002:プロローグ 冥夜の狂宴(Ⅱ)

 中央諸侯群より少し離れた神域外。狂宴の舞台は「魔界遺跡」。数百年前に時空間転移して来たのだろう。

 かなり風化が進んでいた。


 地表ごと抉り取られていた魔界の大都市。天にも届く高層ビル群は時空間転移時の激しい衝撃で全て崩壊、地表は数十度傾いたまま。

 半分朽ち果てた道路標識は魔界文字で書かれている。辛うじて「ブルジュ・ハ……」他は錆落ち解読する事は難しくなっていた。


 この遺跡は夢幻この世界には存在しない「石油オイル」によって繁栄し、砂漠の中に建設された巨大都市メトロポリスの一部分。


 またこの一帯は『神域』の加護が及ばぬ領域。故に魔界より次々魔物モンスターが転移侵攻して来る。

 人は暮らせぬ死の大地である。


 危険な神域外、しかも魔物の動きが活性化する闇夜。数多くの魔物が蠢く魔界遺跡に人影。マントを纏った四人の冒険者。

 死霊法術師と死霊アンデッドチームとなり「冥夜の狂宴よるのうたげ」と言われる死闘を繰り広げていた。




 一方は三メートルを超える巨漢と小柄な中年男。二人の容姿、服装は遙か彼方、「大陸(Ⅰ)」、通称「盤古パンゲア」から旅してきた冒険者である事を物語っている。


 小柄な男は雨よけの蓑を纏い薄汚れボロボロになった墨染めの袈裟。彼は「大陸(Ⅰ)」で広く信仰されている宗教の一つ、「ダルシャナ教」の僧侶だった。

 僧侶……否、今は死霊法術師に堕ちたが故、御仏みほとけの教えに背き「破戒僧」と成り果ててしまった男。


 身の丈三メートルを超える巨漢の男はアンデッド、「鎧武者」。大鎧に身を包んだ武者、或いは僧兵だろうか? 顔は白い頭巾「裹頭」によって隠されていた。

 

 身に纏う大鎧、かつては銘のある一品だったであろう……だが、数多あまたの果たし合いで傷つき汚れ、また死霊の身体に癒着していた。

 両手に大太刀二本、背中には放射状に太刀を十本背負う、異形の侍。




 破戒僧は対峙しているもう一組の冒険者。彼等はこの大陸、「大陸(Ⅱ)」通称「パノティア」出身の冒険者であろう。


 両名とも顔はフードで覆われどの様な人物かは不明。二人が身に着けているマントは漆黒、極上の素材と仕立て、更に見事な刺繍を施されていた、新品と見紛う。

 彼等はかなり身分の高い貴族らしい。


 フード、マントの中、少女型アンデッドは漆黒の夜会服イブニングドレス。死霊法術師は燕尾服だろうか……まだ十代か? とても若い。『若い冒険者』達。


 鎧武者は隙無く構え、少女型アンデッドは戦闘態勢すら取らず。まさに腐食死霊ゾンビの如く立ったまま、視線は虚ろ。


「強者だ……」

 破戒僧は数珠を強く握りしめた。


「だが、勝たねばならぬ……勝たねば……全てが……」

 破戒僧は一瞬過去が脳裏をよぎった。


「拙僧の友は天下無双をこころざし、修行と果たし合いに明け暮れ、天下に名の知れた武芸者とまで噂されるようなった」

 破戒僧は死霊と化してしまった親友の背を見つめた。

「だが……友は道半ばで病に倒れ……そのまま……」


 我が友が『闘術』を極めた者の証、天下無双の称号「大剣豪」である事を世ににしら示す! それが冥夜の狂宴に参加した理由である。

 敵は……少女型アンデッドを操る術者は死霊同様若い女子おなご。だが、相手が死霊法術師であれば容姿は欺瞞ぎまんかもしれない。


「死霊法術師同士の果たし合い、油断せぬぞ」

 破戒僧は目を瞑り、落ち着きを取り戻す。

「これもまた、果たし合いに過ぎぬ……我等はただ……」

 死霊法術師同士の決闘が「冥夜の狂宴」と呼ばれるようになったのは最近。

「推して参るのみ!! 『バースト』!!」


 破戒僧の魂は一瞬小さく輝く。次の瞬間、破戒僧の身体ら威気が爆発的に噴出する。生命体の限界を超えた爆発的オーラ。

 破戒僧と鎧武者を繋ぐ索条ケーブルに超高エネルギーが伝達され、鎧武者の全身からも闘気が噴出した。


 全てのに存在する「アルマ」には異界へと通じる門があると言い伝えられていた。

 門より発せられる根源的「力」は全身を巡る生体エネルギー「オーラ」と呼称されている。


 限界を超え、究極まで高められたオーラ……「威気いぶき」は夢幻世界に遍く存在し、唯一、気とのみ反応すると言われている「幻空域エーテル」を励起せ、様々な原子と同じ性質を持つ「幻子メダジオン」を顕現リアライズさせる。


 全身光輝く鎧武者。吹き上がる闘気。顕現リアライズした事によって、闘気は光輝く幻子メダジオンを生成、オーラが人の目に見えるよう実体化した。

 少女型アンデッドが防御闘気によって重斬撃を弾く事が出来るのも、少女の闘気が常人には不可視の薄さで、極めて強固な「金属系幻子」を実体化させていたからである。



 。夢幻世界における戦闘バトルの根幹を成すスキル



「ふ~ん、ようやっとバーストしたか。さて、クソ雑魚がどんな「戦闘法ファイアート」を披露してくれるのやら?」

 フードに隠された若い冒険者の口元が、僅かに緩んだ。




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・2025/01/08 小修正



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