第51話 才女は理解者を手に入れる 

《sideトア》


 私は幼い頃から、人とは違う思考を持っていました。


 両親からは変わり者だと言われていましたが、それでも両親は私を愛してくれていたと思います。ですが、そんな両親がなくなってしまい、私は幼いながらも計算ができたので、商家に雇っていただくことができました。


 商家の旦那さんはとても良いおじいさんで、私がすぐに読み書きや計算を覚える才能を認めてくれました。


「トアはとても賢いな。だが、商売には向いておらん!」

「なっ!?」

「壊滅的に接客業が下手じゃ! 人の心も理解しとらん!」

「ななな!!! 旦那様、酷くないですか?!」

「うむ、酷くない。じゃが、トアはとても賢い。じゃから、学園都市に行って自分の賢さを活かせる学業を身につけるが良い」


 商家の旦那の言葉に私は嬉しさと寂しさを感じました。


 商人として、商家の旦那に恩返しがしたかった。だけど、私は壊滅的に商人としての才能がないそうです。商家の旦那のお仕事を手伝うことは商人としてはできません。


 でしたら、私には何ができるのでしょうか? 魔力が少ない私には魔法がほとんど使えません。商家の旦那に紹介されて、男爵様に後見人となっていただき、私は学園都市に入学することができました。


 男爵様に、商家の旦那がかなりの額を積んでくれたのだと後になって知りました。どこまでも感謝しかできません。ですが、私自身も学園都市で暮らすようになって、手持ちの資金が底をつきかけました。


 後継人になっていだきましたが、支援は何も得られないので、自分で働いて生活をしなくてはいけません。私は学園に通いながらも割りの良い仕事を探して、酒場で働き始めました。


 お尻を触られるのは毎日のようで、だけど醜女な私にそれ以上のことを求める人はいませんでした。


 ですが、ある時お酒に酔いすぎたおじさんに無理やり路地裏につれて行かれたました。怖くて、どうすればいいのか困っていた時です。


「一度だけだ。フライ・エルトール」


 お酒を飲んだ貴族の男性が私を助けてくださいました。年齢は同じ歳ぐらいなのに、とても雰囲気のある男性で、おじさんを怖がらせていました。


 助けてくださった際にお礼を述べるととても不思議そうな顔をされました。


「支援を受けているんだよね?」

「いえ、誰からも支援を受けていません」


 男爵様の家にある馬小屋で寝泊まりはさせていただいておりますが、支援はそれだけです。宿屋で勤めているのは割が良いというのもありますが、賄いで食事を提供してくれるからです。


 フライ・エルトール様は、次の日も酒場にやってきました。


 とても綺麗なドワーフさんをつれてやってきて、店中の男性と飲み比べを始め、ドワーフの女性が次々と男性たちを酔いつぶしてしまいます。


 それを楽しそうに眺めながら、フライ様は、私を隣に座らせてお酒を注がせました。


 私のような女を横に置いて何が楽しいのでしょうか?


「わからないならわからないでいいんじゃないかな? 僕はただ適当に生きているだけだよ」

「適当にですか?」

「ああ、そうだ。例えば、ここに火属性の魔石がある」

「えっ? 魔石ですか?」


 フライ様は何がしたいのでしょうか? 学園都市にやってきても私にはしたいことが見つかりません。


 商家の旦那がせっかく色々と私のために動いてくれたのに、商人にもなれない。学問でも上手く行かない。


「ああ、そしてここに四角い形をした絹のハンカチがある。これに防火のためにニスを塗って火属性の魔石の上に置くと浮くんだ」

「えっ?! なんですかこれ??」


 そんな私の悩みが吹き飛ぶような光景が目の前に広がっていた。魔石をこのような使い方をする人など見たことはありません。


 魔力が少ない私は、魔道具を開発するのはどうだろうと考えていましたが、具体的には何も思いついていませんでした。


「はは、僕はね。自由なんだよ。こんな遊びを思いついて無駄に高い魔石を購入してしまうぐらいにね」


 遊び? 遊びでこんなにも自由な発想ができるのですか? とても面白いです。こんな学問があるなら勉強したい!


「興味深いです!」

「君なら、そのうち気づいただろうけどね」

「えっ?」

「いいや、なんでもないよ。気体の力って凄いよね。僕らには見えないのに、そこには存在するんだ」

「気体?」


 フライ様が教えてくださる一つ一つが新鮮で、私が知らない知識ばかりでした。それはとても興味深くて面白い。


「浮力の力って凄いよね」

「浮力!?」


 私は学園都市にきて初めて本気で勉強したいと思う物に出会いました。それがまさか、こんな宿屋の酒場で教えてもらえるなんて思いもしませんでした。


 そして、ウキウキした気分で屋敷に帰って馬小屋に向かう途中。


 私は男爵様から呼び止められました。


「トアよ。今日まで私が支援をしていたが、今後はお前を支援したいという方が現れてな。これまでトアが働いた分のお金と、支援するために貯めていたお金だ。これを持って明日からこの屋敷に行きなさい」

「えっ? はい。男爵様?」

「ひっ?!」


 何かに怯えた様子の男爵様に、たくさんのお金をいただいて私は新たな家に移動することになりました。


 商家に始まり、男爵様の家を経て、私がやってきたのはとんでもない大きなお屋敷でした。


 そして、私を迎えてくれたのはフライ様だったのです。


「ようこそ、我が家へ」

「お世話になります!!!」


 私は、接客が苦手です。人付き合いも苦手です。だけど、勉強ができます。そう、商家の旦那様が行ってくれたから今があります。


 そして、私が勉強したいことを教えてくれる方に出会いました。


 その方は若いのに、私を支援してくれるのです。


 これほどの幸福があっていいのでしょうか?


「どうかした?」

「いえ、私はとても幸せ者だと思ったのです!!!」


 フライ様を困らせてしまいました。私はたくさん泣いて、フライ様が用意してくれた工房でたくさん研究をします。


 いつか、フライ様にとって役に立てるように、商家の旦那に恩返しができるように頑張ります。

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