第15話 十六歳の勝負師

《sideボートレース運営者》


 ありえない。とてつもない勝負師が現れた。


 長年、魔導ボートの運営をしているが、勝ち続ける者など見たことがない。


 魔導ボートは、木で出来た小さな船を、用意した水槽に浮かべて、水槽に埋め込まれた二本の杭を周り、8の字に三周させる。


 元々は魔導士の訓練用に魔力操作と、コントロール。さらに物体と動かすという三つの魔力訓練を行うために開発されたこの技術だった。


 それを学園都市に通っていたある生徒が考案して、現在は学園都市の名物ギャンブルとして、また学生のアルバイトと訓練を兼ねて、学園都市にも認めてもらった。


 さらに学園都市に税金として収めることで、公益として認めてもらうことが出来た。


 その運営を担う俺は長年、この運営をしているが、客の勝率は良くて五割だ。


 勝率が良い者で五割勝てれば御の字なのだ。しかも、勝率がオッズとして現れているのは、魔力量や、コントロール評価、魔導ボートの実践経験などを踏まえて、こちら側が提示している。


 それは公平な能力値から算出しているので、決してお客側に不利になるようなことはしていない。たまに、貴族のお偉い方や、他国のお膳立てのために八百長をすることもあるが、それはあくまで大事な場面のみだ。


 普段は、学生たちがしのぎを削ることで、己の魔力を駆使していかに勝つのかを競い合う。魔法を使ったスポーツとして運営している。


 だが、ワシはとんでもない人間を見た。


 ふらりとやってきた時は、どこぞの貴族様で、遊ぶためにやってきたのだろうとタカを括っていた。そこそこ負ければ、やめるか、のめり込んでお金を注ぎ込んでくれる。


 今までもそうだった。五割当てて、大穴を取れば勝利をもぎ取れる。それがギャンブルだ。


 だが、十割当てられたならばどうなるのか? 大損害じゃ。


「うーん、次は彼の魔力に揺めきがあるね。それに隣の子は勝つ気はあるけど気負いすぎかな」


 後に立ってブツブツと何やら呟いているのを聞いてもさっぱりだ。


「うん。今回はこれとこれにしよう」


 四点! ふふ、バカめ。お前が一着に選択した選手は、キャリア二回目だぞ。まだまだヒヨッコ。ワシの目から見れば、勝てる見込みは0じゃ。


 とうとう負けおったな。


「よし、スタートだ。うん? ああ、やっぱりそうなるか」


 なっ?! ワシは夢でも見ているのか? キャリア二回目の新人が先頭に立って、二着争いをベテラン二人で競っているだと! この買い目は!!!


「あらら、また当たったね。しかも結構な大穴だったんだ」

「フライ様! こんなところにいた!」

「うん? ジュリア?」


 なんとあれは獣人の奴隷ではないか?! 


 最近になって、奴隷商人たちが騒いでおったな。よそ者が獣人の奴隷を売り買いしておると、しかも逃げ出した者がおったとか? 裏の者として取り締まりを考えておったが、このギャンブラーは何を知っておる?


「そうそう、お爺さん。近々大規模な取り締まりがあるそうだよ」

「なんじゃと?!(奴隷商人たちのことをやはり知っておるのか?)」

「いつも楽しませてくれてありがとう。よそ者は排除しないとね」


 なんと恐ろしい男じゃ。どこまで掴んでおるのか知らぬが、ワシが学園都市の元締めであることも掴んでおるのじゃろうな。


「うむ。お主の名前を聞いても良いか?」

「えっ? フライ・エルトールです」

「そうか、フライよ。感謝する」

「いえ、また来ますね」


 なんと清々しいギャンブラーじゃ。ワシは久しぶりに出会った男に惚れ込んだ。


「おい」

「はっ!? 総帥。どうされました?」

「近々、取り締まりが入る。それによそ者の奴隷商人を一掃する」

「いよいよ動かれるのですか?!」

「うむ。準備しておけ」

「はっ!?」


 面白い、面白いのう。長く生きているものじゃな。



 それから数日が過ぎて、ワシの元に獣人娘の奴隷証明証が届いた。


「やぁお爺さんいつもいるよね」

「うむ。そうじゃな」

「勝ってるの?」

「そこそこじゃ」

「そうか、僕はしばらく来れそうにないんだ。だから、勝ち分はお爺さんにあげるよ」

「なんじゃと?! いったいお主がいくら勝っているのかわかっているのか?!」


 こやつの勝利した金額は、ここの運営費を上回る。つまりは、すでにワシとの勝負に、こやつは勝利しておるということじゃ。


「まぁそんなのどうでもいいじゃない。ギャンブルは泡銭だよ。勝ったお金はパーと使わないとね」

「そうか、お主はそういう男か……。ならば、この奴隷契約書を持っていくがいい」

「奴隷契約書?」

「ふん、しらばっくれるでない。最初から、これが目的だったのであろう? わかっておるよ。獣人奴隷のためにここまでするとは、見事である。この指輪も渡しておこう」

「指輪? 高価なものじゃないの?」

「うむ。高価ではない。ただ、ワシが認めた男という証明だ。泡銭をもらったお礼と思ってくれ」

「まぁ、くれるならもらっておくよ。ありがとう」


 そう言ってフライ・エルトールは賭場を去っていった。


 この帝国の裏社会一角を担うマルコーに多大な恩を押し付けてな。


 奴ほどの勝負師を、ワシは知らぬ。面白い男よ。


「皆に伝えよ。フライ・エルトールは我が孫として、後継者に認める」

「「「「ははっ!!!」」」」


 面白い世の中が来るやも知れぬな。

 

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