異界のゾンビを統べるもの〜異世界に勇者召喚されたけど禁忌職業【ゾンビマスター】を取得して奴隷落ち。え、ゾンビパンデミックで世界が大変?そんなのはどうでもいいので美少女ハーレムを作っていきます〜

習出井のぶ

プロローグ

プロローグ 清楚系幼馴染美少女は『転生トラップ』





「……あー……これは、マジでやばいかなっ……」


 涼しい宵闇の中をただ歩いてるだけだってのに、足を踏み出すたびに体にピリピリと痺れが走る。


 視界がぼんやりと霞んでいるのだって、徹夜明けの眠気のせいだけではないはず。


「ホントそろそろ、限界なんだよなー、この生活……」


 アホみたいに言葉をつぶやき続けていなければ、足を前に進めることすら難しい。


 残業、残業、残業、たまに仕事が早く終わったと思ったら付き合いの飲み会強制、その次の日はまた残業。


 こんな毎日を続けてたらそろそろやばいんじゃないか、とは思っていたけど……


「ここのところいつも頭がぼーっとしてる感じあるし、こんな生活続けてたら……マジで死んじゃうかもなー。ほんともうこんなブラックな職場、これ以上続けるのなんて無理だよ……」


 今日もまた徹夜明けだってのにそのまま会社での仕事を普通に強制された1日。


 そして、それだって言うのに仕事が早く終るなんてことはもちろんなかった。再びの残業を終えてから家へと向かっている今は、既に深夜三時を回っている。


 なんとか今日締め切りの案件だけは片付けてきたわけだけど……このままこんな過労を続けていたら、そう遠くない未来に死んでしまうことは間違いない。


 この仕事を終えたタイミングで辞表を叩きつける……それが自分の命を救うたった一つの道だってことはわかっている。


「でもなー……」

 

 毎度こうしてギリギリの仕事を終える度にそう思ってはいるのだけど……失業状態になることへの不安に負けて、その一歩を踏み出すことができないのだ。


 この安定していない日本の、そして世界の情勢。こんな状況で無職の道に一歩足を踏み出すってことは、そのまま戻ってこれない片道切符を切るってことを意味しかねない。


「はあ……」


 いっそのことここに飛びこんでしまえば楽になれるのかな……と歩道橋から車のヘッドライトの流れを見つめてみる。


 その光りながら動いていくヘッドライトは、まるで僕のことを誘っているかのようにすら見える。


「あのでかいトラックに突っ込んだら、異世界にチート転生とかできないかなあ……あの色形にツヤ、まさに『転生トラック』っぽくね? いけるっ、僕いけるよっ、よしっ……」


 心に浮かぶのは大好きなファンタジー小説、そして異世界転生への憧れ。


 今の僕には、前から走ってくる大型トラックなんていかにもな転生用のトラックのように見えてしまう。


 そのヘッドライトに導かれるように、歩道橋の柵の上にぐっと身を乗り出してみたところで──ふと我に返る。


「…………やめやめ、転生できたってチート能力がもらえるかなんてわかんないんだし、どうせ僕みたいな要領悪いのが異世界に行ったって、向こうでも現地人の偉い人にいいように搾取されるだけだよね……帰ってとっとと寝よっ」


 僕は歩道橋の下を覗き込むのは止め、残った気力を振り絞って自宅アパートを目指して歩いていくのだった。




「ん……なんで明かりがついてるんだ? ここって、僕の部屋、であってるよな……?」


 2日前にしっかり施錠して明かりを消して出たはずの部屋──今はなぜだかそこに明かりがついている。


 訝しみながらも、僕は部屋の鍵を差し入れて回す……が、鍵が開くような感触がない。


「……あれ? 鍵が、開いたまま? 締め忘れた?」


 疑問に思いつつその扉を恐る恐る押し開いてみると、その疑問の答えは僕の目の前にあった。


「やあ、おかえりなさい、秋人くん。遅かったね……」


 僕の部屋の真ん中でおしとやかに正座しているのは、艷やかな黒髪を腰まで伸ばすクール系の美少女だった。


「え……も、もしかして……君は、ま、愛奈まな?」


 相澤愛奈──僕の幼馴染。


 緩めの室内着に身を包んでいる愛奈だけど、その胸元だけはパツンパツンとはち切れんばかりに盛り上がっている。


 その暴力的な胸元のせいなのか、僕の部屋を包む嗅ぎ慣れない女の子の匂いのせいなのか、はたまた徹夜明けのテンションのせいなのか……もしかしたら、彼女としてきたこれまでのいろいろな経験のせいなのかもしれない。


 心臓がおかしいくらいにドキドキと高鳴ってしまう。


「ああ、そのとおり、わたしは君の幼馴染……そして、君のことがだーいすきな、君だけの愛菜だよ」


 どこか、ヤンデレ、って言葉を思い出すような……そんなねっとりとした笑顔を見せてくる愛菜。


 …………あー、しばらく会ってなかったけど、まったく変わってないってことか、この子は。


 安心感というか呆れというか……彼女のあまりの変わらなさに、さっきまで仕事の大変さで死にたいほどに絶望してたことが馬鹿らしくなってしまうくらいだった。


「久しぶり、愛菜……」

「うん、久しぶりだね、秋人くん……ご飯もお風呂も準備してあるけど、どうする?」

「いや、疲れてるから……それはもう明日、でいいかな?」

「ふーん……そうしたら、今日中に済ませるのは『私』だけ、ってことかな? 前とは違って、今の私たちは大人……本格的にそういうことをしちゃっても、構わないわけだよね?」


 蠱惑的な表情で見上げてくる愛菜に、もちろん僕はノーなんて言うことはできなかったのだ。




 ♢   ♢   ♢




 布団の上、僕が感じているのはすーすーと穏やかな寝息を立てる愛菜の暖かさ。


 すっごく疲れていたのにもっと疲れることをしてしまった僕だけど、そのおかげもあってか気持ちだけはなんだかすっきりしている。


 幼馴染との初体験ってのはそれ以外の全てがどうでもよくなってしまうほどに、素晴らしいものだったのだ。


 でも、さすがに身体の疲れの方は限界の限界……気を抜くと身体の芯から力が抜けていくのを感じる。


 このまま愛菜と一緒に朝まで眠ろう──そう、目を瞑った瞬間だった。



──転生聖女19番・相沢愛奈の異世界転移・転生システム起動を感知しました



「………………え? ……何、この機械音声?」



 キョロキョロと当たりを見回すけれど、何もおかしな様子は感じられない。



 だけど、僕の脳内に流れていく機械音声は止まらなかった。



──異世界転移・転生システム発動の最終確認を行います


──転生聖女19番と結合中の男性個体の腹上死確率………………98%です。条件を満たしています。

──転生聖女19番と結合中の男性個体の現世への絶望率………………62%です。条件を満たしています。

──転生聖女19番と結合中の男性個体の異世界転移願望率………………87%です。条件を満たしています。

──転生聖女19番と結合中の男性個体の異世界転移適合率………………94%です。条件を満たしています。


──異世界転移・転生システムを発動します


「えっ……え? なにこれ? なんのこと? ……愛奈?」


 布団の中、僕を抱きしめたままの愛奈の腕に、ぐっと力が入る。


 薄く開いた愛奈の目にはさっきまでの生気はなく、ただぼんやりと目の前にいる僕のことを冷たく見つめている。


 そんな彼女の機械のような瞳に見つめられていると、突如僕の心臓がばくばくと脈打ち始める。


 そして……


「……愛奈? ………………ぁっ、ぅぁあっ!!」


 どくんっ、と心臓が大きく跳ねる。


 同時に胸部に走り抜けた鮮烈な痛み。


 その衝撃は、致命傷、って言葉を思い起こさせるものだった。


「愛奈っ…………」


 少しずつ暗くなる僕の視界の中で、愛奈の美しい顔がゆっくりとぼやけていく。


 彼女の柔らかな身体に包まれたまま、僕の意識はゆっくりと闇の中へ溶けていったのだった。



 




──異世界転移・転生予定個体である平山秋人の心停止を確認しました。



──異世界転移・転生システムへの平山秋人の登録を進めます

──異世界転移・転生システムへの平山秋人の登録が完了しました。



──転移可能異世界を検索します



──エラー

──即時実行可能な異世界が見つかりません



──平山秋人を異世界転移・転生待機者用のキューへと追加します

──現在地球での異世界転移・転生待機中の魂は365人になります

──異世界転移・転生先が見つかるのに要する時間は約3年と予測されます



──平山秋人の魂をセーフモードにて保存します

──異世界転移・転生システム、セーフモードの起動に成功しました



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2025年1月11日 17:00
2025年1月18日 18:00
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異界のゾンビを統べるもの〜異世界に勇者召喚されたけど禁忌職業【ゾンビマスター】を取得して奴隷落ち。え、ゾンビパンデミックで世界が大変?そんなのはどうでもいいので美少女ハーレムを作っていきます〜 習出井のぶ @novpracd

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