第63話 地下の顔役さんって雰囲気あって怖〜い

 夜の学園都市は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返り、時折吹く冷たい風が肌に刺さる。どこからか聞こえる酒場のざわめきや馬車の音が、静寂の中にかすかな命を感じさせる。


「フライよ、今夜は特別な集まりだ。美しい女性を連れてこいといった意味が分かるだろう?」


 フェル爺さんに呼び出された私は、夢魔族のメムと精霊族のシーバを連れて夜の街を歩く。


 二人とも、綺麗に着飾って、いつもの雰囲気とは全くの別人のようだ。夢魔のメムは、生まれ持った魅力が溢れている。


 聖霊族のシーバもエルフと呼ばれる整った容姿を種族なので、黙っているだけでとても美しい。


 フィル爺さんから面白い者たちを紹介してやると言われて、今日は夜に呼び出しを受けた。


「まぁ、フェル爺さんの友達だから、美人が好きなんでしょ? メム、シーバ、緊張しないで。僕がいるから大丈夫だよ」

「はいなのです、ご主人様。でも……なんだか怖い雰囲気なのです」


 臆病なメムは珍しく声を小さくして答えた。彼女の目が捉えたのか、街の空気にはどこか異様なものが漂っている。


 フェル爺さんが連れてきたのは、薄暗いながらも高級感を感じさせる広いパーティー会場だった。


 シーバも雰囲気に呑まれながらも、無表情で周囲を警戒して耳をぴくりと動かしていた。


 フェル爺さんに案内されたのは、学園都市の繁華街の奥まった一角にある、ひっそりとした建物だった。


 外観は古びた倉庫のようで、特に目立つところはない。だが、重厚な鉄の扉と、それを守るように立つ無骨な大男たちが、この場所がただの倉庫ではないことを示している。


「フライ、ワシの後についてまいれ」


 扉の前で待っていたフェル爺さんが低い声で言う。彼の表情にはいつものような軽さはなく、むしろその目はどこか冷たさすら感じさせた。


「フェル爺さん、ここは……?」

「いいから入れ。面白い者たちを紹介してやるからな」


 重厚な扉の向こうは、広い倉庫から階段を降りると、地下空間だった。


 薄暗い明かりが空間全体を照らし、どこか湿った空気が漂っている。床は磨き抜かれた石畳で、その中央には重厚な木製のテーブルが置かれていた。


 そこに座る男たちは、一目でただ者ではないと分かる。豪奢な衣服を身にまとい、堂々とした体格を持つ者もいれば、細身で鋭い目つきをした者もいる。だが、全員に共通しているのは、その場を支配するような圧倒的な存在感だった。


「ふ〜ん、なんだか面白い人たちだね」

「じゃろ、この面白さがわかるとは、さすがはフライじゃ!」


 フェル爺さんは、嬉しそうに奥へとズンズン進んでいく。


「おお、フェルか。ずいぶん若い連れを連れてきたじゃねえか」


 低く響く声が飛ぶ。見ると、中央に座る男は、禿げ上がった頭に傷が一本走り、見た目だけで背筋が凍るような人物だった。それに見合うだけの圧力も威圧も含んでいる。


「お初にお目にかかります。フライ・エルトールと申します」


 私は状況を読み取り、丁寧に頭を下げた。男たちは一瞬、私を値踏みするようにじろじろと見た後、低く笑い出した。


「坊主、礼儀は悪くないな。覇気は感じられんがな。ガハハハ」


 オッサンたちが笑い声を上げる中で、オッサン達の後には、私と歳の近い若者たちが後に立っている。ですが、学園都市で過ごしているようなキラキラとした者たちではなく、どこか影を感じさせる者たちばかりだ。


「フライ、今夜は各国の“顔役”が集まる場だ。お前が連れてきた二人も含めて、お前がどう振る舞うかで、今後が変わると思え」


 フェル爺さんの言葉に、私は内心笑ってしまう。


 顔役の意味はわからないが、フェル爺さんと同じでギャンブル好きで、ギャンブルを取り仕切る人たちなのだろう。


 この場に集まっているのが、単なる金持ちや貴族ではないことが明らかだった。どの人物も、その一挙手一投足に凄みがある。


 そして、その目が時折メムやシーバに向けられるのを感じた。


 今回の人選は間違っていないようだ。


「フェル爺さん、ここで何を話すんだい?」


 私は楽しみながら、フェル爺さんが何をするのか聞いてみる。


「まぁ、今回は学園都市で行われているフェスティバルについてじゃな」


 フェル爺さんはにやりと笑う。その笑みはどこか、楽しそうだった。


 会合が進むにつれ、男たちがそれぞれの国や種族の現状、そして力の均衡について話し合い始める。


 表面上は穏やかな会話だが、その裏にはお互いを牽制するような雰囲気が感じ取れる。小説で書かれない人たちの話を聞けるのだ。面白いね


「坊主、そっちの夢魔族の娘、随分と魔力があるようだな」


 頭に傷のある男が突然メムに声をかける。メムは一瞬怯えたように縮こまるが、私はすかさず彼女を庇うように一歩前に出た。


「彼女は私の大切な仲間です。失礼のないようお願いします」


 その一言に、場の空気が一瞬静まり返る。


「ほう……いい度胸してるじゃねえか。気に入ったぜ、坊主」


 男は再び低い笑い声をあげたが、その目には何か試すような光が宿っていた。


「奴隷だよな。お前が主人か?」

「ええ、そうです」

「なら、相場の倍で買い取ろう。どうだ?」

「お断りします」

「何?!」


 即答で、メムを手放すことを断れば、頭に傷があるオジさんの雰囲気が変わる。そして、その後ろに控えていた大男が一瞬で私の前に立ちました。


「坊主、お前に度胸があるのはわかった。だが、もう一度聞くからよ〜く考えて答えろ。うちの坊主は気が短くてな」


 面倒だと思いながらも、フェル爺さんを見れば、満面の笑顔を浮かべていた。どうやら止める気はないようだ。


 つまり、私の好きにしていいということです。


「三倍出してやる。その夢魔族を売れ」

「お断ります!」


 目の前の大男が私の服を掴もうとしたの、地面に穴を空けるほど頭以外を地下に埋めてあげる。


「なっ??」

「僕は属性魔法が使えないので、加減ができませんので、先に謝っておきます。重力魔法よ。頭が高い!」


 私は頭に傷のある男だけを押さえ込んでも、他の顔役と言われた者たちが殺気だっているのに気づいていたので、全員に重力魔法をかける。

 

 そして、彼らの真ん中にある回転椅子に腰を下ろした。


「きっ、貴様! 我々にこんなことをしてタダで済むと思っているのか?!」


 重力で体を動かせなくても、凄んでくる頭に傷のあるオジさんに私は微笑みかける。


「僕は自分にとって、譲れない事がいくつかあってね。自分の大切にしていることを傷つけられるとどうしても許せないんだ。メムは僕の大切な人だ。それを奪おうとしているんだよね?」


 頭に傷のあるオジさんにだけ重力を強くする。


「グフっ!」

「ねぇ、聞いているんだから答えてよ?」

「わっ、ワシは」

「何?」

「いっ、いや、すまなかった」


 謝罪を口にしたので、少しだけ重力を緩めてあげる。


「わかっていると思うけど、僕が重力を強めれば、全員を潰すことができるよ。意味、わかるよね?」


 全員が頷くまで、私はじっと全員を見渡した。


「あなたたちが面白いことをしている分には好きにすればいい。だけど、僕の全てに手を出すなら、遠慮なく全員を潰すよ。人を物のように扱うことは嫌いだから、やめてくれるかな?」

「わっ、わかった。許してくれ」


 頭に傷のあるオジさんが謝ったので、重力から全員を解放する。


 その瞬間に、それぞれの後ろにいた若者が襲いかかってきたので、全員の足を圧力で握りつぶした。


「なっ!?」

「うっ!」

「ひっ?!」


 最初の大男に加えて、五人の若者が床に倒れた。


「殺す?」


 私は若者たちの保護者に視線を向ける。


 全員が私の前で膝を折った。


「「「「「フライ・エルトール様には逆らいません!!!」」」」」


「カカカ、どうじゃワシの後継は? 凄いじゃろ!」


 フェル爺さんが楽しそうに笑っている。あ〜やっちゃたね。


 メムが物扱いされて、キレちゃった。

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