第56話 たくさんの人がいると、整理はできないね。

 グランド・ユナイト・フェスティバル、通称「GUF(グフ)」がついに幕を開けた。


 初日は、学園都市全体がお祭り騒ぎの開会式だ。


 学園都市に通う生徒は、三学年あり、多種多様な種族に国が存在する。


 それはある意味で、誰でも学園都市に入ることができて、見学も許されている。


 こんなにも無警戒で大丈夫かと言いたくなるが、一応は学園都市側も、この時期に学園都市にやってくるする者には、マーキングという魔道具をつけてもらって、学園都市を出るまで外せないリングを装着してもらう決まりになっている。


 それはもちろん、学園都市で働く全ての大人も同様であり、以外は全てが監視されているというわけだ。


 ただ、それでも学園都市全体が祭りの喧騒に包まれ、各地から集まった貴族、王族、そして平民の学生たちは楽しそうにフェスティバルに参加する。


 街は華やかな色彩と活気に溢れている。この祭典の目的は「国や種族を超えた協力を表す、統合の象徴」として、互いを理解し合うための交流と競技ということになっている。


 だが、これは表向きの話だ。


「フライ様、準備はできましたか?」


 エリザベートとアイリーンさんが、今日も麗しい微笑みを浮かべながら私を見つめている。いや、いつも以上にニヤニヤとしている。


 今日は開始日のために、私も貴族として、身なりを整えて座席していた。


「まぁね。でも、どうしても気が進まないなぁ」


 ジュリアとレンナが私の横で護衛についている。ジュリアは元気いっぱいだが、レンナは未だ不満げに腕を組んでいた。


「貴族の祭典に何を緊張しているのですか?」

「いや、エリザベート。僕って社交界デビューもしてないんだよ。それにこれだけの人々が集まって、各国のお偉いさんも来ているんだ。これ、絶対裏で何か起きるだろ」

「フライ様が言われると現実になりそうで怖いです」


 表向きは種族間の協力や交流を祝う大イベントだが、各国や種族がひとつの場に集まるとなれば、当然、互いの思惑や対立がぶつかり合うことになる。


 そして、これを嫌う者、あるいは利用しようとする者が必ず現れる。


「でも、まずは競技の話からだな」


 色々な予測をしていると、魔道具で作られた巨大なモニターに司会を行う者の顔が映し出される。


 

 グランド・ユナイト・フェスティバルは一ヶ月近くの時間を使って、四つの競技が行われる。


 1、「グラディエーター・アリーナ」


 1対1の決闘。


 剣士、魔法使い、獣人、魔物使い、各々が自らの能力を駆使して、競い合う。各地で予選が行われて最初の一週間目最終日に決勝戦が、アリーナで行われる。

 

 だが、この競技の見どころは単なる力比べではなく、種族ごとの異なる「個性」をどう生かすかであり、またフェル爺さん曰く。これもギャンブルじゃよと教えてくれた。


 まぁボートレースよりも、学園都市が主導で行う合法格闘技大会だね。ロガン王子が好きそうだ。



 2、「エア・レース」


 空中に設置された浮遊リングをくぐり抜け、ゴールを目指す競技。飛行可能な種族や魔法を得意とする者が有利だが、魔法妨害や風の魔道具による妨害も認められている。


 これはボートレースの応用で、自分が飛べなくても、魔力で浮かせたアイテムで浮遊リングを潜れば問題ない。魔力の少ない者でも工夫すれば攻略ができる。


 ボートレースはそのための訓練と言っても良い。これも最終日に六人の選手が選ばれて、決勝戦が行われる。


 エドガーの得意競技で、ブライド皇子の命令で参加するかな?



 3、「クラウン・バトルロイヤル」


 各チームが陣地を守りつつ、相手のクラウン(王冠)を奪い合う団体戦。知略、指揮能力、そして戦力配分が問われる。


 一チーム20名の縛りで、フラッグ奪取に似たルールだ。参加する表明をして、陣地を与えれてクラウンを奪えば勝ち。フラッグ奪取と違うところを上げれば、クラウンが強ければ、敵を倒すことも許されている。


 アイス王子が参加しそうな競技だ。



 4、「トライアル・ラビリンス」


 最後の週に行われる競技は、魔力を帯びた迷宮を探検し、隠された宝物を見つけ出す競技。罠や幻術が仕掛けられた中で、魔法と知恵、そしてチームワークが試される。


 所謂宝探しで、学生たちが入り乱れて迷宮の探索を行う。普段は魔力によって魔物の流入を制限しているが、一部を除いて、魔物を迷宮に招き入れて、学生たちに討伐させながら、探索を行わせる。

 


「フライ様は、どの競技に参加されるのです」

「どれにも参加をしないよ」

「フライ様が本気で参加されれば、無敵だと思うのですが」

「エリザベート、僕はただの平凡な公爵家次男だよ。かいかぶり過ぎだよ」


 さて、どうなるのかな? フェル爺さんが言っていた「自由主義」を掲げる闇の組織「リベルタス・オルビス」。


 彼らは表向き「種族の自由と尊重」を唱えているが、その実、種族統合の流れを徹底的に妨害しようとしている。


 そして、表舞台では小説の主人公的な英雄「平民の英雄」が動く。


「エリザベート、アイリーンさん、ジュリア。想像してごらん」

「はい?」

「今回のイベントには、貴族や王族だけじゃなく、平民たちも参加してるよね。そして、その中には必ず“特別な才能”を持つ者が現れるはずだ」

「平民の英雄……ですか?」


 私はいつもながら適当な話題で、エリザベートやアイリーンさんとの会話を楽しむ。


「そう。例えば、剣と魔法に愛された少年。あるいは、獣人の血を引く隠れた戦士。彼らはこのイベントの中で何かを成し遂げ、英雄として名を馳せる。だが、それが誰かに利用されるとしたら?」


 ジュリアの耳がピクリと動く。


「ご主人様、何が言いたいの?」

「『貴族や王族が支配する世界ではなく、自由な生き方を』」

「えっ?」


 エリザベートが眉をひそめる。


「はは、まぁ想像だけどね」

「そんな……それでは混乱が起きますわ」

「そう。そこで僕は考える。どうすれば面白いかなってね」

「ふふ、フライ様はどんな状況でも楽しまれているのですね」


 エリザベートとジュリアは困惑していましたが、アイリーンさんは私の言葉で笑ってくれます。


「ああ、本当に最高だよね」


 本当にこの世界は面白い。各々の想いや思考が交錯する。

 

 それを観客として特等席で観れるのだから楽しいね。

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