第8話 幼い恋心 中盤
《sideエリザベート・ユーハイム》
両親からは、姉の部屋には入ってはいけないと言われ続けてきました。
そのため久しぶりに入る姉の部屋は、薄暗くてとても陰湿な雰囲気をした場所でした。
なんだか扉を開けてから怖くなり、わたくしはフライ様をお呼びしたことを後悔しました。
「ふっ、フライ様、申し訳」
わたくしが謝って部屋から退出して頂こうと思っていると、フライ様は姉が寝るベッドに近づいていかれました。
「エリザベート様、お姉さんの名前は?」
「アイリーンです」
「そう、アイリーン様、意識はありますか? お見舞いに来させていただきました。フライ・エルトールです」
フライ様の声に反応して、姉は苦しそうに目を開けました。
わたくしは長年、姉に会っていないことを思い出して、幼い頃は何度か顔を見たはずの姉が、痩せこけて病的な顔をしていることに驚きました。
このような変貌を遂げていたなど考えたせず、ショックを受けました。
「申し訳ございません。エルトール様に来ていただいたのに、このような姿で出迎えすることを、お詫び申し上げます」
姉は貴族の令嬢として恥ずかしくない言葉使いで、フライ様に謝罪を口にしました。ですが、体を起こすことができなくて、本当に苦しそうにしておられます。
「いえ、僕の方こそレディーの部屋にお邪魔してしまい申し訳ありません。あなたのことをエリザベート様が心配されておられたので、勝手ながら助力したくてやってまいりました。少しだけ僕に身を委ねていただけますか?」
フライ様は姉と何を話されているのだろうか? わたくしには何もわからない。
「わたくしは身を起こせません」
「大丈夫です。辱めるつもりはありません。ただ、診察をさせてもらうだけです。その前にこの部屋の空気は良くないですね。クリーン! ピリフィケーション」
フライ様の体から魔力は放たれると、それまで陰湿な空気だった部屋の中が一気に澄んだように感じます。
「フライ様! 何をなさったのですか?」
「うん? 僕は無属性で、光属性魔法は使えないから、魔力でこの部屋を一気に綺麗にして、細菌などを殺すために浄化をね。まぁ内容は難しいから今度ね」
全く意味がわかりません。ですが、わたくしも息がしやすくなり、姉の呼吸も落ち着いたように感じられます。
「診察をさせてもらうね。サーチ」
フライ様の手元が光を放ち、姉を包み込みました。
「今度は何をなさったのですか?」
「君のお姉さんの容態を確認しただけだよ。うん。どうやら魔力欠乏症だね」
「魔力欠乏症? なんですのそれは? お医者様たちも不治の病というだけで、原因はわからないと言われていましたよ!」
わたくしはフライ様のことを信じております。
信じているからこそ、姉に対して悪いことをしているとは思っておりません。ただ、お医者様たちがわたくしが生まれる前から研究を続けているのに、見つけられなかった病気を、どうしてフライ様がわかってしまうのか知りたいのです。
「あ〜本で読んだと行っても信じてもらえないよね? ラノベとかだと良く出てくる症状なんだよね」
わたくしには聞こえない声で呟いておられますが、こういう時のフライ様はわたくしにもわかるように説明するために、自分の中で整理をされています。
「ねぇ、エリザベート様。前に僕が魔力量を増やす実験をしている話をしたのを覚えている?」
「はい。覚えています。とても大変な修行でしたが、わたくしも続けていますわ」
「えっ? やってるの?」
「はい! フライ様に教えていただいたことですので!」
「そっ、そうか」
何やら困った顔をされておりますが、フライ様に教えていただいた方法を駆使して、いつかフライ様の横に並んでも恥じない令嬢でいようと思っております。
恋心は叶わなくても、同じレベルで友人として……すみません泣きそうになってきました。
「うん。その魔力量ってね。限界の器があるんだけど、君のお姉さんは生まれつき、その器に穴が空いているようなんだ。だから、魔力が溢れて常に魔力が欠乏して、生命力を消費しているんだよ。まぁ、僕らが修行でやっていることを君のお姉さんは強制的にさせられているような感じだね」
あの頭痛がして、吐き気を、姉は毎日病気として? それはとても辛いのではないでしょうか!?
「辛さがわかってくれて良かったよ。逆に、その壊れた器を治してあげれば、病は治ると思うよ」
「えっ!? 治るのですか?!」
「まぁ、やってみないとわからないけどね。やってもいいかな?」
「もちろんです! 我が家は姉上を治すためなら、どんなことでも致します!」
「どんなことでもって、大袈裟だね。やってみるよ」
大袈裟ではありません!!! わたくしの婚約も姉のためでした。この身を捧げる覚悟はできています。むしろ、フライ様が姉を助けてくれて、この身を捧げたいです!
フライ様は、先ほどと同じように魔力を高めて、姉を包み込みました。
ただ、今度は先ほどのような簡単なものではなく、フライ様は汗をかいて、相当に負担がかかるのか、魔力を消耗しているのが見ていて辛くなります。
「ハイパーヒール!」
フライ様が呪文を唱えると、それまで苦しそうにしていた姉の顔が見る見るうちに健康的なものになりました。
「えっ?!」
姉も驚いて目を覚ましました。
「一体何が? 苦しくない。頭痛もしない。吐き気も」
「姉様!」
わたくしは気付けば、姉に抱きついていました。
フライ様が行なったことは、奇跡以外の何ものでもありません。誰も治してはくれなかった姉の病気を、フライ様は治してしまったのです。
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