第16話 獣人少女 前半

《sideジュリア》


 ボクの世界はとても冷たくて暗いものだった。獣人は強さを重んじる。強い者が族長になり、強い者が決めたルールの元で生活をする。


 強いオスは、メスを自由に出来て、弱いオスはただの労働者としてこき使われる。


 ボクの父は弱いオスで、母を別のオスに蹂躙され、守ることもできずにボクを奴隷に売り飛ばされた。


 だからボクは強くなりたくて、ボクというようになった。


 最初は子供だったこともあり、体を無理やりに求められることはなかった。だけど、学園都市という獣人王国から遠い国に連れてこられて、成長を始めたボクをメスとして、売ろうとしている奴隷商人がいた。


 怖い。嫌だ。だから必死に逃げた。


 ボクはどうしてこんなにも弱いんだ。


 隠れて、逃げて、でもお腹が空いて、でも誰も助けてくれなくて、悪いことだとわかっていたけど、捨てられたゴミを漁るだけでは足りなくて、食堂の料理を食べ逃げた。


 身なりが汚いから正面から入らずに裏から入って、出来た料理を盗んだ。


 だけど、すぐにバレて追いかけられた。


 追い詰められた時にはもうダメだと思った。


「謝りに行こう。お金は出してやるから」

「えっ? バカなの?」

「はは、そうかもね」


 初めてだった。優しくされたのも、叱ってくれたのも、一緒に謝ってくれたのも、とても嬉しくて、でもどうしたらいいのかわからなくて、お腹は空いて、本当に


 いいのかわからないまま。


 フライ・エルトールの名前でご飯を食べた。店屋の店主も最初は「嘘だろ!」と怒鳴ったけど、次の日から、ご飯は本当に食べられるようになった。


 店屋の店主の方から「もっとどんどん食べろ。お前が食べた分を貴族様に請求できるからな」と言って、どんどん豪華な食事を与えてきた。


 そんな生活が続いている時、あいつのメスがボクを捕まえた。


「あなたフライ様の隣にいるなら綺麗にしなさい!」


 メス達に無理やり体を洗われた。久しぶりに入るお風呂はとても気持ちよくて、全身がドロドロになっていたから、ボクは……。


「そう、あなたは奴隷なのね」

「うっ」


 奴隷には奴隷紋と呼ばれる背中に紋章が浮かび上がる。ご主人様から逃げても、この紋章がある限り、奴隷の身分を返上することはできない。


 ボクの人生は、弱くて、虐げられて、強いオスに無理やり奪われる人生なんだ。


「ジュリアと言ったわね」

「えっ?」


 金髪で巻き髪のメスがボクを抱きしめて、大丈夫だと言った。何が大丈夫なのか理解できない。


「あなたは幸福です。今まで、どれだけ辛い思いをしたのか知りません。ですが、あなたを見つけたのがフライ様だったことが全てを幸福へ導いてくれます」


 何を言われているのか全くわからない。だけど、フライの側にいると凄く穏やかで落ち着ける。久しぶりにお風呂に入って綺麗な服を着せられてフライの前に連れて行かれる。


「おお、フワフワじゃないか」


 そう言ってボクの頭を撫でてくれる


「やめろよ!」


 ボクはやめろと言いながらも内心では凄く嬉しかった。誰かに頭を撫でてもらうって凄く気持ちい。それにフライは他の汚いオスとは違っていい匂いがして、とても強くて優しい。


「はは、ごめんごめん。エリザベート、アイリーンさん。ジュリアをお風呂に入れてくれてありがとう」

「どういたしましてですわ。ですが、フライ様。そろそろ学園にも顔を出してくださいませ」

「そうです。私たちの制服姿を見てほしいです」

「うんうん。今の事件が片付いたらね」


 ボクの頭を撫でながら、話をするのをやめてほしい。もっとボクだけを撫でていてほしいのに。


「事件ですか?」

「ああ、ただフラフラとしていたわけじゃないんだよ。そう、人間観察をしていたんだ。それでわかったことがあるんだけどね」


 私にはわからない難しい話。


 だけど、ずっと頭を撫でてくれるから嬉しくて、眠くなってくる。ご飯をいっぱい食べられて、お風呂に入れてもらって、頭を撫でてくれる。


 ボクは人生で初めて、幸せだって思った。


 ♢


 それからのボクは、フライの後を追いかける日々だった。


 お腹が空いたら、ご飯をフライと共に食べて、側にいると頭を撫でてくれて、何かあれば知らせると一緒に逃げてくれる。


 たまにエリザベートとアイリーンというメスが会いにくるから、それを知らせるのがボクの役目になった。


 フライの役に立てている。それがなんだか誇らしくて、嬉しかった。


「そうだ。ジュリア、君に聞きたいことがあるんだ」

「聞きたいこと?」

「うん。獣人って魔法の代わりに獣化が使えるんだよね?」

「うっ?!」

「どうかした?」


 私は獣化が使えない。昔からそうだった。だから、私は弱い。


「なるほどね。完全に獣にはなれないけど、部分的に獣化は可能と。えっ? それってむしろ最強なんじゃない?」

「えっ?」

「だって、獣化ってリスキーだよね。全部獣の姿になると確かに力は強くなって、動きも早くなるかもしれないけど、絶対に器用さは落ちるよね? だけど、部分だけなら、強化したいところだけ獣化して、逆に強化しなくていいところは上手く使えば、面白い変化ができるんじゃないか?」


 フライの発想はボクにはないものばかりで、今まで弱いと思い続けていたボクの力が強くなる?


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 今日も頑張った! 4万字突破偉い! 今日はここまで! 自分で自分を褒める! そして、たくさん読まれて嬉しい。いいねもコメントも増えて嬉しい!! ブクマも、⭐︎も嬉しい!!!!


 こんなんなんぼもらっても嬉しいですからねw


 いつもありがとうございます。

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