第39話 決着と呪い

 土煙が収まる頃には、エドガーのアイアンゴーレムはバーストによって破壊され、私のキメラゴーレムは立ったまま止まっている。


 そして、私は腕に負傷をして、エドガーは地に伏していた。


「勝者! フライ・エルトール!」


 アイス王子の声が響き渡る。ブライド皇子の姿はすでになくなっていた。どうやら先ほどの土煙で何が起こったのか全て理解したようだ。


 あの御仁は、頭が良い。


 だからこそ、エドガーが私を暗殺することも見越していたのかもしれない。


「フライ様!」


 エリザベートが駆け寄ってきて、私の腕から出血する姿に青ざめる。


「大丈夫だよ、エリザベート。僕にはバリアがあるのを知っているでしょ」

「ですが、私は見ておりました。観客席にいる我々に害が及ばないように、バリアの範囲を広くして我々を守ってくださっていたのを」

「エリゼベートも成長したね。バレてしまうなんて」

「長年、フライ様と一緒におりますから」


 見た目は巻き髪ロールの悪役令嬢なのに、本当にエリザベートって良い女だね。


「さぁ決着をつけたからね。君たちに謝罪をしてもらうために彼を回復させいようか」

「ふふ、フライ様は意地悪ですのね」

「そうかい? 約束は約束だ。たとえ、彼がどんな状態であってもね」


 私は自らの傷口に回復魔法をかけて、エドガーの元へと向かう。魔力枯渇と私が与えた呪いによって、意識を失っているので、魔力を回復する薬を飲ませ、起き上がらせる。


「エドガー・ヴァンデルガスト。貴様の負けだ」

「くっ! 認めよう。私の策は潰えた。貴様の勝ちだ。フライ・エルトール」


 エドガーが私を認めたことで、セシリア嬢とエリザベートへ謝罪させることが決まる。


「私が見届け人として、正式な謝罪の場を用意しよう」


 今回の審判であり、見届け人のアイス皇子が公開処刑の場所を用意してくれるそうだ。


「私からも一つよろしいでしょうか?」


 セシリア嬢もエドガーに対して、思うところがあったのだろう。私はセシリア嬢に先を促した。


「どうぞ」

「ヴァンデルガスト様、あなたの行為はずっと迷惑でした。謝罪をしていただくということなので、これまでの私に対する無礼な振る舞い。そして、強引な口説き、そして我が友人たちに対して、失礼な態度。それらを全て反省して、謝罪してくださいませ。それと、私はあなたからのプロポーズは一切受け付けません。生理的に無理です」


 私は思わず吹き出しそうになるが、どうやらセシリア嬢は相当にエドガーに対して鬱憤うっぷんを溜めていたようだ。


「では、わたくしからも」


 今度はエリザベートがエドガーに告げるようだ。


「わたくしの家族であるフライ・エルトール様を傷つけたことを一生忘れません。あなたがした行為は最悪の反則行為です。その上で負けたことも謝罪くださいませ」


 私がエリザベートを侮辱されて怒ったように、エリザベートも私が傷ついて、怒ってくれているということなんだろうね。


「わかった。それらを踏まえて公の場で貴殿ら二人に謝罪しよう」


 エドガーは随分としおらしく全てを受け入れた。


 こうして、ゴーレム決闘は幕を閉じた。


 後日、アイス王子の呼びかけによって、エドガー・ヴァンデルガストが行った数々の所業が晒されて彼はそれを公の場で謝罪した。


 だが、皆が一番驚いたことは、エドガー・ヴァンデルガストが謝罪の場で見せた姿だった。


 奴は頭の毛を全て剃って、いや現れた。


「なっ、何もそこまでしていただくても」

「そうですわ。わたくしもそこまで望んだわけでは」


 セシリア嬢、エリザベートはエドガー・ヴァンデルガストの潔さに謝罪を受け入れた。公の場で謝罪をして許しを得たことで、その後のイジメなどに発展することはなかった。

 

 だが、エドガーのに誰もが注目して、ヒソヒソと噂をするネタになったことは間違いない。


 だが、それはある意味で好感を呼ぶものであり、その潔さを褒める声が大きかった。


 だが、エドガー自身は、それらに対して沈黙を貫き。


 時折、私と目が合うたびに、恨みがましい憎悪の目が向けられる。


「エドガー様は、フライ様に対してまだ怒りがおさまらないのですね」

「まぁ、彼にもいろいろあるんだろうね」


 エリザベートの言葉に、私は余裕の笑みを作るだけだ。


 エドガー・ヴァンデルガストは今回の一件で大きな物を失った。

 

 一つは、自らがずっと誇りに思ってきた侯爵家の次期当主という資格だ。


 これに関してはゴーレム決闘の際に私を殺害しかけたことをアイス王子やセシリア嬢から抗議が起こり、いくら学生同士の決闘と言っても、相手を殺す意図があったと判断された。

 

 ユーハイム伯爵家、エリトール公爵家からも正式な抗議文が送られたことで、侯爵家の回答は、エドガーの廃嫡。さらに、私へのお見舞金の提示だった。


 私としては、すでに勝敗が決したことなので、家同士の問題には口出しすることなく承諾した。



 一つは、エドガーに私がかけた呪いです。


 男ならば、失うのが怖いものが存在することを理解してくれるだろう。


 そう、奴の毛根を死滅させた。


 反省の色が見えなかったので、強制的に髪の毛を殺すことで、私の気分を晴らした。


 だが、最後に意外だったのは今もエドガーが学園に通うことができているのは、ブライド皇子のおかげだった。


 命以外の、家も、名誉も、髪の毛も失ったエドガーをブライド皇子が側近の一人として拾い上げた。


 どういう意図があるのか、私にはわかるが、今回の一件は私からすればブライド皇子への貸しだと思うことにして、これ以上は追求することをやめた。


「とりあえず、これでうるさい奴との因縁は終わりかな」


 今のエドガーは平民であり、私を睨む以上のことはできない。


 ただ、一つだけ私の誤算があったとすれば……。


「フライ様、お茶会の準備ができましたよ」

「セシリア様、フライ様の腕を離してくださいませ!」

「エリザベート様、あなたはエリック様の婚約者なのでしょ? ならば、そんなことをいう資格はないのではなくて?」

「ぐぬぬぬ!」


 なぜか、セシリア嬢が僕の腕を抱きしめている。なんでこんなことになったのかわからないが、公女様から好意を持たれてしまったようだ。


「フライ様、私が作ったクッキーです。食べてくださいませ」

「へぇ〜セシリア嬢は、お菓子作りが得意なんだね」

「はい! フライ様のためならなんでも作りますわ!」

「フライ様! デレデレしすぎです!」


 なんだか賑やかなメンバーがまた一人増えたね。


 

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