第5話 弟は尊い

《side エリック・エルドール》


 私はエルドール公爵家の長男として、恥ずかしくない教育を受けてきたつもりだった。周りは私を神童と呼び、また私もそう呼ばれるだけの自信と努力をしてきた。


 だからこそ、弟が産まれ、弟が魔法を使っている姿を見て違和感を覚えた。


 まず、第一に魔法は誰かに習わなければ使うことが出来ないはずだ。それのに、フライの奴は魔力を全身に纏って放出していたのだ。


 そんなことを五歳の子供ができるのか? いや、実際に目にしているのだあり得るのだろう。


「どうしてお前は魔法が使えるのだ? それに毎回魔力を使い切るんだ? そんなことをしていては命の危険があるではないか?!」


 五歳の弟は、ぼんやりとしているところがあり、その可愛らしい見た目に反して狂気的な行動が私を不安にさせていた。


「ああ、兄上ではありませんか? 魔法はなんとく出来ました」

「なんとなく!」

「あと、これは魔法量を増やす訓練です」

「はぁ? 魔法量を増やす?」

「そうです」


 何を行っているんだこいつ? 魔法量は生まれ持った総量が決まっていて、増えることなどあり得ない。


 私など人よりも多いと言われているが、それは普通の人に比べればだ。


 魔導士たちは、魔力の総量が産まれながらに多く。私の2倍はあるのが普通だ。


 だからこそ私は魔法だけでなく剣術も頑張らねばならないと思っていた。


「バカを言うな。そんなことができるはずがない!」


 そうだ。本当にそんな方法で増えるなら、誰もが実践したい。私だって、本当に増えるなら教えて欲しい!


「なんです? 怖いのですか?」

「むっ!? こわくなどない」


 確かに魔力切れになりかけると、頭痛がして、吐きそうになる。あれは辛いのだ。


「兄上がやるところを見てみたいです。あっ、でも本当に魔力切れになると死んでしまうので、その手前で止めてくださいね」

「むむむ、わかった」


 私は火属性の魔法を小規模ではあるが魔力を消費して永続する。


 これだけでも相当に辛い。魔法は発動しているだけで魔力奪っていく。ジリジリと自らの魔力が消費していくのを感じて、恐怖すら覚える。


「ぐっ!」

「兄上、頑張れ。もう少し!」


 私は言われるがままに魔力を使い続けて、頭痛と眩暈、吐き気がしてきた。


「はい。兄上もう良いですよ」

「うっ!」


 私は言われるがままに火を止めた。その瞬間に意識を失ってしまう。次に目が覚めた時にはベッドの中で、父上にかなり怒られた。


 もう二度とやらないと思ったが、次に魔法を使った際に私は驚いた。


 明らかに私の魔力量は増えていたのだ。


「フライ!」

「うん? 兄上、ごめんね。父上に怒られてしまったみたいだね」


 何を言っているんだ!! これは世紀の大発明だ。魔法を研究する魔塔でも、誰も証明していないことなんだぞ!


「何を言っているんだ。お前の言うことは正しかった。本当に魔力は増えたのだ!」

「うん? そうなの? だけど、しんどいから僕はもう良いかな。兄上も危険なことはやめておきなよ」


 私にはやめるように言ったくせに、フライは自分だけ訓練を続けていた。今だって汗だくで頭痛と吐き気による青白い顔をしている。


 なるほど、私が倒れたことで罪悪感を持ったと言うことか、くっ私は弟に心配されてなんて情けないんだ。


 弟に負けるわけには行かない。私は必死に訓練を続けた。


 それから五年の歳月が流れたとき、私の魔力は魔導士たちの10倍になっていた。しかし、十二歳を境に魔力量は増えなくなった。


 何か秘密があるのか? 疑問を抱えた私はフライに問いかけることにした。


 十歳になったばかりの弟に問いかけるなど恥ずかしいようにも思えたが、フライならば何か知っているのではないかと思えた。


「フライ」

「おや、兄上どうしたんだい?」

「実は、魔力量が増えなくなってしまって」

「ああ、そういうことか。多分だけど、器が完成したんだろうね」

「器が完成?」


 弟の言っていることが一ミリもわからない。器とはなんだ? 何の話をしている。


「兄上が言っていたじゃないか、魔力総量は生まれつき決まっているって、きっと人は生まれながらに魔力の器があって、増やせる総量も決まっているんだよ。兄上はその総量の限界に達した。まぁ適当だけどね。僕は知らんないけど」


 最後ははぐらかすように言っているが、とてつもない知識だ。


 私の目の前には天才がいる。きっと自分一人で研究を重ねてきたのだろう。それがどれほど大変なことなのか私にはわからない。だが、それを私が兄だというだけで、隠そうとせずに全てを教えてくれる。


 こんなにも尊い弟を持って私は誇らしい。


「フライ。私は今後どうすればいいと思う?」

「どうすればって、兄上は属性魔法が使えるのでしょ?」

「ああ、一応は二属性までは適性があると言われている」

「二属性? 全属性の間違いじゃない? 兄上からは八つの魔力が見えるよ」

「なっ!」


 魔力を放出してないのに可視化できるだと! フライの能力を認めるしかあるまいな。一体我が弟はどれほどの力を秘めているのか。


「ちなみにフライは何属性なんだ?」

「僕? 僕は属性魔法が使えないみたい。多分、無属性?」

「なっ!?」


 無慈悲だ。神よ。どうか我になど全属性など与えず、この才気溢れる弟にこそ、力を授けてくださればよかったものよ。


「わかった。私は誰にも負けない全属性を使う魔導士になろうぞ。フライよ」

「えっ? うん。頑張ってね。大変だと思うけど」

「ああ、お前の無念は兄が払そう」


 私は十歳の弟を抱きしめた。天才でありながらも才能に恵まれなかった弟。お前の知識や研究の成果は絶対に世に残してみせる。


 その時には私の名前ではなく、お前の残してな。


 そのためにも魔塔に認められ、最高権力を手に入れてみせる。




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