第17話 獣人少女 中盤

《sideジュリア》


 ボクは強くなりたい。


 だから、どうすれば強くなれるのか教えて欲しかった。


「強くなりたい? 私は平凡だからね。獣人の強さを教えられるかわからないけどいいかい?」

「それでもヒントがほしい」


 フライ以外に頼れる人がいないから……。


「わかったよ」


 どんなにしんどくても、どんなに難しい修行でも、頭の良いフライが教えてくれるなら耐えるつもりだった。だけど、フライが提案した内容はそれほど難しいものではなかった。


「まずは、部分的に変化できるのを見せて」


 ボクは言われるがままに、右手を獣化させた。


「くっ?! モフモフワンコの腕だと! これは破壊力がヤバイ! 可愛すぎる!」

「ふざけてる?」


 ボクは強くなりたいのに、フライは考えること、意味を知ることを優先した。


「いや、はは。ふざけてないよ。うーん、獣化って、筋肉を増強したり毛の量を増やせるんだよね?」

「あとは爪や牙を強化できる」

「うん。用は人族としての遺伝子と、獣の遺伝子が混じり合っているのが獣人ってことで、獣化は獣の遺伝子を魔力によって操作して、人体の部分的な成長を強化することなんだね」


 一人でブツブツ呟いて、難しいことを考える。私にはわからないけど、部分的な変化の使い方を考えてくれているんだと思う。


 それに腕を変化させただけで、フライは何かを理解したようにブツブツと一人で呟き出した。


 フライは自分の中で考えて、わかりやすく説明してくれるために声に出して、頭の整理をしているんだと思う。


「よし。要は獣化も使い様だ。ジュリアはどうして自分が全身の獣化ができないか理解しているかい?」

「ううん」


 ボクは首を横に振る。


「単純に獣化に必要な遺伝子が。いや、つまりはジュリアは全身獣化ができない体なんだよ」

「全身獣化ができない……」


 断言されてしまうと落ち込んでしまう。


「まぁ、落ち込まないで、代わりに部分獣化ができる体質の方が、普通の獣人よりも珍しいことだと思うよ」

「そうなの?」

「多分ね。獣人は獣化を途中で止めることはできるって聞いたことがある?」


 フライに問いかけられて、お母さんに教えてもらったことを思い出す。


「えっと、獣化は三段階あって。人、獣人、獣化の三種類」

「うん。つまり、普段の生活が獣人状態とするなら、人になるか、獣になるかの二択なんだ。だけど、ジュリアはその間になれる。これって凄いことだよ」


 ボクは、フライの説明を聞いているうちに自分はすごいのだと思ってしまいそうになる。

 

 だけど、それが強さとどう繋がるのだろう?


 確かに全部獣化はできない。だけど、腕だけとか、足だけの獣化ができるって逆に凄いことなのはわかったけど、強さは手に入らない。


「筋肉増強、獣人の毛並み毛量増加、爪の長さや強度や耐久性アップ。牙の長さや咬力アップなんかも自由に変えられるってことだよ。それって、全身を獣化させるよりも難しいかも知れないけど、習得できれば凄い力になると思うな」

「そうなの?」

「ああ、一つ一つの検証をしていこう」


 フライは強くなるための方法を教えてくれた。

 ボクは自分の能力を知ることができた。

 今まで弱いと思い混んでいた能力は、ボクだけの特別な才能だった。


「いいかい? 君は他の獣人よりも強くなれる」


 力は使い方、ボクだけの才能、そして強くなるためには理解が必要。


 それぞれの能力の使い方や、鍛え方を教えてくれた。


「フライ……様、どうやってお礼をすればいいかわからない。ご飯もたくさんもらって、温かいお風呂に入れてくれて、綺麗な服を着させてくれて、こうして力もくれた」


 たくさんのモノをフライはくれた。


「気にしなくてもいいよ。私は研究ができて、適当に言っているだけだから」


 とても難しい話をしていたのに適当? そんなはずはない。きっと私に恩義を感じさせないようにしてくれているのだ。


 だけど、ボクは奴隷で、いつか捕まれば殺されるのか、強制的に働かされるだろう。


 もう、フライには会えないんだと思うと怖くて、泣きそうになってしまう。


「それは心配しなくていいよ。君の力を借りたいことがあるんだ」

「私の力を借りたい?」

「ああ、ちょっと戦いをするつもりだけど、覚悟はあるかな?」

「ある!」


 フライの役に立ちたい。


 何をするのかわからない。もしかしたら、魔物と戦ってボクを囮にする? ありえるかも知れないけど、フライならいいよ。


 ボクはフライの後について行った。すると、フライは木刀を片手に、怪しい路地へと入っていく。


「大丈夫?」


 不安になってきたボクが問いかけるとフライは笑顔で振り返る。


「大丈夫だよ。うーん、ルールを破る人ってどこにでもいるよね。それに基本的に悪は断罪していいって、ラノベの定番だよね。盗賊は俺の財布だ〜とか好きだったな」


 何かを思い出して、楽しそうに笑うフライは、どこか遠くにいる人のように思えた。


 そして、たどり着いたのは、ボクが売られるはずだった。奴隷商人の店だった。


「フライ!?」

「ああ、怖がらなくてもいい。見てて」

「えっ?」


 私は信じられないものを見た。フライは、奴隷を解放して、奴隷商人の男を殴り飛ばした。


「貴様! 自分がしていることをわかっているのか?! 私は正当な奴隷商人として商売をしているだけだぞ!」

「うんうん。君はそうかも知れない。だけど、君が連れてくる奴隷は誘拐や密売によって手に入れたものだよね。その辺は調べがついているんだ。それにここは帝国で、私は帝国の公爵の息子だ。一商人が何を言おうとここでは意味をなさない。道楽息子のわがままに可哀想な商人が滅んでしまうだけだよ」


 フライの顔は笑顔なのに少しだけ怖かった。そして、怒っているのがわかった。それは奴隷商人に対して怒っていて、ボクたちのような弱い者のために怒ってくれているんだ。


 この人は、強いのに、弱い者のために怒ってくれる人なんだ。


「ゴンザレス! ゴンザレス、いけ!」


 現れたのは熊の獣人だった。強そうで、大きそうで、だけど、奴隷にされて苦しそうな。


「ジュリア、君の出番だ」

「えっ?」

「あの熊男を倒してきなさい」

「ボクが?!」

「ああ、君ならできるよ。私はその間に奴隷商人と決着をつけてくる。ジュリア、力は頭で使うんだ。君は弱くない。考えろ」


 フライに言われて、ボクは腕と足を獣化する。


 全身が獣人にならなくても、部分強化でいくらでも強くなれる。それをフライが教えてくれた。


「わかった。やってみる」

「ああ、任せたよ」


 フライがボクに戦いを任せてくれた。嬉しい。絶対にボクは勝つんだ!

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