第55話 地下迷宮があるなら、一度は行って見たいよね
何者にも縛られたくないという想いは誰にでもあるはずです。
いや、サラリーマンとして、世界の歯車に収まっていた私がいうのです。それは愚かな考えであり、そんなことはできないと知っています。
フライ・エルトールとして、公爵という地位に胡座をかいて、その歯車に収まりながらも、自由を謳っているだけの自分にいう資格はないとも言えますね。
だけど、自由を求める者たちに、そんなことを言っても仕方ない。
だって、生まれた環境に対して、不満があり、もっと良い環境を求める。自由とは、本当に何なんでしょうね。
「テル。今日は一人で街に行くよ」
「ご主人様?」
「たまには男には一人になりたい時があるんだ。テルは女性だから、わからないかもしれないけどね」
「そういうときだけ、私を女にするのはズルいわね」
私は一人で学園都市の地下へと足を踏み入れていく。学園都市の地下には、迷宮が広がっている。
上下水道が流れ、多くの魔力と魔法を研究するために、作られた巨大な迷宮。
それは学園都市の一部が管理すると共に、学園都市に合法的に侵入する経路にもなる。
「ふ〜ん、小説で読むのと、実際に見るのでは全然違うね」
フラフラと迷宮の中を歩きながら、無属性魔法を発動する。
今回発動するのは、マッピングの魔法だ。
無属性って本当に便利だと思うんだよね。自分が通った場所に魔力を残留させるだけで、自分だけに見えるエネルギーの塊が生まれる。
それを目印にして、頭の中に地図を作り出す。
無属性のエネルギーで作られた迷宮の地図が、浮かび上がって私がいる位置を教えてくれるのです。
「お前! こんなところで何をしている?!」
「これは、あなたは迷宮の管理人でしょうか?」
「そうだ。我々鼠人族こそが、迷宮の管理を行なっている。貴様もバカにするのか?」
「バカに?」
「そうだ。上にいる者たちは、我々を穴倉の鼠とバカにする。だが、我々こそが迷宮の主であるというのに!」
鼠人族は、獣人族の一種で小柄な体と、大量に人を増やすことができる。だが、あまり見た目が良いとは言えない。
小柄な体に丸い背中、ネズミのような顔をした者もいる。
「そうなんですね。僕は学園都市に入学した学生で、フライと言います。学園都市には迷宮があると聞いて、来てみたかったのです。あなた方、鼠人族が管理をされているとは、是非に話を聞かせてはくれませんか? どうかお仲間も呼んで話が聞きたいです。酒と食料でよければ提供できます」
「なにっ!? 酒だと?!」
「酒はお嫌いか?」
「いや、凄く好きだ! みんなを呼んでもいいのか?」
どうやら食いついてくれたようだ。
「ああ、キンキンに冷えたエールもあるぞ」
「なんだそれは?!」
「飲んでみればわかるさ」
「わかった。みんな! 集まってくれ!」
おじさんが声を発すると同時に一斉に人が集まってきた。
迷宮のどこにここまでの人がいたのかわからない。だが、その数は驚くほど多く。これだけの人間が迷宮の中に隠れているからこそ、迷うことがないのかもしれないな。
「フライと言ったな。お前は見どころがあるぞ」
「ありがとうございます」
「それにしても迷宮に興味を持つとは見どころがある」
「ええ、迷宮は広く入り組んでいて、どこまで続いているのかわからないので、ロマンがありますね」
実際に、地下迷宮に入ってからは別世界のような気がしてならない。よくファンタジー世界に登場するダンジョンとはまた違う。小説の中特有の世界が広がっている。
「そうじゃ、我々は全員で3000人はいるが、未だに把握しきれておらぬ。帝国だけの土地なのか、それとも大陸全土に広がっておるのか、この学園都市は入り口であり、上下水道として、迷宮と水脈を使っておるが、我々もそれを管理して、見守るだけじゃ」
これだけの人間が捜索しても掴めない全貌か、なかなかに興味深い。
「またお話を聞かせてもらってもいいですか?」
「もちろんじゃ! フライは、酒と飯をくれた。すでに我々の仲間じゃ」
「はは。ありがとうございます。もっとあるのであるだけ出していきますので、皆さんで飲んでください」
私は空間魔法の中からあるだけの酒樽と、食料を放出します。
一人で食べて飲めば、一年以上は持つだけの量が入っていて、今の私が内包できる魔力量では、三分の一が空になりました。
「凄いのう! 凄いのう! こんなに美味い酒を飲んだのは初めてだ! それに飯も美味い! フライ。我らはお主のことが大好きになったぞ」
「はは、ありがとうございます。もしも、学園都市で何かあった時には助けてくださいよ。僕って、レアキャラって言われるぐらい学園に馴染んでいないので」
「そうなのか? わかった。我々鼠人族は仲間を何よりも大切にする。フライ、お前のことは皆が覚えた。何かあったと時には必ず助ける」
地下迷宮の主を仲間にできたのは心強い。
「それは心強い! あなたたちのような地下迷宮を知り尽くした人たちと仲良くなれたのは、僕にとって最高の名誉です! 皆さんありがとう!」
私はキンキンに冷えたエールをジョッキに注いで、鼠人族に向けて乾杯の合図を送る。彼らは一瞬固まって動きを止めたが、盛大に叫び声をあげて、一緒に乾杯をしてくれる。
うんうん、どんな人たちでも仲良くなって、酒を飲み交わすのっていいね。
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あとがき
どうも作者のイコです。
今日はここまで!!!
いつも応援ありがとうございます(๑>◡<๑)
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