そしてまもなく迎えた僕の誕生日当日。

 職場の窓のすぐ外で、淡いピンク色をまとった満開の桜の木々が見えた。


 朝は忙しいから、昼休みに来るかもしれない。そう思って、ゆっくり構えていた。

 正午が近くなるとそわそわとしながら、何度も何度も壁時計の針に目をやった。


 休憩時間になり、僕はあえて外に食べには行かず、茶を淹れなおすと自分の机で朝買って来ておいたコンビニ弁当をひとりでつついた。

 来る気なら彼女は昼ご飯を食べてから、おもむろに僕のいる階まで上がってくるのだろう。

 僕は見ていないふりをしながら、階段そばの扉を気にしていた。

 

 それに構わず時計の針が容赦なく過ぎていき、彼女はとうとう現れずに午後の業務が始まったのだった。

 

 たったそれだけの縁だったのか。

 僕はすっかり肩を落としてしまう。

 思い上がっていた少し前までの自分を振り返って、内心自らを嘲り笑った。

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