第38話 ゴーレム決闘
布が取り払われて、互いのゴーレムが晒される。
私はエドガー・ヴァンデルガストのゴーレムを見て意外だと思った。
エドガーは、利己的で傲慢な人間だ。だからこそ、選ぶのは、スタンダードなストーンゴーレム一択だと思っていた。
だが、エドガーが用意したのはアイアンゴーレムであり、しかも繋ぎ合わせたツギハギだらけのアイアンゴーレムではなく、一つの鉄の塊を人型に作り直していた。
「どうだね? フライ・エルトール。我がヴァンデルガスト家のゴーレムは、もちろん素材は鉄であり、違反はしていない。だが、巨大な炉を使って鉄を溶かし、人型の中に流し込んで作ったゴーレムだ! こうすれば本来のアイアンゴーレムを作る際に必要な魔力量は抑えられ、さらに動きもストーンゴーレム並みに早くなるのだ!」
肩関節と股関節は動くようになっているようだけど、結局は普通のゴーレムと対して違いはない。
「そう、自信があった理由はそれかい?」
「貴様のゴーレムは、どうやら動かすこともできんようだな」
私のゴーレムは布を取り払われても、寝転んだまま立ち上がらない。
魔力を流しているゴーレムは、自動的に起き上がり生命体として生まれるので、一種の魔物化を果たす。実際に、エドガーはゴーレムを量産して、戦争で活用する。
今回のゴーレムはその試作機第一号なのだろうな。
それに対しては、私はゴーレムの考え方を変えた。
ゴーレムの魔物化ではなく、無属性の魔力でゴーレムを包み込んで操作する。
私の手元にゲームで使うようなリモコンを発現させる。
「なんだそれは?」
「コントローラーだよ」
「意味のわからないことを……そろそろ始めよう。貴様のわけのわからないゴーレムを破壊して、謝罪してもらう」
「ああ、いいよ。やろう」
互いに視線をアイス王子へと向ける。それは試合開始の合図をしてもらうためだ。
「それでは互いのゴーレムによる決闘を開始する。両者悔いの残らぬように全力で挑んでくれ。始め!」
アイス王子の合図と共に、私のキメラゴーレムがウッドゴーレム並みの速度で、エドガーのアイアンゴーレムに迫って蹴りを入れる。
「なっ?!」
「えっ?!」
「おおお!」
エドガー自身も、そして見ていた観客たちからも驚きの声が上がる。試合開始前まで動くことがなかった。キメラゴーレムが動き出して、格ゲーに登場するキャラのようにカクカクとではあるが、ゴーレムではあり得ない滑らかな戦闘を行う。
私としては、ポリゴンキャラを動かしている気分ですね。
「なっなんだ! その動きは!」
「どうした? もう降参かい?」
「舐めるなよ! 私のゴーレムは傷を負っていない!」
蹴りを入れて吹き飛んで入るが、さすがはアイアンゴーレム。耐久性が高い。
だが、動きの遅いアイアンゴーレムなら、いくら立ち上がっても問題ない。
「アイアンゴーレムの動きの遅さを指摘したいのだろうが、そんなことを私が見落とすと思うのか?! 風よ!」
エドガーが属性魔法を発動させる。奴は風魔法が得意で、アイアンゴーレムに魔力が流れると足元にエアーで浮き上がったアイアンゴーレムが突撃を仕掛けてきた。
「なるほどね。風魔法の魔導具で浮かせることで、動きの補助を考えたか。やるじゃないか」
「負けぬ! 負けられるのだ!」
一瞬だけエドガーの視線がブライド皇子に向けられる。忠誠心なのか、どんな想いを抱えているのか私にはわかりません。
ですが、いくら速度を早めようと、いくらアイアンゴーレムの頑丈さがあろうと……。
「当たらなければ意味がない」
風魔法で浮きながら突進をしてくるエドガーのアイアンゴーレムだが、攻撃が直線的で避けやすい。動きの速さも慣れてしまえばたいしたことはない。
「くっ!?」
「終わらせよう。確かに発想や工夫、戦術は面白かったよ。だけど、僕のキメラゴーレムの方が強い」
私にしか扱えないゴーレムでエドガーのように量産はできません。ですが、今回の決闘では負けないでしょう。
「認めてやる。確かに貴様のキメラゴーレムは我がヴァンデルガスト家でも作れぬ。どうやって動いているのかもわからぬ。だが、奥の手は最後までとっておくものだ!」
「えっ?」
私の目の前に飛んできたアイアンゴーレムが突如、熱風を生み出す。
コントローラーでアイアンゴーレムを私の近くから引き離そうとしましたが、掴んだ瞬間にキメラゴーレムの手が溶けました。
「なっ!」
「バースト!」
エドガーが奥の手に選んだのは、ゴーレムの核となる魔石を暴走させる自爆行為。つまり、私の暗殺だったのです。
会場中が騒然となる中で、私は無属性魔法のバリアを発生させて事なきを得ました。同時に観客席にも害が無いようにバリアを貼ったので、自分のバリアに綻びができてしまったので、腕に傷を負いました。
自爆したゴーレムの影響で土煙が上がっていますが、私はその間に操作席から移動して、エドガーを押さえつけました。
「なっ!? どうして生きている!?」
「エドガー・ヴァンデルガスト。私は貴様が嫌いだ。そして、今回、貴様は私の暗殺を企てた。殺されても良いレベルだ」
怒り、憎悪、嫌悪、自分の心に渦まく感情は良くも悪くも薄暗いものです。
誰かに対して、このような感情を持つ日が来るなど考えたこともありません。
「ならば殺すが良い。同じ貴族殺しとして、我が一族が貴様を殺すまで追いかけ回すだろう! 私はその覚悟で貴様を狙った。エリック・エリトールに命を狙われようと、貴様はブライド様の脅威になる! そして、私にとっても貴様は邪魔だ」
自分が抱える感情をエドガーも同じように抱えている。
この場で殺すことは簡単だ。だが、彼にとっては殺されることよりも、女性に謝罪することの方が余程、悔しい顔が見れるだろう。
「殺しはしない。だが、一つだけ、貴様にプレゼントを残してやる」
「何をするつもりだ!」
「謝罪の約束は守ってもらうぞ。この決闘は貴様の負けだ」
私は無属性魔法で生み出した呪いを、エドガーにプレゼントする。
砂煙が収まる前に、私は操作席へと戻った。
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