第62話 こういう大会って下剋上がつきものだよね。
グラディエーター・アリーナの予選も終盤に差し掛かり、学園都市は大いに盛り上がっていた。
「キンキンに冷やすと飲みやすいのですね」
「アリーナ内は暑いからね」
私は、みんなに飲み物を提供して、キンキンに冷やしてあげた。私はもちろん、エールに今日はフランクフルトを片手に持ってモニターを見ていた。
戦いの模様は学園都市中に設置されたモニターで映し出され、多くの観客が次の勝者を予想して賭けに熱中していた。
エリザベートやジュリア、アイリーン、レンナたちも、それぞれの戦いに熱が入り、応援と観客席に陣取り、試合の行方を見守っていた。
「次の試合は、三年次のレオポルド・シュトラウス選手と、一年次のノクス選手です!」
実況者の声が響き渡り、会場がざわつく。
「レオポルド選手は過去の大会で決勝進出を果たした実力者です。正統派の剣術の使い手であり、一方でノクス選手は、ここまで勝ち上がるだけでも奇跡とされる無名の一年生剣士だ!!!」
剣士同士の戦いではあるが、筋骨隆々な体格を持つレオポルド選手。
それに対して、発展途上の体格をしたノクス選手。
「さすがにレオポルド選手の圧勝でしょうね。ノクス選手が勝てるとは思えませんわ」
エリザベートが予想を述べると、ジュリアは少し眉をひそめた。
「でも、ノクス選手もここまで勝ち上がってきたのです。実力があるからじゃないですか?」
「ジュリア、それはただの偶然よ。一年次が三年次の実力者に勝つことも難しいわ。この年代の一年や二年は凄く差が開くもの、あり得ませんわ」
エリザベートがきっぱりと言い切る中、私は賭け票を見せながら微笑んだ。
「僕はノクスに賭けたよ」
「えっ!?」
エリザベートが驚いた様子で私を見る。ジュリアは嬉しそうに微笑んだ。
「フライ様、本気ですの?」
「もちろん、波乱が起きる方が面白いからね。それに、ノクスはここまでの試合でかなりいい動きをしてたよ」
「フライ様……それ、それは勘ですか?」
アイリーンが不思議そうに問いかけてきた。
「う〜んどうだろう? だけど、こっちの方が面白いと思ってね」
「ご主人様、大丈夫?」
ジュリアが不安そうに問いかけてくる。
「私は、いい勝負だと思うぞ」
レンナは私の判断に賛同してくれる。獣人や竜人である彼らの方が戦闘面では敏感にノクスの強さに反応を示すのだろう。
私は思っていた人物が、勝ち上がってきたことに内心で笑ってしまう。
「賭けってのはね、外れる覚悟で楽しむもんさ。さて、始まるみたいだよ」
「私もフライ様に乗りますね」
「わたくしはレオポルドに賭けます!」
アイリーンは私にのって、エリザベートは自分を信じたようだ。
試合が始まり、モニターに両者が映し出される。
レオポルドは堂々とした構えで剣を振りかざし、ノクスを圧倒しようとする。一方でノクスは慎重に間合いを取りながら、機会を伺うような動きを見せた。
「さぁ、注目の一戦が始まりました! 互いに二勝を挙げて、三勝目を賭けた戦いです。果たしてノクス選手はレオポルド選手の剣をどう攻略するのか!」
実況ちゃんの声が響く中、レオポルドの攻撃が激しさを増す。彼の剣筋は鋭く、ノクスの剣では到底防ぎきれないように見えた。
「これは……やっぱり無理でしょうね」
エリザベートがつぶやいた直後、ノクスの動きが変わった。彼はレオポルドの剣を紙一重で避け、反撃の間合いを詰め始めたのだ。
「おおっと! これは意外だ! ノクス選手が反撃に転じています!」
実況ちゃんの興奮した声に合わせて、観客席もざわつく。ノクスの動きは平民とは思えないほど鋭敏で、レオポルドの攻撃を的確にかわしていた。
「すごい……ノクス選手、本当にやるかもしれませんわ」
アイリーンも驚きの声を上げる中、ノクスはさらなる攻勢に出た。剣でレオポルドの防御の隙を突き、ついに決定的な一撃を繰り出した。
「なんと! ノクス選手がレオポルド選手を破ったー! 大どんでん返しです!」
実況者の叫びとともに、観客席は歓声と驚きに包まれた。私たちも呆然とモニターを見つめていた。
「本当に……勝ったんですね」
ジュリアがぽつりとつぶやき、エリザベートは椅子に座り直した。
「まさか……信じられませんわ」
私は満足げに賭けの結果を確認した。ノクスに賭けていたおかげで、1対50の倍率がありがたいね。かなりの儲けが出てたよ。
「やっぱり波乱がある方が楽しいね」
「フライ様、当てるなんて……さすがですわ。人を見る目もあるのですね」
エリザベートが感心している。まぁ今回はズルをしているけどね。
「ご主人様、すごいのです! やっぱり予想が当たるなんて、ご主人様は素敵です!」
「いやいや、たまたまだって。それに、ノクスが本当に強かったんだよ」
モニターには、インタビューを受けるノクスの姿が映し出されていた。
「僕はまだ未熟ですが、努力すればここまで来られると証明したかったです。それを見てくれた皆さんに感謝します」
彼の言葉に、観客席から拍手と歓声が湧き上がる。その姿はまさに努力と希望の象徴だった。
「ノクス……いいじゃないか」
私は微笑みながら、次の試合を楽しみにした。賭けも楽しみの一つだが、それ以上に、この大会には未来を変える力があると感じる。
「さて、次は誰が勝つかな?」
私は仲間たちとともに盛り上がりながら、次の展開に思いを馳せた。
決勝大会の選手が、出揃った頃には、3日が過ぎようとしていた。
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