003:プロローグ 冥夜の狂宴(Ⅲ)
破戒僧が大きな声で叫んだ。
「我が友、魂色は「若葉色」。
少女型アンデッドの術者。後方に立つ若い死霊法術師は腕組みしたまま戦況を見守っていた。小さく呟く。
「ふ~ん。木のオーラの発展系……水のオーラも少し混じっているか? 大樹のオーラねぇ。侍が操る闘気術っぽいな。まぁ奴等、パンゲア民だしな」
鎧武者の闘気が変化……小さな芽が生長し、葉が生い茂り大樹になって行くよう具現化していく。そのまま巨体の背に大きな木、大樹が実体化した。
闘気が幻子により大樹の姿を
「イザ尋常に勝負!」
大樹の形が変化し十本の枝となる、枝はそれぞれ手の形状に変化、背中に差した十本の太刀を引き抜いた。
「奥義! 十二観音!!」
両手に持った大太刀と会わせ、十二本の太刀を駆使し、鎧武者は猛攻を仕掛けた。バースト状態。強力な闘気を纏った大太刀、切れ味は更に増している。
少女型アンデッドはそれらの猛攻を躱し、一旦後方へ飛び退く。
「無駄無駄無駄無駄!!」
大樹の手は長さを自在に操れる。闘気を纏った十本の太刀は、回避不能の軌道を描き、大蛇の群れが如く少女型のアンデッドを襲った。
「伸縮自在。関節無き十本の腕、逃れる術無し!」
十本の太刀は取り囲む、少女型アンデッドに次々斬撃や突きを繰り出した。
「友の奥義、細腕二本で防げるはずが無い! 斬り刻まれろ」
太刀は背中、少女型アンデッドの死角から必殺の突き。
躱しても躱してもどこまでも追ってくる。全包囲からの一斉攻撃、避ける術無し。
若い死霊法術師、フードに隠された口元が笑みを浮かべた。
「なるほど、木の
次の瞬間、鋭い金属音、十本の太刀は全て吹き飛ばされた。
「!!」
少女型アンデッドは
「法術師!? ……否!」
ワンドが展開、「
とある理由からこの「
少女型のアンデッドが装備していた大鎌槍、携帯できるよう折りたたむ事の出来る冒険者用。
展開状態、
少女型のアンデッドは大鎌槍を振り回す、その動きは天女の舞、最後は槍を大上段に構え、槍の穂先は地を、鋭く尖った大鎌の刃先は天を向いた。
攻防一体、時が止まったような静かな構え。
「……こ、これは「天地夢想」の構え」
破戒僧、鎧武者ともこれほどまでに美しい構えを見た事が無かった。それは少女型アンデッドが今まで戦ってきた相手とは別格の強さであることを物語る。
武の極みを見た。
「お姉様……こんなザコ侍相手に
若い死霊法術師は大きな溜息をついた。
「友よ……」
人格を失い、死肉の塊となってしまった友。目の前に立つ最強の敵との戦いに震えていたのか? ……それとも死者が死の恐怖に打ち震えていたのか?
「勝たねば友は!!」
破戒僧が叫ぶ。十本の太刀は再び少女型アンデッドに向かい攻撃を仕掛けた。大樹の闘気によって操られた十本の刀。常人なら為す術無く斬られてしまうだろう。
だが少女型アンデッドはそれら全てを大鎌槍一本で弾き返した。大鎌槍、巨大な鎌は柄をほんの僅、八の字に回転させるだけで広範囲を防御可能にする。
大鎌槍は攻防一体、完璧な
鎧武者は全ての太刀を防ぎきられた。
「全包囲攻撃を防ぐだと!? だがまだだ!!」
腕組みしたまま、遠くから戦いを見つめていた若い死霊法術師は小さく呟いた。
「フーン、
鎧武者が放った必殺の一撃、それは十本の太刀で怒濤の攻撃を繰り出し、それでも仕留められない強敵に対し用いる技。
「有り得ない、あの乱戦、あの攻撃の中で僅かな闘気の流れ、見えるはずが無い!」
人間の死角から攻撃を仕掛ける刃、闘気を薄く引きのばし目に見えず、まるで「根」。地中をつたい足下から奇襲攻撃を仕掛ける必殺の小刀「影刃」。
少女型アンデッドは腰に差した小太刀を僅かに抜いて刀身で影刃……奇襲攻撃を防いでいたのだ。
「……ったく、クソ雑魚兵法ばかり。テメエのアンデッドのレベルじゃあ最強のお姉様相手に稽古相手すら務まらねえ、完全に役不足だ」
若い冒険者溜息。
「
鎧武者は飛び退き体勢を立て直そうとする。
「お姉様、いい加減もう終わらせましょう。こんなクソ雨の中戦うなんて、お姉様のお身体が心配です」
「おのれ!」
破戒僧怒り、鎧武者を突進させる。
「雑魚がギャァギャァギャァギャァよく吠えるぜ」
若い死霊法術師は呆れていた。
「お姉様、この戦いは完全完璧に時間の無駄、鍛錬にすらなりません」
「オオオオッ! 人生を刀に捧げた友を愚弄するとは……許せん!」
鎧武者、と破戒僧が同時に叫び声をあげながら突貫。
突貫してくる鎧武者に対し、少女型アンデッドの攻撃。
闘気技の一つ「破闘気」。
全身から放たれた闘気は強力な衝撃波となって
火の属性を持つ破闘気によって大樹炎上、吹き飛ばされ、焼け落ちた。
若い死霊法術師。
「お~お、よく燃えるぜ」
太刀が吹き飛ばされ周囲に散らばり地面に突き刺さる。
大樹を構成していた幻子はオーラ力が失われると、物質化、原子化が維持できなくなり、元のエーテルへ還り、この世界から消滅した。
「何という闘気の威力…………まだまだ!!」
破戒僧は諦めない、諦めれば、負ければ全ては……
「ウオオオッ!」
だが、大樹の闘気を再び具現化させる時間は無かった。
突貫してきた少女型アンデッド。大太刀を横一文字、真正面に構える、防御しなければ斬られて……
鎧武者の両肩から黒色の血飛沫が吹き出した。少女は背後、遥か後方。
既に両腕を肩から斬られた後だった……バーストしていないにもかかわらず、少女型アンデッドはあまりにも速かった。
闘術によって全感覚が高められているはずの鎧武者が全く知覚することすら出来ないほどに。
「あぁあぁ……」
破戒僧の目に涙が溢れだした。この決闘、果たし合いなどではなかった。
「我等は、ただただ弄ばれていただけなのか……!?」
斬られた瞬間、破戒僧は死霊法術師として、全てを打ち砕かれてしまった事を悟った。
「ハイ終了。ざまぁねえーな、どーこが天下無双だ。このクソ雑魚が! お姉様の戦闘力すら見抜けてねえ。一つ重要なヒントを教えてやるぜ」
「「テメエ等はズブ濡れ」「オレ様達はまったく濡れてねえ」それすら気がついていねえようじゃぁ、テメエらの
強さの次元が違い過ぎていた。
「ウォォォォォ!!」
鎧武者が吠える。もはや攻撃手段は無い。その咆哮は嘆きなのか?
「うるせえなぁ、敗北者がいちいち喚くな」
若い死霊法術師は小さく呟いた。
「友よーーーーっ!!」
破戒僧絶叫。
少女型アンデッドは左手で抜き手。頑強な大鎧を素手で打ち抜き体内から赤い結晶を抜き出した。
この瞬間「破戒僧」は「冥夜の狂宴」から脱落、敗北が決定した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます