序章 3
白い小袖に緋袴姿の年老いた巫女が、窓から夕陽を観ている。――そこは、白木で組まれた巨大な宮の二階だ。
大巫女は木板の庇を持って顔に当て、目を細めて西の空を眺めている。――陽射しの弱まる夕刻に行われる、凶兆を占う『日読み』の最中だった。
そのとき大巫女は、太陽の一隅にある奇妙な影に気づいた。赤く潤む太陽の右下あたりに、薄墨のような影がかかっていたのだ。
大巫女は青褪めた顔で立ち尽くした。
「日の翳るとき、世は闇に落つる…………。まさか……」
大巫女はそう呟いてから、皺に覆われた目をすがめ、燃えて落ちてゆく太陽を睨み続けた。
◇
遥か昔のことだ。
――そこは人間が住む
その支流の前に、黒ずくめの男が立っていた。――頭から全身を覆う、黒い外套をまとった、ただならぬ威容の男は、唸るように云った。
「世に霊気と瘴気の流れの尽きぬよう。――悪徳も果てがない。ゆえにおまえたちを、悪徳より造ったのだ…………」
男が振り向くと、その前の暗がりには、三体の姿が見えた。いずれの体格もまちまちだが、女らしい体の稜線が伺えた。彼女らこそ世を鳴らすことになる、三毒の魔女。
中央には大柄豊満な女がいる。――くすんだ藍褐色の蓬髪は、意思の強そうな顎の線や、炯々とした眼差しを覆う。紅い着物には、白い彼岸花の柄が散る。それが
その左側が、童女然とした小柄のおかっぱに、白い小袖を桃色の帯で留めた姿。愚昧の三女、
そして右端にすらりと立つのは、濃紺の着物に、黒髪を肩に垂らす女。欲望を体現するにしては、あまりに控えめに見えるのが、長女の
男は愛しげに、かつ忌々しげに彼女らを見渡すと、
「
◇
ひとつお菓子を あげましょか
鬼さんこちら 手の鳴るほうへ
もひとつお菓子を あげましょか
みなに差し上げ そうらえば
◇
ほうら、縫衣……。
こっちへおいで。
昨日の夜の、旦那衆の、寄り合いの帰りに買って来たんだよ。
この白い……白花糖という、干菓子だよ。
甘くて、ほろりとしてね。
ほうら。手を出しなさい。
よく味わって、ひとつずつ、食べるんだよ。
――縫衣や。
序章 おわり
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