第54話 祭りの裏には、不穏がつきものだね。

 ロガン王子に捕まって、いきなり目立ってしまいました。


 まぁ、それでも学園都市に久しぶりにやってきた理由があります。


 近々行われる大規模イベント。


《グランド・ユナイト・フェスティバル》


 学園都市で行われる二大イベントであり、所謂お祭りです。


「フライ様、このような人混みにいらっしゃるなんて珍しいですね」


 エリザベートが微笑む。学園にも顔を出さない私が、こうして学園のイベントには参加して広場にいるのは確かに珍しいことです。


「僕はお祭りが好きなんだ。みんなで集まって何かするって楽しいじゃないか」

「それならばもっと学園に来ても良いのではないですか?」

「学ぶのは好きじゃないんだよね。じっとしているのがつまらないんだ」

「ふふ、我儘ですね」

「それに学園都市全体が盛り上がると聞いては、ちょっと興味が湧いただけだよ」


 実際に、街に出てもお祭りに向けて賑わいを持ち始め、どこに行っても賑やかなのだ。すでに学園都市全体で一週間前から準備が始まり、一ヶ月間にわたって、様々な競技が行われて賑わいを見せる。


 私は学園にやってきたこちらの方が静かだったこともある。


「ボクも楽しみなのです! お祭り、大好きなのです!」


 ジュリアが元気いっぱいに尾をブンブンと振りながら楽しさを全身で表現している。彼女は無邪気な笑顔は癒されるので、ついつい頭に手が伸びてしまう。


 広場の中心には、高台に立つ一人の教師がいる。


 彼は学園都市全体を取り仕切る運営委員の一人で、威厳ある態度と堂々たる声で、全員に向けて話し始めた。


「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。いよいよ学園都市最大のイベント、『グランド・ユナイト・フェスティバル』の開催が近づいてきました!」


 歓声と拍手が沸き起こる。周囲の熱気がどんどん高まっていく。


「このフェスティバルは、学園都市に所属する多種族、そして多国籍の皆さんが一丸となり、交流と競争を通じて友好を深めることを目的としています。競技に参加するもよし、観戦を楽しむもよし、この機会に思う存分、この学園都市の特色を堪能してください!」


 教師の声が続く中、私はその「友好を深める」という言葉に微かな違和感を覚えた。


「ただの祭りであってほしいよね……」


 独り言のように呟くと、エリザベートが意味深な笑みを浮かべる。


「フライ様は鋭いですね。このような華やかなイベントには、必ず影が付き纏うものです」

「だろうね。でも、それが何かはまだ分からない」


 教師の説明は続いていた。


「今年のメインイベントは『多層フィールドでの模擬戦闘』です。各国や種族のチームがフィールド上で競い合い、最終的に宝物『統合の宝珠』を手にしたチームが優勝となります!」


 またも歓声が広場を埋め尽くす。統合の宝珠、その言葉にどこか不穏な響きを感じるのは私だけだろうか。


「なお、この競技には学園都市の名士たちも特別審判として参加されます。ブライド皇子、アイス王子、セシリア公女、そしてエルトール公爵家のフライ・エルトール様もお名前を連ねています!」

「えっ、ちょっと待って。それ聞いてないよ」


 私の名前が出た瞬間、周囲の視線が一気にこちらに集まった。観客たちの視線が痛い。噂のレアキャラが表舞台に引きずり出された瞬間だ。


「フライ様、これは予想外ですか?」


 エリザベートが小声で尋ねる。


「予想外すぎるね。誰が僕の名前をエントリーしたんだ?」


 ジュリアが驚きつつも嬉しそうに手を叩いている。


「ご主人様、すごいのです! 格好いいのです!」

「いや、格好良くもなんともないよ……。なんで僕が……」


 教師の説明は最後の盛り上げに入っていた。


「皆さん、この『グランド・ユナイト・フェスティバル』が学園都市の歴史に新たな1ページを刻むイベントとなることを祈っています! さぁ、準備を始めましょう!」


 説明が終わると、広場は歓声と拍手で満たされた。私の頭の中には謎と疑念しか浮かんでいないが、どうやら私もこのイベントから逃れることはできそうにない。


「さて、これからどうするんだろうね」


 私は溜息をつきながら、エリザベートとジュリアの顔を見た。

 こうしてまた、一つ厄介なことに巻き込まれてしまったようだ。


 夜には、結局飲みにいくんだけど、今日はフィルお爺さんが一緒に飲もうと誘ってきたので、フィルお爺さんが指定した酒場へとやってきた。


 少し大人の雰囲気があるムーディーな音楽が演奏される高級そうなお店に、僕はテルと共にやってきた。


「フライ、よくきたな」

「フィル爺さん。こんな高そうな店大丈夫なの?」

「ふん、大人の嗜みじゃよ。それに今から話す内容はこれぐらいの場所でなくてはな」

「今から話すこと? お祭りのこと?」

「ふむ、すでに気づいておったか、さすがじゃの」


 いや、今の現状でお祭り以外の話題って逆にあるのだろうか? 僕はエールを頼んだが、さすがは高そうなお店だね。キンキンに冷えたビールが出てきて感心してしまう。


「何やら不穏な動きがあるんだね」

「くくく、お主は言わんでもわかるようじゃな。うむ、ならば一つだけお主に伝えておきたいことを教えておいてやろう」

「何?」

「リベルタス・オルビス」

「なんだいそれ?」


 フィル爺さんが、得意げに告げた言葉は、実は聞いたことがあります。


 この小説に度々出てくる組織で、『自由戦線』と呼ばれる組織で、多種族の統合を反対して、自由を求める集団だったはずです。


「くくく、ならば教えてやろう」

「ああ、聞かせてくれるかい? フィル爺さん」


 夜はフィル爺さんの自慢話を聞きながら、酒を楽しんだ。

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