭さを増し、私は一瞬でも気を抜けば致命傷を負いかねない状況だった。
バクザンに負けたことで油断もないか……。
「でもね、ノクス。僕は君たちを見下しているつもりはないよ。ただ、間違っていることには意見する。それだけだ」
剣を振るいながら、私は自分の言葉を彼に届けようとする。
「君は強い。でも、その力を怒りだけで使ってしまえば、本当に守りたいものも守れないんじゃないかな?」
「黙れ!」
ノクスの怒声とともに、彼の剣が私の肩を掠めた。その勢いに押され、私は一歩後退する。
「くっ……やっぱり、ただの剣士じゃないね」
私は息を整えながら、剣を構え直す。
「ノクス。君が何を守りたいのかは知らない。でも、僕も自分の守りたいもののために負けるわけにはいかないんだ」
再び剣を振るい、ノクスと激しい攻防を繰り広げる。力と技のぶつかり合いは、どちらも譲らず、互いの刃が幾度となく火花を散らした。
カキンッ! ノクスの剣が私の剣を弾き、私は体勢を崩した。その瞬間、彼の剣先が私の喉元に迫った。
「終わりだ……!」
だが、私は冷静に彼の動きを見極め、瞬時に剣を振り上げて彼の剣を弾いた。そして、そのまま彼の剣を地面に叩きつける。
「まだ終わってないよ」
ノクスが目を見開き、一瞬動きを止めた。その隙をつき、私は彼の手首を掴み、剣を遠くへ弾き飛ばした。
「これで決まりだ」
私は近くに落ちていた、自分の剣を彼の肩に突き刺した。
「うああああああ!!!」
「バクザンに教わらなかったのかい? 戦場で、刃を喉元に突きつけるなんて意味はない」
静かに言った。ノクスは息を切らしながら私を睨みつける。
「……何がしたいんだ、お前は……!」
ノクスの言葉に、私は一瞬だけ剣を下ろし、彼に向かって微笑む。
「君と話がしたいんだよ。戦う理由や、君たちが本当に守りたいものについてね」
私の言葉に、ノクスは驚いたような表情を浮かべたが、すぐに目を伏せた。
「話なんてお前たちは聞かなかったじゃないか!?」
剣を置き、私は彼に手を差し伸べた。
「全てを一つとして認識するのは間違いじゃないかな? ノクス。君が本当に信じられるもの自分自身の目で確かめてみなよ」
剣と魔法の世界だけど、魔法に頼っていた自分としては、ノクスは天敵だね。
あ〜疲れた。
「その前に!」
聖痕の光が収まるのを待って、私は無空間であるアイテムボックスにリベルタス・オルビスが仕掛けた物を収納した。
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