裂かれた絆<2>
その後、ギルド拠点に戻ったメンバー達はソフィアの行動を巡って意見を交わした。しかし、その内容は冷静な話し合いには程遠く、次第に声が荒ぶり始めた。
[ヒロ]「おい、結果的に成功したからいいってもんじゃねえぞ。お前の行動が失敗してたらどうするつもりだったんだ!」
[ルナ]「そうだよ。次また勝手に動いて大失敗したら・・・」
[ソフィア]「私は最善の選択をした。何もしないよりはマシだった」
[ルナ]「でも、それで全員が危険にさらされたんだよ!どうして一言相談しなかったの?!」
[ソフィア]「相談している間に状況が悪化していた。私には時間がなかった」
その言葉にルナが憤りを露わにする。
[ルナ]「そんなの自分勝手じゃない!チームって、皆で考えて動くからこそ意味があるんじゃないの?」
[ヒロ]「でも、ソフィアの言う事も分からなくはない。あの場で何もしなければ、もっと被害が出てたかもしれない」
[ヒューゴ]「おいおい、それ擁護するのか?俺達がギルドとしてやってる意味を考えろよ!」
正樹はその場で頭を抱えながらメンバー達の言葉に耳を傾けていた。ソフィアの行動を正しいとする意見と、それを無視した事を問題視する意見が真っ向から対立していた。
正樹は全員の議論をじっと聞きながら、ギルド内の空気が一気に緊張していくのを感じていた。意見が真っ二つに割れ、誰も譲る気配がない。彼は一度深く息を吸い込み、冷静な声で話し始めた。
[自分]「・・・皆、一旦落ち着こうか」
その一言で場が沈黙に包まれる。正樹は一人ひとりの顔を見つめながら続けた。
[自分]「まず、ソフィアの行動について話そう。彼女が独断で動いた事、それがリーダーの指示を無視したものだった事は問題だ。チーム全体がそのせいで混乱し、危険にさらされたのも事実だ」
ソフィアは顔を伏せ、ルナとヒューゴがそれを静かに見つめていた。正樹は少し間を置いてから続ける。
[自分]「でも、ソフィアがあの場で何もしなければ、俺達がもっと苦しい状況になっていた可能性も高い。それも事実だ。彼女の判断が間違っていなかった部分もある」
ヒロがうなづき、ルナとヒューゴは不満げな顔を浮かべた。
[自分]「だからこそ、これはソフィアだけの問題じゃない。全員にとっての課題なんだ。俺達はギルドとして、全員で動くべきだと言ってきた。でも、その連携がうまく機能していなかったのは、俺達全員の責任だと思う」
[ルナ]「私達が間違ってるって言うの?!全部こいつのせいじゃない!」
[ヒューゴ]「なあ。さっきも言ったけど、ソフィアをかばうのはいいとして、俺達のギルドの基本的なルールをどう考えてるんだ?リーダーの指示に従うって約束だっただろ」
[ルナ]「そうだよ。何の為に指揮系統があるの?勝手な行動が許されるなら、チームで戦う意味がないじゃない」
ヒューゴとルナの言葉にはソフィアの独断行動への怒りだけでなく、正樹への不満も含まれていた。
正樹はヒューゴとルナの言葉に一瞬躊躇したが、冷静に返した。
[自分]「ヒューゴ、ルナ。俺もソフィアの行動が問題だった事は認めてる。だけど、あの場では彼女の判断が結果的にチームを助けたんだ。それを無視して責めるだけじゃ何も解決しない」
[ヒューゴ]「でも、それじゃソフィアの行動を肯定する事になるだろ?次にまた同じ事をされたら、俺達はどうすればいいんだ?」
[ルナ]「そうだよ。結果的に成功したからって許されるなら、私達がルールを守ってる意味がなくなる」
ヒロが腕を組みながら少しイラ立った声で割って入る。
[ヒロ]「おいおい、そんなに責めるなよ。ソフィアだって反省してるんだろ?お前ら、いつまで責め立てるつもりだよ」
[ヒューゴ]「反省すれば済む問題じゃないだろ。チーム全体が危険にさらされたんだぞ?」
[ヒロ]「だから、次から気をつければいいだけだろ。お前はそれすら信じられないのか?」
ヒューゴが鋭い目つきでヒロを見返す。
[ヒューゴ]「信じる信じないの問題じゃない。俺はソフィア個人の判断力を疑ってるんじゃなくて、このギルド全体のルールが守られなくなる事を危惧してるんだ!」
[ルナ]「そうだよ。正樹もヒロも甘すぎるんじゃない?私達全員で戦うって言ったのに、ソフィア一人の判断を優先してる様に見える」
正樹は二人の言葉に答えようとするが、ヒロが再び声を上げた。
[ヒロ]「甘いとかじゃなくて、俺達は今ギルドの絆を試されてるんだろ?一人を責めてチームがバラバラになったら、何の意味もねえだろ!」
[ヒューゴ]「責めてるんじゃない。全員でやるって言った約束を守る為の話をしてるんだ!」
その場を何とか収めようと正樹は深呼吸をして全員に声をかけた。
[自分]「皆、静かにしてくれ。確かにソフィアの行動はチームを危険にさらした。けど、彼女は彼女なりに最善を尽くしたんだ。それ自体を責めるべきじゃない」
[ヒューゴ]「しかし、このままだとまた同じ事が起きるぞ!」
[自分]「だから、ここでルールを明確にしよう。次に同じ様な状況になったら、絶対に指示を優先する。それに従えないなら、ソフィアにはこのギルドを離れてもらう」
正樹の言葉に場の空気が凍りついた。ソフィアも目を伏せながら静かにうなづいた。
[ソフィア]「分かった」
だが、正樹はその返答に確信を持てなかった。ソフィアの行動の背景には彼女の独自の価値観が絡んでおり、それが簡単に変わるとは思えなかったのだ。
その時、スマホに通知が届く。
「お荷物のお届けが完了しました」
何も頼んだ覚えはないのだが・・・。正樹が玄関のドアを開けると、またもドローンが運んだと思われる段ボールが。正樹は段ボールを見つめ、眉をひそめた。
「またか・・・何なんだ、この荷物は」
前回と同じく段ボールには差出人や送り元の情報が何も記載されていない。スマホの配送通知を再確認するが、やはり頼んだ覚えはない。
「嫌な予感しかしないけど・・・とりあえず開けるか」
彼は段ボールを慎重に持ち上げ、リビングへと運び入れた。テーブルの上に置き、カッターで丁寧にテープを剥がす。
箱を開けてみると、そこにはまたもやバナナがぎっしりと詰まっていた。黄色に輝く果実が整然と並ぶ。箱の中のバナナを手にした時、またもスマホにメッセージが届いた。
【もっと私を見て】
その文面はシンプルだが、どこか冷たく、正樹の背筋を凍らせるような不気味さを持っていた。差出人は不明、メッセージアプリも特定の物ではない様に見える。それでも、その文字はまるで正樹を見透かしている様な存在感を放っていた。
正樹はスマホを凝視し、指を画面に滑らせて詳細を確認しようとしたが、それ以上の情報は何も得られない。
部屋の中に広がる静寂が一層の不気味さを際立たせる中、正樹は段ボールの中のバナナを再び見た。異常なほど完璧に熟した果実達が彼をじっと見つめているように思えた。
「これはただのいたずらじゃない・・・」
正樹は震える手でスマホを握り直した。何が起きているのかは分からないが、ただ一つだけ確信していた。
何者かが自分を監視している。
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