004:プロローグ 冥夜の狂宴(Ⅳ)

「ギャァオオオオオオ」

 鎧武者は制御を失い只の死霊アンデッドへと還っていく。


「あああっ……」

 制御を失った鎧武者、暴れ回り、そのまま足を滑らせ大きな地響きと共に濡れた地面に倒れた。

 アンデッド両肩から大量の『黒魔血』が流れ出る。面頬めんぼおが落ち、死霊アンデッド化の影響、ミイラ化し醜く歪んだ顔が露わとなった。


 天下無双の夢は……あっけなくついえた。


 少女型アンデッドは首飾り、「銀河教ユニバ=ネビュラス」の星紋に手を触れた。合成音声で、祈りの言葉を天に捧げ、制御を失い暴れ回る鎧武者に触れた。


 光輝く星紋、高められた少女型アンデッドのオーラは威気と変化、更に闘気とは異なる別種類のオーラが全身から発せられた。

 それは神聖な力と癒しを人々にもたらす「聖気ホーリー・オーラ」。聖気も闘気と同じく幻空域エーテルを励起させ、幻子メダジオンが生成される。

 

 少女型アンデッド、祈りは天に通じ、降臨した銀河教の「聖霊」、「浄化の小天使」が召喚される。


 幻子メダジオンが身体を構成する依り代となり、夢幻この世界に降臨した光輝く愛らしい小天使。

 『闘術』『法術』と並び、夢幻世界で様々な奇跡を起こすスキル


「……『霊術』まで……莫迦な……」

 滝のような涙を流し続けている破戒僧。

 鎧武者ともが浄化されていく光景を見つめる事しか出来なかった。


 鎧武者の肉体、魔や毒等を消滅させる浄化の小天使は小さな翼を巨大化させ鎧武者を包み込む。

 鎧武者は浄化の奇跡により、光の粒と化し完全に消滅した。


「有り得ない、絶対に有り得ない、不可能だ」

 破戒僧は戦いの結末を即座に受け入れることが出来なかった。

「死人が魂……アンデッドには魂が無いはず……それが霊術を? 如何にして」


 若い冒険者が答えた。

「人工的に魂。いいや闘気すら再現できねえ。テメエも武者同様凡夫ザコレベルの死霊法術師ネクロマンサーって事だ。「完全な不死者」の創造。この狂った宴には役不足」


「序盤の序盤、一次審査しょるいしんさ敢無あえなく落選ってレベルだ残念だったな」


 若い女子の死霊法術師、フードに隠され顔は不明。

「さて、「夢幻の心臓」は手に入った。クソ雨の夜にオレ様を呼び出しやがって」

 そして、若い死霊法術師は口が悪かった。



 鎧武者は完全に光の粒となって常世とこよ……アルマ世界へと旅立っていった。大鎧と太刀、そして破戒僧によって人工的に造られた、死霊の臓器類だけが残され友は永遠に失われた。


 破戒僧はそのまま、へたり込む。

「完全自立、生前の力……闘気を操り霊術まで……死霊が祈りを……それではまるで「お始祖様」の秘技を再現……」


 全ての死霊法術師が目指す死霊アンデッドの頂点を目指す。それは死霊法術の大系を完成させたと言い伝えられている始祖にして究極の死霊法術師ネクロマンサーの名。


 厄災の使徒、第二世『魔帝デモンカイゼル』。彼の者が創造したと言われる伝説の死霊アンデッド、人と会話が出来たと言い伝えられている。

 人格を有し、生前とまったく同じ…………否、生前以上の能力ををもって世界を蹂躙した『完全な不死者ヴィクター』を再び創造する事。


 かつて神童と噂された破戒僧ですらその片鱗しか手にすることが出来なかった。だが、目の前に立つ若い死霊法術師はその高みに手が届きつつある事は確か。

 凡夫には想像すら叶わない、最階位ハイレベルの死霊法術師だった。


 死霊法術師はアンデッドの手から「夢幻の心臓」を譲り受ける。法術によってこびり付いた血肉を燃やす、死霊破壊ターン・アンデッドの黒い炎。


「まぁ、テメエの友人は本望だっただろうぜ……死霊と化してまで……最後の果たし合い。お姉様は正真正銘、天下無双の「大剣豪」だったのだからな。まぁ当然、ぜんぜん、まったく、これっぽっちも本気じゃあなかったけどな」


 若い死霊法術師は懐からもう一つ「夢幻の心臓」を取り出した。大きさは鎧武者の中枢として使用されていた物より小さい。「夢幻の心臓」は鮮血が結晶化したような赤く輝く宝玉。


 夢幻の心臓を制御回路サーキット、擬似的な魂として用いればアンデッドの能力を飛躍的に向上させることが出来た。

 手紙、「冥夜の狂宴」の紹介状には、失われた魔帝の絶技と説明されている。


 夢幻の心臓二つを近づけると一つに……輝きが増した。

 赤い結晶を法術具に装着する。

「ふーん、こうすると探知範囲が広がるって訳か」


 探知範囲に数個の点。他の「夢幻の心臓」所持者の位置が表示されていた。

「なぁるほど。こうやって戦い続けろってって事か。えげつねえな」


「…………」

 若い死霊法術師はを失い、項垂れる破戒僧を一瞥した。

「破戒僧に堕ちてまで、死霊法術の探求に人生の全てを捧げた拙僧は……」


 大嵐。大粒の雨が破戒僧を打ち付ける。

「戦いは終わった、ここがテメエの夢の果てだ」

「ここが、拙僧の……」

「そうだ、所詮は凡夫ザコの見果てぬ夢。友を永遠に失い、テメエの冥夜よるは終わった、もう夜明け。お目覚めの時間だぜ」


 破戒僧は呆然としながらも一人呟き続けた。

「拙僧がもっと能力が高かったら。友が病に倒れなかったら……夢幻の心臓の解析が……もっと多くを学べれば……ぬしのような天才ならば……もっともっと強力な素体が……もっともっともっと、死霊法術師の極みを……」


 死霊法術は最高位の「」。故に、少女型アンデッドを所有する若い死霊法術師は破戒僧に対し、一言だけ語りかけた。

「忠告しておくぜ。外道にだけは堕ちるんじゃねえぞ」


 破壊僧かからの返事は無かった。

「まぁいいさ。オレ様達死霊法術師……いや、魔術師の行き着く先は魂の安息地、常世とこよのはずはねえからな……」


「……じゃあな、冥府じごくでまた会おうぜ」

 若い死霊法術師は少女型アンデッドと共に魔界遺跡を後にした。


 冥夜の狂宴、それは異端者の祭典。魔術を極めようとする者達に用意された破滅への一本道デスロード


 いつの間にか嵐は去り、雲間から夢幻世界三つの月。その一つ、死者の月と言われる「碧い月」が覗き見え魔界遺跡を照らし出した。

「次は、何処だ? 一体誰と戦う……?」


 夢幻の心臓が示す光点はある地点を示していた。

「ふ~ん。『ルーナ=ハウル領』ねぇ、大王都の裏庭。チョコッと遠いな」

 若い死霊法術師は遙か彼方、次なる敵を求め天を見上げた。


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2025/01/08 一部修正





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