第35話 ゴーレム決闘ルール
エドガーが申し込んできた『ゴーレム決闘』は、この小説の中では度々出てくる決闘方法だ。もちろん、知っているが。知っているのと実際に出来るのとは訳が違う。
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ゴーレム決闘の基本ルール
目的:各々が自らの魔力を注ぎ込んで作り上げたゴーレムを操り、戦わせる形式の試合で、相手のゴーレムを完全に破壊、もしくは戦闘不能にすれば勝利。
素材:ゴーレムの素材は石、金属、木材の三種類から選ぶ。ただし、学生同士が行う際には使用禁止材料や、魔導具が存在する(実戦では材料や使用禁止はない)。
学園に申請して公正な使用許可をもらわなければ、決闘で使用することはできないこととする。準備時間は限られるため、素材選びも重要な戦略の一環となる。
魔力::ゴーレムは起動時に魔力を自らの魔力のみでゴーレムを作ること。また戦闘中は操縦者の魔力が尽きれば動けなくなるため、魔力管理が勝敗を左右する。
試合時間:制限時間は30分。それまでに決着がつかない場合、審判が状況を見て判定する。
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図書館で、ゴーレム決闘について調べに来ていた。色々とルールや戦い方は学ぶことができたと思う。
ゴーレムの知識、それを作るための魔力、そして、実際の戦いを行うための戦略。
エドガーがどうしてこの戦いを選んだのか理解できた。全てが僕よりも上だと言ったのはこのことだっただね。
ジュリアが隣で目を輝かせながら僕に問いかける。
「ご主人様、ゴーレム作れるの?」
「作るのは大丈夫じゃないかな。材料は学園が提供してくれるようだからね。それに素材や魔導具なども禁止は理解したよ。でも、エドガーはゴーレムの作成方法は、きっと僕よりも詳しいはずだ」
ジュリアは小さな手で拳を握りしめて、「頑張ってください!」と応援してくれる。その素直さが嬉しい反面、どうしたものか考えるしかないね。
それにもう一つ、決闘の立会人を依頼するため、僕はアイス王子を訪ねた。
彼がいるという噴水のある中庭に向かうと、爽やかな笑顔で他の生徒たちと話している姿が見えた。
「アイス王子、ご歓談中に申し訳ないが、少しお話をしてもいいだろうか?」
「やぁ、フライ君、どうしたんだい? 学園で君から話しかけられるなんて珍しいね」
その口調はどこか、からかうようなものだったが、敵意は感じない。
「少しお願いがあってね。アイス王子、時間を取ってもらえるかな?」
「もちろんだ。話を聞かせてくれ」
話していた者たちから距離をとって、僕はエドガーとの決闘について簡単に説明して、ゴーレム決闘の立会人をお願いした。
「なるほど。それで僕にジャッジを頼みたいと?」
「ええ。アイス王子ならば、僕とエドガーのどちらに加担することはないと思ったので。公平で中立な判断をしてくれる人物だと思っています」
アイス王子は少し驚いた表情を見せたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「僕が公平かどうかはわからないけど、興味深い話だね。いいだろう、引き受けるよ」
「ありがとうございます、アイス王子。感謝します」
「う〜ん、依頼の報酬なんだけど」
「報酬?」
アイス王子から、そんな申し出をされるとは思っていなかったので、首を傾げる。
「ああ、タダで、というのはちょっと狡いだろ」
「ええ、僕に出来ることならば引き受けますよ」
「その時が来たらよろしく頼むよ。そうだ、少し時間はあるかい? 話でもどうだい?」
「話?」
「ああ、君と話してみたかったんだ」
依頼を引き受けてもらった後、アイス王子と少し話をすることになりました。彼は木陰に腰を下ろし、私に視線を向けます。
「君は随分と面倒なことに巻き込まれるんだね。学園に来たばかりの頃は、もっとのんびりしている印象だったけど、学園に来たら随分と賑やかだ」
「僕だって好きで巻き込まれているわけじゃないですよ。できれば、平穏無事に静かに過ごしたいくらいです」
その言葉にアイス王子は声を立てて笑った。
「平穏無事か……。それにしては、君は随分と目立つ行動をしていると思うけどね」
「……そうですか?」
アイス王子は僕をじっと見つめた後、少し真剣な表情になった。
「ああ、君は入学してからフラフラとギャンブルに時間を興じて、やっと学園に来ても特定の相手と接するのではなく、様々な人物と交流を深めている。ロガン王子やセシリア公女などね」
どうやらアイス王子の気に障ってしまったかな?
「勘違いしないでくれよ。別に君を怪しんでいる訳じゃないんだ。だけど、君の動向を様々な者たちが気にしていると伝えたい。フライ君、君の言葉は本心なんだろうけど、僕には君がそういう生き方を本当に望んでいるのか、少し疑問に思うよ」
私の本心? 自分でもよくわからないことを言われても困ってしまう。
「どういうことです?」
「君は、自分が信じる正しさのために動いている。それはすごく立派なことだ。でも、それが他人を巻き込んでいるように見えるね」
「忠告ですか?」
「いいや、私は君を嫌いじゃない。羨ましいとすら思える」
「羨ましい?」
アイス王子から、私のような平凡な人間を羨ましいという言葉が出てきて意外に思う。私は静かにこの世界の行く末を見たいと思っているだけだ。
だけど、その生活が周囲に影響を与えているとしたら、確かに行動との間に矛盾が自分でも気づかないうちに生まれているのかもしれない。
「ああ、僕は自分よりも健康的で、何事にも自由な人を羨ましいと思うよ。君は紳士的で優しいから、気をつけた方がいい」
「ありがとうございます。それでも僕は自分の大切なものを守るために動きますよ」
エリザベートのことを言われて怒ったのを、優しいと忠告してくれのたのだろうな。
「ああ、すまない。余計なことを言ってしまったね。君らしくやればいい。僕も審判として、君たちの戦いを見届けさせてもらうよ」
アイス王子は再び笑顔を見せた。その笑顔には、どこか理解と親しみが感じられた。
私はアイス王子に感謝の意を伝え、中庭を後にした。
アイス王子との会話は、彼の人柄を知る良い機会になった気がする。彼が本当に公平な立場でいてくれることを信じながら、僕は決闘の準備に集中することを決意した。
「さて、次はゴーレム作りだね。ジュリア、準備を手伝ってくれる?」
「はい!ご主人様、一緒に頑張るのです!」
決闘に向けて、身を引き締まる思いがした。
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