第34話 決闘の申し込み

 お爺さんがなかなか離してくれなくて、夜になってしまった。


 やっと解放されて外に出ると、雨が降っていた。石畳の道路を歩きながら、ジュリアとレンナもローブを纏いながら、ビショビショになっている。


「やっと見つけたぞ」


 そんな僕らの前に、同じくビショビショになっている男に声をかけられた。


「エドガー・ヴァンデルガスト、何か用かい?」


 まさか、大勢の前であんなことをされて、また私の前に姿を見せるとは驚きですね。


「ああ、貴殿に決闘を申し込む」

「決闘? 古風なことをするんだね。今ここで殺し合いでも始めそうな雰囲気なのに」


 この世界に転生して学園都市に来てからは、殺気をぶつけられることが多いな。


 殺気だとわかってはいるけど、害を与えられる事はなかったので、これまでは適当に流していた。


 実際に、人を殺したいとは思わなかったからだ。


 だけど、エドガー・ヴァンデルガスト。


 君は違うよ。君から向けられる視線も、君が発する殺気も、全てが私からすれば不快で仕方ない。


 眼力が強い瞳で、見つめられて他の誰にも感じたことがない不快感を覚える。生理的に合わない。


「私は栄光ある帝国の貴族として誇りを持っている。だが、貴様は私の誇りを汚した。公共の場で貴殿に謝罪していただきたい」


 理性的だと思えばいいのかな? エドガーを前にすると、どうしても私の方が大人気ない。貴族としての誇りを守りたいから、私に謝罪を求める。


 そのための手段として決闘ということか。意外に律儀なんだな。


 今すぐ雨が降り頻る地面に頭を叩きつけたい衝動を抑えるのが、こっちは必死なのに。


「謝罪はしてもいいけど、君は僕が怒った理由をちゃんと理解しているのかい?」

「もちろんだ、私は貴殿の方が貴族として位が上だったのにも関わらず、貴殿を知らずに無礼を働いた。それに関しては謝罪をしよう。だが、あの場で行われた事は過剰だったと私は思う」


 ああ、やっぱり私はこいつが嫌いだ。


 こいつがエリザベートに対して侮辱を口にしたことなど微塵も覚えていないのだろうな。自分よりも貴族の位が上とか下とかそういう話じゃないんだよ。


「残念ながら、そんなことで怒ったんじゃないよ。君は正しく謝罪をしていない。その決闘で、僕が勝ったら、君には公の場で、セシリア嬢とエリザベートに謝ってもらう」


 私に謝ってもらっても何も嬉しくない。


「なっ!? なんだと、どうして私が自分よりも位の低い女に謝罪しなければいけないんだ?! 私が膝を折るのは、皇女様か、女王様だけだ」


 エドガーの中では、自分よりも貴族としての位が低い者に対しては謝罪はいらない。また女性に対してもしないと?


 うん。本気でわかっていないね。


 大切な人というカテゴリーに貴族の位も男女の差もないんだよ。


「どこまでも君とは相容れない事は理解できたよ」


 すでに、この世界でも多くの女性が活躍している。セシリア嬢は公国の王女として外交にも積極的に参加している。


 それに、これからの将来は英雄の中に女性も多く存在する。


 それを認められないエドガーには、正しい意味で理解してもらう必要があるね。


「それがわからないから、条件なんだ。負けた際に謝罪をすることが嫌なら、決闘は受けない」

「ぐぬぬぬ、よかろう。私が負けたならセシリア嬢、エリザベート嬢に謝罪する。その代わり!」

「ああ、君が勝った際には僕が公の場で君にしたことは間違いであったと謝罪しよう」


 雨音が強くなる。もしもこいつの顔がハッキリと見えていたら、決闘など関係なく殴り飛ばしていたかもしれない。


 すでに、エドガーの存在が気に入らないと思ってしまっている。


「それで? 何で決闘するの? 殴り合い? 魔法?」

「ゴーレム決闘を申し込む!」

「へぇ〜ちゃんと考えているんだね」

「私は、個人的に戦ってもお前に負けるとは思っていない。だが、知力でも、魔力でも、そして、戦闘でも貴様に負けていないことを証明してやる」


 私が存在を否定したいように、エドガー・ヴァンデルガストもまた私を否定したいのだろう。


「いいだろう。その決闘を受ける」

「感謝する。決闘は三日の放課後に、訓練所で、立会人はこちらはセシリア嬢にお願いするつもりだ」

「こちらはエリザベートを連れて行く。それともう一人、我らに関係ない人間を連れていく」

「誰だ?」


 エドガーが怪訝そうな顔を向けてきた。


 だから私はめいいっぱい皮肉を込めて名を告げてやる。


「アイス・ディフェ・ミルディ」

「なっ!? ブライド様の敵を立会人にするというのか?!」

「だからいいんだろ? お互いにとって公平であり、絶対にどっちにも肩入れしない人間だ」

「……好きにしろ。私は絶対に負けない」


 最後の捨てセリフを残して立ち去っていく。


「ご主人様、大丈夫?」

 

 私を心配して声をかけてくれたジュリアのモフモフな頭を撫でさせてもらいます。彼女の髪も雨で濡れていましたが、彼女のおかげで気持ちを切り替えることができました。


「私に命じれば、あのような男すぐに殺せたものを」

「レンナ、それじゃ意味がないんだよ。僕が奴と決着をつけておきたいんだ」

「そういうものか」

「ああ、そういうものだ。さぁ帰ろう。体が冷えてしまうからね」


 私は二人を連れて帰る。


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あとがき


どうも作者のイコです。


今日はここまで!


明日も投稿頑張ります!

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