無理だからこそ成し遂げた静かな犯行

天川裕司

無理だからこそ成し遂げた静かな犯行

タイトル:(仮)無理だからこそ成し遂げた静かな犯行



▼登場人物

●小畑智子(おばた ともこ):女性。34歳。郊外にある豪邸に1人住んで居る。

●剛田信二(ごうだ しんじ):男性。40代。ただの強盗犯。智子を襲おうとしたのは唯の気紛れ。本編では「剛田」と記載。

●上野浩平(うえの こうへい):男性。41歳。紳士。本編では「上野」と記載。

●2人目の強盗:名前は設定してません(不特定多数のイメージでOKです)。男性。30代。智子の豪邸に盗みに入る唯のコソ泥のイメージで。

●縫実輝子(ぬいみ てるこ):女性。30代。智子の本能と罪の意識から生まれた生霊。


▼場所設定

●智子の自宅:やや郊外にある豪邸のイメージで。地下室もある。

●カクテルバー:お洒落なカクテルバー。智子の自宅から最寄りにある。


▼アイテム

●液体薬:輝子が智子に勧める特製の液体薬。名前はなし。即効性の睡眠効果がある。


NAは小畑智子でよろしくお願い致します。



イントロ〜


あなたは、犯罪者とそうでない人の区別がつきますか?

一見ではなかなか区別しづらいものです。

それに生まれながら全ての人は罪人とも言います。

人の心の中に魔が差すように悪魔が入り込み、

その時に応じて何らかの衝動により犯罪をなす。

これが罪を犯す大抵の人の経過にあるでしょうか。

今回は、犯罪に巻き込まれた或る女性の、

醜くも怖い悲劇のエピソード。



メインシナリオ〜


ト書き〈少し郊外にある一軒家(大豪邸)〉


私の名前は小畑智子。

ここ都内から少し離れた郊外の一軒家に住んでいる。


最近、私は少し恐怖と不安に苛まれていた。

理由は…


(テレビのニュースを見ながら)


智子「またやられた。…女性ばかり襲う犯人、いつになったら捕まるのかしら…」


都内で起きた連続殺人事件がこの郊外にまで影響を及ぼし、

最近、私の身近でも家に泥棒に入られた、

夜道を歩いていた女性が暴漢に襲われた…

なんて噂が頻繁に飛び交うようになっていたから。


智子「まるで切り裂きジャックね…」


やり方はともかく、女性ばかりを襲う犯人。

その犯人がおそらく男と推定されていた事から

私の心には男に対する恐怖心のようなものが植え付けられた。


智子「ダメダメ!こんな事で怯えてちゃ!ちょっと気分転換でもしよう!」


ト書き〈カクテルバー〉


それから私は家から最寄りのカクテルバーへ行き

そこで気が済むまで飲む事にした。


そうして飲んでいると…


輝子「こんにちは♪お1人ですか?もしよければご一緒しませんか?」


と1人の女性が声をかけてきた。


彼女の名前は縫実輝子さん。

都内でライフコーチやスピリチュアルヒーラーの仕事をしているらしく、

どことなく落ち着いた上品な人だった。


でも1つ不思議なところがあって、

「昔どこかで会った事のある人?」

みたいな感覚を投げかけてきて、

そのせいか心が和み、今の自分の悩みや本心を

彼女に打ち明けさせられる。

そんな感覚を味わっていた。


輝子「ああ、あのニュースですか?」


智子「ええ。最近もう怖くて、夜もおちおち眠れない状態なんです。もし自分の家にそんな人が入ってきたら…なんて思うと…」


輝子「郊外の一軒家に1人住んでるとなれば、そうなるのも無理はありませんよね」


そんなこんなで私達はあのニュースの事を話し合い、

どうすればそんな不安や恐怖から逃れる事ができるか?

私は彼女にそれを相談していた。

すると彼女は…


輝子「もし良ければこちらをお持ち下さい」


と言って、2本の液体薬の瓶を差し出してきた。


智子「何ですかこれ?」


輝子「それは強力な眠り薬で、もしあなたの家に暴漢が入ってきた時、隙を見て飲み物か何かにそれを入れ、その暴漢に飲ませてやると良いでしょう。必ず役に立つ時が来ると思いますので、どうぞ今それをお持ち下さい」


なんか訳の解らない事を言ってたが、

不思議とまた彼女の言う事を私は信じさせられ、

その2本の液体薬を貰った。


智子「こんなのが役に立つ時が来るなんて…。泥棒が家に入った時なんか、そんな機会、訪れる訳ないでしょう」


ト書き〈数日後〉


そう思って内心バカにしていたのだが、

彼女が言ってた通りの事が起きたのだ。


(泥棒が入ってる)


剛田「イイからてめえは静かにしてろ!良いな?物音を立てるんじゃねぇぞ」


智子「や…やめて…お願い、助けて…」


彼女とあの日別れてから数日後の事。

私の家に本当に泥棒が入った。

しかもその男はナイフを持っており、

私はあのニュースを否応なく思い出していた。


智子「(もしかしてこの人が犯人…?)」


巷で女性ばかりが狙われ殺されているその事件。

その事件の犯人がもし今自分の目の前に居たとすれば…


私はもう気が気じゃなくなり、とにかく今のこの窮地を逃れて

無事にまた日常の生活に戻る事だけを考え、命乞いする勢いで…


智子「何でもあげるから早く出て行って!」


とその男に訴えていた。

すると男は…


剛田「何でもくれるってか♪へへwそうだなぁ…じゃぁお前でも貰おうか…」


とそれまでの表情を変え、野獣のように私に迫ろうとした。


智子「や…やめて…それだけはやめて…他の物なら何でもあげるから…」


剛田「何でもくれるって言ったろ?w約束は守れよw」


智子「きゃあぁあ!!助けてえぇえ!」


私は思いきり叫んだ。

家の周りに今誰か居てくれたら良い。

その思い1つで叫び回った。


でもここは郊外。

私の家は民家から少し離れた所にあったので、

誰かが偶然家の前を歩いてるなど滅多にない。

1つの賭けだった。


でもその賭けが報われた。


上野「おいお前!何してる!!やめろ!」


ちょうど家の前を歩いていた人が居て、

その人が叫び声に気づき、

それからとっさに家の中に入ってきてくれたのだ。


剛田「な、なんだてめえは!邪魔するな!!」


それから少し格闘が始まり、入ってきたその男の人は

まずその強盗からナイフを奪おうと必死になった。


でも運が良かった。

強盗の男より、今入ってきた人のほうが体が大きく腕力も強い。

その甲斐あってか格闘の末に強盗はバランスを崩し、

そのまま倒れ込むようにして取り押さえられた。


上野「ハァハァ、だ、大丈夫でしたか?怪我はありませんでした?」


智子「あ、有難うございます!有難うございます!」


私はホッと安堵した拍子に、助けてくれたその人に何度もお礼を言った。

その私を助けてくれた男の人の名前は上野さんと言い、

それから警察に捕まった強盗の男は名前を剛田と言った。


(警察に連行される剛田)


剛田「畜生!放せぇ!!」


剛田は私達の目の前で警察に連行された。


ト書き〈第2のトラブル〉


それから私と上野さんはこれをきっかけにして、

ちょくちょく頻繁に会うようになっていた。


上野さんはとても優しく、女性に対しても紳士で、

「将来もし一緒になるならこんな人が良いなぁ」

と思わせてくれる人。


でもそんな時、また私の周りでトラブルが起きた。

私の家はそれなりの豪邸で、おそらく金目(かねめ)の物がこの家にならある…

そう思って狙われ易かったのだ。


でもそのとき2度目だったのもあり、

私の心の中には少しだけ余裕ができて、

あのとき輝子さんが言った事を思い出した。

そう、あのとき貰った睡眠薬。


眠り薬である液体薬をジュースに忍ばせ、

それをまた強盗に入ってきた男に飲ませ、

その窮地を自力でくぐり抜ける事ができたのだ。


智子「ハァハァ、よかった。何とか無事で済んだわ」


隙を見る連続だったのもあり、私はかなり疲れた。

でも、あの薬がやはり役に立ってくれたのだ。

私は輝子さんに心の底から感謝した。


ト書き〈第3のトラブル〉


それから上野さんは私の家にも来るようになり、

一緒にランチしたりディナーしたり、

それなりに仲の良い恋人のようになっていた。


上野「やっぱり君の家は大きいねぇ。でもこんなに大き過ぎたら、掃除とか大変じゃない?」


智子「フフ♪まぁね。でも大丈夫よ、掃除するのはもう慣れてるから」


上野「ふぅん。まぁ確かに隅々まで綺麗だし、慣れたらこんな家でも普通に住めるようになるんだろうな。あ、ちょっとトイレに行きたいんだけど?」


智子「トイレ?ああ、そっちの階段を降りてまっすぐ行った所よ」


その時つけていたテレビで

又あのニュースの事をやっていた。

トイレから戻ってきた上野さんと私はそのニュースを一緒に見た。


智子「…この事件の犯人、まだ捕まってないのよね…」


女性ばかりを対象にした連続殺人事件。

通り魔的な犯行とも言われ、その殺され方はランダムで、

場所も四方(しほう)に点在する形になっていた。


上野「怖いねぇ」


智子「ええ…」


上野「でもこの事件の犯人も、あの事件を達成して未だに捕まってない犯人に比べれば、いささか犯行がずさんで、低い知能の持ち主なんじゃないかなぁ」


智子「え?」


彼がこのとき言った「あの事件」とは、

今の女性連続殺人事件の前に起きていた事件の事。


それは男性ばかりを対象にした連続殺人事件で、

「おそらく犯行不可能なんじゃないか?」

と言われる程の奇怪かつ不思議な事件だった。


その遺体となった被害者男性の横には

臓器が並べられて置かれており、

その臓器は全てその被害者男性のもの。


つまり切り裂きジャック事件をそのまま模倣したような事件で、

何より犯行不可能と言われた理由は、

「強化された巡回の目をかいくぐりあれだけの犯行を達成した事」

にあった。


この事件の捜査は全国指名手配の形でなされていた上、

見回りが強化され、犯行が織りなされていたその区域には

蟻の子1匹も入れない程の捜査網が敷かれていた。


例えば、公園横のひとめのつかない通りで起きた事件は、

4分おきに巡回していた警察の目をかいくぐり、

その4分の間に巡回した筈のその道に男性の遺体が置かれ、

同じくその男の臓器が横に並べられていた。


「たった4分の間にそれだけの事ができるか?」

と言えばやはり不可能であり、

おまけにその道は時折り人通りがある事もあり、

それだけのリスクを背負って犯行を成し遂げるなど

どんな犯人も普通はしないだろう…


そう呼ばれる程の奇怪な事件だったのだ。


智子「あ、ああ、あの事件の事…?…ヤダ、ただでさえ怖いのに、あんな事件のこと思い出させないでよ」


上野「あははwごめんごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。あ、もうすっかり遅くなったね。そろそろ時間もあるし、またトイレ行ってイイかな?」


智子「え?またトイレ?」


少し不思議に思った上野さんの行動。

さっき行ったばかりなのにまたトイレ?


ト書き〈オチ〉


席を立ち、広いリビングから出て行った上野さんのあとを

私は少し興味本位でついて行ってしまった。


何とかバレないようにしてついて行くと…


智子「え…?」


と思わせる行動を上野さんはしていた。


懐に忍ばせていたナイフを取り出し、

それを布で拭きながら右手に持ち直し、

何とも言えない薄気味悪い表情で笑ってる。


思わず動揺した私は声を上げてしまった。

それに気づいた上野さんはパッとこちらを振り向き…


上野「…わかった?俺がなんで君に近づいたのか?あんなことボランティアでするヤツなんて普通居ないよ。そろそろ時間って言ったのは仕事の時間なんだ。君をどうにかする仕事の時間…って事だね…」


信じられない情景と光景。

「あんな事」と言ったのは、私を泥棒から助けてくれた事。


智子「…ま、まさか…あなたが…」


上野さんは、あの女性連続殺人事件の犯人だった。

その人が今、私の目の前に立って居る。


ここは郊外にある一軒家。

家の中で静かに犯行がなされても誰も来ない。

だからか上野さんはゆっくり時間をかけて、

私を料理する準備を整えていた。


上野「ふぅ。ちょっと喉が渇いたなぁ。今日君が作ってくれた肉料理、うまかったよ♪でも少し脂分が多かったから喉も渇くんだ。ねぇワインか何かないかな?君に注いで入れて貰いたい」


そう言ってナイフをテーブルに置き、

上野さんは次に懐から拳銃を取り出し

私にそれを向けてきた。


上野「君を暫く自由にしてあげるけど、コイツが君を狙ってる事を忘れないようにねw?じゃあ頼むよ♪」


それから私はキッチンへ行き、冷蔵庫からワインを取り出し、

拳銃を私に向けたままテレビを見て笑ってる上野さんの隙をつき、

もう1本残っていたあの液体薬をそのワインに混ぜた。


智子「あ、あの…どうぞ…」


上野「おぉ、こりゃ有難い♪どう?君も隣に座って飲まないか?最後の晩餐…いや晩酌と洒落込もうじゃないか」


得意げにそう言って笑う上野さんの隣の席に私は座り、

ほとんど無表情で自分の入れたワインを飲んだ。


2つのグラスに注がれたワイン。

眠り薬が入ってるのは今上野さんが飲んでいるそのグラス。


それから上野さんは、瞬時に眠りについた。

あの時の通り、この薬の効き目は本当に確かなものだ。


そして地下室へ降りて行く私。

横には荷台があり、その上に上野さんを乗せている。

あの時、2度目に強盗に入ってきた男と同じ運命。


その時、私の背後で人の気配がした。

ビクっと驚き、少し恐怖して後ろを振り返って見ると…


智子「え…?あ、あなたは…」


輝子「ええ、私です」


そこに立っていたのは、なんとあの輝子さん。

「どうやって入ってきたの…?」

静かながら絶対的な疑問が私の中に沸いたが、

彼女はそんなこと1つの問題にせず、ただ私にこう言ってきた。


輝子「その人もこれまで通り、今まであなたが殺してきた犠牲者の1人にするのよね?驚く事は無いわ。私はあなたの分身のようなもので、あなたがこれまでしてきた事は全部知っている」


智子「…あんた、一体何者…」


輝子「でもね、罪を犯して、その報いを受けない人はどこにも居ない。あなたにもそれがやってくるわ…」


そう言って、ふっと姿を消した。

まるで幽霊でも見ているかのような現象だった。


ト書き〈智子の豪邸を外から眺めながら〉


輝子「私は智子の本能と罪の意識から生まれた生霊。彼女の本能から生まれた夢を叶える為、又、その罪の意識をはっきり彼女に芽生えさせる為だけに現れた」


輝子「男性を対象にした連続殺人事件の犯人はあの智子。あの地下室には異臭が漂い、これまで殺害してきた男の遺体を腑分けした残骸が眠ってる…。たった4分の間に1から犯行を成し遂げるのは無理。でもここで遺体と臓器を用意してそれを持ち運べば、車で現場に置くだけで済み、人の目をかいくぐって犯行を成し遂げるのは容易くなる。それにしても、余程そちら方面への運が強かったようね智子は…」


輝子「智子が女性だから対象にされた男達は心を許し、比較的、懐に飛び込み易くしたその環境で、智子は女の武器を使い色仕掛けで迫ったり、私があげたような睡眠薬を使い男を眠らせ、そのまま自分の欲求を満たしていた。なんとまぁサイコパスな女。でもさっき、あなたの罪の意識が警察を呼んでおいたから、あなたが捕まるのも時間の問題。もう同じ犯行は1度ここで打ち止めになるでしょう。次の似たような犯行が始まるまでの…」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=MqE8wYm4w9c

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無理だからこそ成し遂げた静かな犯行 天川裕司 @tenkawayuji

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