127-無我夢中


 誰もいない暗い小さな街に、灰色の女がくるりと灰色の傘を回して忽然と現れる。その背後には若い男を連れ、灰色の女は街の中で唯一明かりの灯る店へ急いだ。

 男は何も無い黒い空を見上げ、明かりの無い周囲の石の建物を振り返る。不気味な程の静寂だった。

 灰色の女に付いて明かりの灯るドアを潜ると、室内には左右に圧迫感のある背の高い置棚が立ち並んでいた。棚の中には用途が不明な何らかの部品や、部品ではなさそうだが見たことのない――殆どは瓦落多がらくたが無造作に詰め込まれていた。

「あっ……あの隅の、蓄音機か?」

「蓄音機……?」

 突然声を出した男を怪訝に振り向き、灰色の女は首を傾げた。男の指差す棚の奥へ目を遣り、凝らす。大きなラッパのような物が花開いていた。

「レコード……昔の音楽を聴く機械だ。何だまともな物も売ってるんだな」

 買いたいのかと灰色海月クラゲは足を止めたが、男は興味など無いと言うように目を逸らした。偶々知っている物が視界に入っただけのようだ。

 奥の机で待つ黒いマレーバクの面が待ち草臥れたように首を傾けて待っている。興味が無いのに目移りする男を促し、灰色海月は奥へ急いだ。

 机の前に出した簡素な椅子を勧め、灰色海月は机に手紙を置いて台所へ流れるように吸い込まれていく。

「やあ、いらっしゃい。気に入る物でもあった?」

 棚に物は並んでいるが買う客は無い古物店で、店の主のばくは愛想良く微笑む。瓦落多だと思われようと全て売り物だ。

「いや別に。蓄音機が目に留まっただけだ」

 素っ気無い返事に動物面は詰まらなさそうに笑みを消す。

「気になる物があれば買ってくれてもいいよ。蓄音機はね、倉庫の中身を全部出した時に見つけたんだ。あれは大きいからね……千円でどう?」

「安いな。じゃあ買ってもっと高く売ってやるよ」

「……。自分で使わない人に売るのはやだ」

 獏は露骨に不信感を貼り付け、子供のようにむくれてそっぽを向いた。人間の作った物を買う機会など無いので、安いと言われても元の値段など知らないのだ。価値がわからないと馬鹿にされたようで、獏は頬を膨らせた。

 機嫌を悪くしてしまった獏に男も舌打ちをする。不快にさせて願いを叶えてくれなくなったら困る。

「オレは買物に来たわけじゃないんだ。お前が願い事を叶えるとか言う獏なのか?」

「はいはい。そっちだね」

 獏は不満ながらも机に置かれた手紙を広げ、中身にじっくりと目を通す。罪人の獏は、人間の願い事を叶える善行を科せられている。獏の機嫌などお構い無しだ。手紙に書かれた願い事に、獏は面の下で目を細めた。

「……『これから人殺しをする。捕まらないようにしてくれ』……へぇ、変わった願い事だね」

「何でも叶えてくれるんだろ? 良いことでも悪いことでも」

「うん。善し悪しは問題じゃないよ」

「よし。じゃあ叶えてくれ。ちょっとムシャクシャしててな」

「相手はまだ決まってないのかな。捕まるのを恐れてるなら、悪いことだって自覚はあるわけだ」

 くつくつと笑う獏に、何が面白いんだと男は舌打ちして目元を歪める。言う通りムシャクシャしているようだ。

 二人の前に灰色海月はティーカップを置き、男に睨み付けられ下がる。その間に獏は親指と人差し指で輪を作り、こっそりと男の感情を覗いた。泥のように澱み、吐き気を催すような純粋な殺意が見えた。

「何だよ珈琲じゃないのか」

「紅茶は嫌い?」

「飲まないから嫌いかはわからんな」

「飲んでみると案外と美味しいかもね」

 男は暫く湯気の立つカップの中を見下ろしていたが、喉が渇いていたのか一気に飲み干した。どんな飲み方でもどんな量でも、とにかく飲んでくれさえすれば問題無い。飲み物に施した契約の刻印を呑んで、願い事の契約を締結してくれるなら。

「別に美味くはないな」

「そう? それは残念。じゃあサービスで口直しでもあげようか」

「口直し?」

 獏は背後の棚から大きな瓶と小さな缶を取り出し、中からそれぞれ白い飴を一つ抓んで男のカップの傍らに置いた。

「飴か? 何だよもっと良い物が出て来るかと思ったぜ」

「四角い方は安眠氷砂糖。すぐに眠れる飴だよ。丸い方は夢見ドロップの薄荷味。これは夢の中で、自分の意志で自由に行動できるんだよ。良い物でしょ?」

「自由に行動……? つまり人殺しも自由にできるのか? 予行演習ってことか?」

「興味が出て来たみたいだね。何でもできるよ。想像力次第で空も飛べちゃう。でも感覚はリアルだから、君が殺されちゃったら目が覚めるよ」

「殺されたらゲームオーバーか」

「ゲームよりもリアルだよ。夢か現かわからなくなるくらい。物に触れた時の感触もまるで現実。現だと思って行動した方がいいかもね」

「そんなにリアルなのか。いいじゃねぇか、その気になれば夢の中の全員を殺せるんだよな? 最高じゃねぇか!」

「ふふ。隣の建物にあるベッドを貸してあげるよ。二つの飴を舐め終えてから寝てね。舐めながら寝たら危ないから」

 夢のような話だが、現実的な注意も加えておく。ここはまだ夢の中ではないのだから。

 男は上機嫌になり、意気揚々と二つの飴を同時に口に放り込んだ。

「噛み砕いてもいいのか?」

「うん。いいよ」

 噛み砕くなら早くベッドに案内せねばならない。獏は自分の紅茶を飲んで少し落ち着いた後、席を立った。男を促して隣の建物へ行く。

 小さな街の建物は少しずつ間取りが異なるが、ベッドのある寝室は何処も二階だ。備え付けられた家具は少なく、殺風景な一階を通過して階段を上がる。二階の一室のドアを開けてベッドを示すと、男は微睡みながら無言でふらふらとベッドに向かった。安眠氷砂糖の効果をその目で確認することができて、獏も満足する。

 後ろに付いて来ていた灰色海月も、獏の背中越しに眠る男を確認した。灰色海月も飴の効果を初めて見るが、効き目は絶大なようだ。

「凄いですね。物音で起きるんでしょうか?」

「余程大きな音じゃないと起きないよ。現実の感覚を夢の中に移植するようなものだから、夢の中の感覚がリアルなほど、現実の感覚は御留守になる」

「夢の中で満足させて、現実の人殺しを防ぐ作戦ですか?」

「おや。鋭いね」

 ドアを開けたまま階下へ下り、獏は楽しそうに笑う。褒められた灰色海月は表情が乏しいながらも得意気に胸を張った。

「僕としては人間なんてどうでもいいんだけど、無差別に遣ろうとしてるみたいだったから。変転人が巻き込まれる可能性もありそうって思ったんだ。とりあえず用心しておいた方がいいのかなって」

「今までで一番、善行してる感じがします」

「ふふ……いつも善行してるつもりなんだけど」

 いつも人間を喰い物にしている獏は苦笑する。

「暫く起きないだろうし、クラゲさんも休んでくれていいよ」

「ではクッキー作りに戻ります」

 夢の中で勝手に解決してくれるのなら、こんなに楽な善行もない。

 店へと戻って、灰色海月は台所に広げたままの製菓材料と向き合う。願い事の依頼人が来る前からクッキー作りをしていたのだが、型抜きは無いため絞り出しで作っている。ホイップクリームを絞るようにクッキーが並んでいくので、獏もそれを見ていると面白い。絞ったクッキーには赤と緑のドレンチェリーを載せるだけだ。簡単そうに見えるので、これなら不器用と言われた獏でもできるのではないだろうか。

 そうは思っても灰色海月の邪魔はしたくないので、獏は棚に置いている古書を広げた。


     * * *


 二つの飴を砕いて舐め終えベッドに横になった男は、深い闇の中を沈んでいく感覚に身を任せていた。

 現実から夢に切り替わる瞬間に意識が途切れ、再び感覚が戻ると視界には閑静な住宅街が広がっていた。

「…………」

 空は灰色の雲に覆われているが、雨は降っていない。場所に見覚えは無いがあまりに平凡な日常の風景に、まだ現実にいるのではないかと、そもそも獏に会ったことが夢なのではないかと疑ってしまう。確認として頬を抓ってみるが、痛かった。夢でも感覚はあると獏も言っていた。ではどうやって夢か現実か判断すれば良いのだ。

「とりあえず歩いてみるか……」

 平均的な普通の家々が並ぶ道を見渡しながら歩いてみる。アスファルトの地面を踏む硬い感触もまるで現実だ。

「……ああそうだ。夢なんだから想像すれば空を飛べるって言ってたな」

 目を閉じて試しに念じてみる。鳥のように翼が生えて飛ぶように、飛行機のようにエンジンを吹かして飛ぶように、無重力の宇宙で漂うように――

「――飛べねぇじゃねぇか!」

 勢い良く目を開けても足は地面に貼り付いたままで、男は地団駄を踏んだ。獏は想像力次第と言っていたが、それを男は忘れていた。

「じゃあ現実か!? どっちだ!?」

 混乱しながら走り出し、曲がり角を飛び出す。そこで男も漸く違和感に気付いた。

 ――人がいない。

 歩行者も自転車も車一台も通らない。どころか鳥の一羽もいない。

 一番近くの家を見上げ、インターホンを押してみる。何回押しても誰も出て来なかった。向かいの家も、その隣の家も同じだった。

「誰もいない……?」

 男は眉を顰め、再び走り出した。誰もいないと誰も殺せないではないか。それでは話が違う。

 誰かいないのかと走り続けると、住宅街の中にコンビニエンスストアが現れた。ここならさすがに誰かいるだろうと自動ドアを潜る。だが店員も客も誰もいなかった。男は苛立ちながら商品棚を見て回るが、誰もいないし誰も来ない。

「何だこの夢……こんな詰まんねぇ夢見てんのかオレは……」

 レジの横に設置してある珈琲の販売機のボタンを何気無く押すと、黒い液体が流れ出した。珈琲の良い香りが鼻を突く。

「そうか……夢なら飲み食いもタダか!」

 少し気分が回復した男は紙コップを手に取り、もう一度ボタンを押す。熱い珈琲が注がれ、一気に飲み干した。よく知る苦い珈琲の味だった。

 珈琲のおかわりを注ぎ、何か食べたくなりホットスナックのケースを覗く。だがそこには何も無かった。仕方無く商品棚から物色する。

「……?」

 棚に並ぶ商品はよく見るとぼやけている物があった。一方で鮮明に見える物もある。部分的に視力が落ちたような感覚だった。

「スイーツの棚……だよな? 何となく形はわかるが、商品名やらよく見えないな。弁当の方ははっきり見える」

 もう一度店内を一周してどれが見えてどれが見えないのか確認し、一つ推測を出した。普段よく買う馴染みのある品は鮮明に見え、見向きもしない品はぼやけている。

 ホットスナックは買うことがあるのだが、ぼやける物とそこに存在しない物の違いがわからない。

 手探りでスイーツの棚から一つ手に取り、袋を開けて齧ってみる。ただ甘いだけで食感は曖昧、何のスイーツなのかわからなかった。全てがぼやけている。珈琲を飲み、口直しをしておく。珈琲だけは信頼できた。

 空の紙コップをレジ台に置き、男は夢の散策を再開する。ここが夢の中だということは理解できた。好き勝手に行動して良いのだと漸く気分が戻った。

「人なら想像すれば出せるんじゃねぇか?」

 頭の中で人間の姿を思い浮かべる。先程はどれほど念じても飛べなかったが、今度はすんなりと人間を生み出せた。何の変哲も無い中年男だ。そいつは男に目もくれず、目の前を通過する。男は早速一人目を殺そうと意気込んだが、今度は武器が無いことに気付いた。

「ああ!? 武器も想像しろってか!? くっ……何だ……何にしよう……ああ! 折角想像した奴が何処かに行っちまう!」

 焦りながらだと上手く想像できず、男は焦れったくなって後ろから拳で殴り掛かった。中年男は蹌踉めいて頭を押さえ、振り返って初めて男と目が合う。中年男は驚愕と恐怖を顔に滲ませ、縺れそうな足で走り去っていった。

「殴った感触……こんな感じなのか……。人を殴ったのは初めてだな。……ん? 初めてなら感触が正しいかわからないな? だが良い感触だ……」

 握った拳はじんじんと殴った感触を伝えている。体験したことが無くても想像を現実にすることは可能らしい。

「……いや、小学生の頃に殴ったことがあった気がするな」

 人間を想像する前にまずは武器だ。歩きながら武器を想像する。どうせなら現実で入手の難しい物を想像してみようと銃を想像する。

 安っぽいプラスチックの黒い拳銃が手に現れ、引き金を引いてみると水が飛び出した。銃なんて実際に見たことも、況して握ったことも無い。水鉄砲が限界のようだ。使えない水鉄砲は捨て、見たことのある簡単な構造の武器を想像し直す。

 包丁にしようかと思ったが、先程の殴った感触が良かったので金槌にした。金槌を現実で握る機会は無いが、簡単な形なので想像することができた。

「後は人だな。もう少し開けた場所で……」

 辺りを見回しながら最適な場所を探すと、小さな公園があった。幾つかのベンチとブランコ、それと小さな滑り台がある。遊具は所々塗装が剥げて錆びていた。

 誰もいないベンチに腰掛けると軋みを上げる。珈琲を持って来ても良かったかもしれない。

 金槌を膝に置き、目を閉じて人間を想像する。これから殺人パーティーだ。わくわくする気持ちを抑え付け、想像に集中する。

 声が聞こえて目を開けると、人間の集団が目の前にいた。公園なので子供もと思ったが、子供はあまり見る機会が無く上手く想像できなかった。だが大人だけでも充分だ。こいつらは殺されるためだけに生まれた人間だ。

 男は俯いて笑いを殺した後、立ち上がって手近にいた女に金槌を振り上げた。

「死ねっ――!」

 女は頭から血を流して倒れる。怯える表情も赤い血も、金槌の柄を伝わる鈍い感触も全て現実のように感じた。男は高揚し、逃げ惑う人々を次々と殴り付けていった。何の恨みも無い人間の命を、ただ自分の気分だけで終わらせていく。堪らなく快感だった。こんな機会を与えてくれた獏に感謝した。始めは夢なんてと思っていたが、これは存外、良いものだ。

「ひゃっはっはっはっは! 最高だぜ!」

 気が触れたように金槌を振り回す。想像し続ける人間は零になることが無く、振れば誰かに当たった。何度も殴られ頭や顔が変形し、ぐちゃぐちゃになる姿に男は夢中になった。

 あまりに夢中で、背後から近付く人影に気付かなかったくらいだ。

「!?」

 背中に何かが当たったと気付いた瞬間、そこから痛みが襲った。

「この殺人鬼め! 止まれ!」

 想像で生み出した人間が喋り、何度も包丁を振り上げていた。

「は……?」

 夢なのだから何でも思い通りになるはずだった。まさか遣り返す人間が現れるとは思わなかった。そんな人間を想像した覚えは無い。

 服が赤く染まり、男の意識は遠離っていく。握っていた金槌も力を失い地面に落ちた。痛いという言葉では形容できない程の体験したことのない痛みが全身を支配し、男は叫んだ。夢の中の人間は誰も本当に痛みを感じない。なのに自分だけがのたうち回るような強烈な痛みを感じている。理不尽だ、と男は思った。

 立つこともできず地面に倒れ、足を地面に擦り付けて踠く。

 倒れて死んだはずの人間達が顔面を赤く染め、地面に貼り付いたままじっと男の方を見ていた。

「ねぇ、どうして殺したの……」

「痛い……とても痛いんだ……」

「助けて……助けて……」

「お前だけ無事なんて、許さない……」

 開ききった瞳孔で瞬きもせず、呪詛のように恨みを呟く。その不気味な光景を最期に、男の意識は再び闇に落ちた。


 何てことだ。失敗した。ゲームオーバーだ。

 夢のことをまだ理解していなかったのだ。

 もう一度眠ればもっと上手く遣れる。今度は全員殺しきる。

 そうしたらすっきりと現実でも殺せる。

 もう一度獏に飴を貰おう。あれは最高の体験だ。

(……まだ起きないのか? 目覚めるのは時間が掛かるのか……いつまで何も見えないんだ?)


     * * *


「――ああ、目覚めたみたいだね」

 部屋の隅で簡素な椅子に脚を組み、獏はそこにいる者達に状態を告げる。

 ぐちゃぐちゃと不快な音を立てながら、饕餮とうてつ窮奇きゅうきはそれぞれ羊角と牛角の頭を上げた。二人は真っ赤に染まった手で口元を拭う。

「目が覚めたってどうやってわかるの? 目なんてもう無いのに」

 白かったベッドを真っ赤に染め、もう原形の無い男から獏は目を逸らす。

「獏だからね。起きてるか寝てるかなんてすぐにわかるよ」

「もう残りも喰っていいか? 脳味噌と内臓が美味いんだよ」

「いいよ。もう夢から覚めたみたいだし。充分楽しんだでしょ。こういう愚かな人間は夢で満足してくれないと思うし、現実に放つより始末した方が世のためだよね」

「丁度お腹が空いてたから、声を掛けてもらえて嬉しい」

 饕餮は嬉しそうに笑い、唇に付いた血を舌で舐めた。

 目覚めたと言っても男に痛覚は無いだろう。もしかしたら夢の中で異常な痛みはあったかもしれないが。

 夢とは蓄積された記憶を継ぎ接ぎしたものだ。自分自身の負の感情も、自分から飛び出して牙を剥く可能性がある。多くはそれを悪夢と呼ぶが、それを味わう前に男は事切れてしまった。少し惜しいことをしたと獏は残念だ。

 充満する血の臭いと惨い姿を見せないために、灰色海月には店の方に居てもらっている。

 夢を見る脳だけ最後に残せれば良いと獏は考えていたが、二人の食べ方がここまで汚らしいとは思わなかった。こっちまで気分が悪くなりそうだ。目を逸らしたまま獏は床へ視線を遣る。

「ベッドは処分するとして、床掃除は遣ってもらえるかなぁ」

「オレはしないからな」

「ふんふふ!」

 口いっぱいに詰め込んだ饕餮は言葉になっていないが、二人共掃除はしたくないと言っている。

「それより、まあ喰っといてだけど、こいつは喰っても罪に問われることはないんだよな? 善行だか何だかややこしいらしいけど」

「危険回避のためだし、許容範囲だと思うよ。後でクラゲさんに弁解の言葉を吹き込んでおくけど」

「後で海月の作ったクッキーも食べる」

「えぇ……血腥い生肉の後に食べるの……?」

 何でも食べる饕餮は何でも食べ過ぎではないかと獏は顔を顰めるが、窮奇は慣れているのか「食後のデザートってことだろ」意に介さない。

 本来は生肉を喰い千切るようにはできていない牙の無い饕餮は内臓が噛み切り難いようで苦労しているが、肉食の窮奇が爪で裂いたり牙で噛み切ったりと助けている。これも彼らには日常の風景なのだろう。

「先にクラゲさんと話してくるから、食べ終わったらベッドの上に骨を集めておいて」

「そのくらいならしてやる」

「んふ」

 足元に散らかした骨を一瞥し、獏は鼻を軽く押さえて部屋を出た。嗅覚がおかしくなりそうだ。

 血の臭いが染み付いていないか確認し、少しなら大丈夫だろうと店へ戻る。気分直しに甘いクッキーでも頬張りたい所だ。

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