第74話 グラディエーター決勝戦

《sideバクザン》


 学園都市最大の注目を集める《グラディエーター・アリーナ》の決勝戦。


 そこに立つ俺、鬼人族のバクザンは、全身の血が熱く滾るのを感じていた。対する相手は、獣人王国の王子、《獅子王》ロガン・ゴルドフェングだ。


 観客席からは歓声が渦巻き、アリーナ全体が震えるような熱気に包まれている。


 そんな中、ロガンが悠然と姿を現した。金色のたてがみが光を受けて輝き、その堂々とした立ち姿には威厳がある。だが、俺も負けてはいない。


 筋骨隆々とした鬼人の体格で、観客席の視線を一身に集めていた。


「やっとお前と戦えるな、バクザン。お前が裏の者であることはわかってんだよ。だけど、今日は純粋な戦いだ。そうだろ?」


 ロガンが静かに口を開いた。その声には自信が満ちている。


「おう、そうだ。本来なら、俺の目的は決勝戦に出場することだけだった。だが、俺にも優勝しなくちゃいけない事情ができてな。ロガン王子様よ。勝つのは俺だ」

「いいだろう。その言葉、最後まで守れるか確かめてやる」


 俺たちの視線が交差した瞬間、鐘の音が響き渡り、決勝戦の幕が上がった。


 ロガンが一気に間合いを詰めてきた。その動きは獣人らしく俊敏で、鋭い爪が俺の胸元を狙う。


「ほぅ、速ぇな!」


 だが、俺の拳も負けちゃいない。狙いをかわしつつ、一発を叩き込む。拳と爪がぶつかり合い、火花が散った。


「お前、ただの鬼人じゃねぇな。戦場でどれだけ奮ってきた?」

「そういうお前も、ただの王子様じゃねぇようだ。これなら楽しめそうだ!」


 一進一退の攻防が続く。


 ロガンの動きはまるで獣そのものだ。


 爪で斬り裂き、鋭い蹴りを繰り出してくる。一方で俺は、その全てをギリギリで受け流し、反撃の拳を放つ。


 どちらも一撃で勝負を決められる自信がある。だが、それを許さない相手同士だ。


「お前の動き、キレッキレだな。だが、まだ甘い!」


 俺は間合いを詰めると、強烈なアッパーをロガンの腹に叩き込む。だが、奴はそれを耐え抜き、逆に俺の脇腹へと肘を叩き込んできた。


「グハッ!」


 一瞬、視界が歪む。しかし、それでも俺は笑った。


「いいじゃねぇか、王子様。お前、本当に獣人族の希望なんだな」

「希望だと? そんなものに興味はない。ただ、俺は負けるわけにはいかないだけだ!」


 ロガンが低く唸り声を上げると、その身体が変化を始めた。たてがみがさらに伸び、体格が一回り大きくなる。彼の瞳は黄金色に輝き、鋭い牙を剥き出しにした。


「これが獣化だ。鬼人族バクザン、お前に実力の違いを見せてやるよ」


 獣化したロガンの速度と力は桁外れだった。瞬間的に間合いを詰め、一撃で俺の防御を崩しにかかる。


「チッ! これは厄介だな……」


 爪の一撃が俺の肩を掠め、血が吹き出す。それでも、俺は足を止めない。負けるわけにはいかないからな。フライの兄貴も厄介な注文をしてくれたものだ。


 ロガンの強さは、本物だぞ。


「獣化か……確かにすげぇな。でも、俺には関係ねぇ!」


 俺は拳を握り直し、再びロガンに向かって突進する。奴の爪と拳がぶつかり合い、アリーナに衝撃音が響く。


「さすがだ、鬼人族。だが、お前にこの俺を止められるか?」

「上等だ。止めてやるよ!」


 ロガンの速度は尋常じゃないが、それでも俺は経験とこの鋼の肉体でカバーする。これまで何度も戦場で死線を越えてきた俺には、相手の動きを見極める眼がある。


 戦いは激しさを増し、観客たちはその様子に息を呑む。ロガンの獣化による猛攻と、俺の的確な反撃がアリーナ全体を震わせていた。


「くそっ、こいつ、どこまで粘るんだ!」


 ロガンの動きに疲れが見え始める。一方で俺も、全身が悲鳴を上げていた。それでも、ここで倒れるわけにはいかない。


「お前が獣人の王子様でも、俺にゃ関係ねぇ! ただ、目の前の相手をぶっ倒すだけだ!」


 俺は全身の力を拳に込め、ロガンの懐に飛び込む。そして、一瞬の隙を突いて渾身の右フックを放った。


「これで終わりだ!」


 拳がロガンの顔面に炸裂する。その衝撃でロガンは後方へと吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「グハッ!? マジか?!」

「悪いな王子様の顔を一度ぶん殴ってやりたかったんだ」

「強ええ。ぐっ」


 ロガン王子が力を抜いた。


 俺は腕を突き上げて、勝利を宣言する。


 観客席からは、割れんばかりの歓声が上がる。


「勝者、バクザン選手!」


 実況の声が響き渡る中、俺は荒い息を整えながらロガンの方を見た。奴はゆっくりと立ち上がり、悔しそうな表情を浮かべていた。


「……強かったな、バクザン」


 ロガンが素直に言葉を口にした。その言葉に、俺は拳を軽く振り上げて応えた。


「お前もな。まさに獅子だったよ」


 二人の視線が交わり、その場には奇妙な友情が芽生えていた。鬼人族と獣人族、種族の壁を越えた戦いは、観客たちの記憶に刻み込まれるものとなった。


「それにしても裏の者がこんなに目立ってもいいのか?」

「いいんだよ。俺たちの主が変わった。これからはその方の意向に従う。王族ならばわかっているだろう。裏と表は表裏一体。裏のボスが決まるということは、表にもいつか影響を及ぼすぞ」

「どんな王なんだ?」

「最強の王だ。あの方は英雄になられる」


 自分でも驚くほどにフライの兄貴に心酔している。だが、あの方の導く未来が見てみたい。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 今日はここまで。


 メリークリスマス! 皆さん良いクリスマスを! いつも応援ありがとうございます。

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