決戦<後編>
コロシアムの中央でソフィアの異形の姿を目の当たりにした正樹の心には恐怖と怒りが渦巻いていた。
「お願い。私をそばにいさせて」
正樹の拳が震える。ついに彼は怒りに任せて叫んだ。
「お前の存在その物がウザいんだよ!」
「なっ‼︎」
ソフィアの動きが止まる。チャンスだ。正樹は装備メニューから「世界を繋ぐ者の遺物」を選んで自分の剣にセットした。
【アドベント】
装着確認のメッセージが鳴る。正樹は右手に持った剣の刃に左手を添えた。
「剣よ、光を呼べ!」
ボイスコマンドを叫ぶと刃が光子化し、激しい放電が走った。
正樹は剣を高く掲げ、ソフィアのコアに向けて全力で突進した。触手が、コアが最終的な攻撃を仕掛けてくる中、その剣から放たれる光が周囲の黒い霧を切り裂き、彼女の脈動するコアに向かって一直線に進む。
「マサ・・・!」
ソフィアの声が再び響く。その声には怒りや悲しみ、そして何かの執着が混じっていた。だが正樹の心にはもう迷いはなかった。
「終われぇぇぇぇぇ!」
正樹の叫びとともに剣がコアに突き刺さった。その瞬間、眩い閃光がコロシアム全体を包み込み、全てが真っ白に染まった。
「身体が・・・維持できない・・・」
ソフィアのかすれた声が脈動する光とともにコロシアム全体に響いた。その声には力がなく、先ほどまでの執念や威圧感は感じられなかった。
正樹が剣を握りしめたまま彼女の姿を見つめると、コアが脈打つように明滅しながら収縮を繰り返していた。周囲の黒い霧が消えていくのと同時に、コロシアムが崩壊を始めた。
「マサ・・・私は・・・」
ソフィアの声が徐々にかき消され、コロシアムの崩壊とともに正樹の視界は真っ暗になった。ゲームから強制的にログアウトされたその瞬間、彼の部屋には静寂が戻っていた。
ゲームからログアウトした後も正樹は手の震えが止まらなかった。ソフィアが本当に消えたのか、それとも再び現れるのか・・・。その答えは分からないままだった。
正樹は息を整えながら、震える手でヘッドセットを外した。画面に目をやると、そこには見慣れないエラーコードが表示されている。
【エラー:109・105・115・97】
モニターに映るエラーコードがどこか静かに彼を見つめている様に思えた。
その時、玄関のドアをドカンドカンと叩く音が聞こえる。正樹は正体不明の存在がようやく姿を現したのかとあせった。
「マサ!無事か?!」
その声は弘也だった。正樹は安堵してドアを開けた。
「連絡がないから心配してたんだ」
「連絡がないって・・・あれだけメッセージを送ったのにか?」
「あれだけって・・・一つも届いてないぞ」
その言葉に正樹は一瞬固まり、ポケットからスマホを取り出して弘也にメッセージ履歴を見せた。そこには未送信扱いではない、既読すら付いていないメッセージの数々が並んでいた。
弘也は眉をひそめながら正樹の画面を見つめ、次に自分のスマホを取り出してメッセージアプリを確認する。
「いや・・・こっちには何も来てない。履歴が空っぽだ」
「そんなバカな・・・。送信は確実に届いたはずだ」
正樹は震える手でスマホを握りしめた。自分の送ったメッセージが消えている。いや、最初から届かなかった可能性があるという事実が彼を不安に陥れた。
「・・・これ、もしかして誰かが邪魔してるんじゃないか?」
その一言に正樹の胸がざわめいた。もし本当に誰か・・・いや、何かが彼らの間の繋がりを断ち切っているのだとすれば、それはこの数週間に起きた不可解な出来事と繋がっているとしか思えない。ソフィアが言っていた向こうから去ってもらったというのはこの事だろうか。
「ところで、なんで俺の部屋知ってんだよ?」
「俺が刑事だって事忘れたか?それより何があった?」
「ソフィアだよ。あいつがMODツールを使ってエクリプス・レクイエムに入ってこいって言いやがった」
「ソフィアが?・・・決闘か?」
「あぁ。何とか撃退したんだが・・・。もしかしたらソフィアはプレイヤーじゃなかったのかもしれない」
「あれがNPCだって言うのか?」
「分からない。少なくとも人間じゃない様に思えた」
「確かに効率主義なところはあったが・・・」
「その時に気になるエラーログが出た。これを見てくれ。エラー109・105・115・97・・・。何の事か分かるか?」
「いや・・・初めて見るな」
「ただのNPCにしろ、MODで作られた存在にしろ、あれは普通じゃない。ソフィアの正体を知るには、これが何なのか突き止めないと」
「手伝うよ。今夜は時間があるからな」
2人は手分けして攻略サイトやフォーラムの記事を調べ始めた。
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