ついハルミの表情を伺うような目で見てしまう。

 彼女は、書類を届けたときにするいつもの笑顔で「ありがとう」と短くいって、それきり特別なことは何もなかった。

 待ちわびた彼女の誕生日だったのに、肩透かしを食らったような気分だった。

 それで僕は彼女との距離を詰めることもできないまま、やがて異動で互いの部署も変わり、同じビルにいてもなかなか顔も合わさなくなった。


 それでも僕は次の誕生日で、それなりに答えが出ると思って構えていた。

 もし、これでもう一度プレゼントをもらえたら、そのときは雰囲気しだいで彼女を食事に誘おうと決めてもいた。


 年が明けて春先、いよいよ僕は誕生月を迎えた。

 普段の彼女の姿を知らないけど、もし僕らに縁という運命たるものがあるなら、当日ここへ顔を出すだろう。


 縁がないものを強引に結びつける能力なんて誰にもない。

 僕は、大人しくその神の審判たるものに従うつもりだった。

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