不協和音<4>
第二階層「闇の回廊」の激戦中、ソフィアはまたしても指示を無視し、敵の群れの中央に突っ込んでしまった。
[自分]「ソフィア!何やってる!戻れ!」
正樹の怒声がボイスチャットに響くが、ソフィアは無数の敵を前に剣を振るい続けた。
[ソフィア]「敵が集中している今がチャンスだよ。私が足止めする!」
[ヒロ]「お前がタンクの役割をするんじゃねえ!俺に任せろって言っただろ!」
[ルナ]「待って、回復が届かないよ!戻ってきて!」
しかしソフィアの突撃によって敵の陣形は崩れるどころか、逆に活性化した様に見えた。大量の敵が彼女を取り囲み、ソフィアは次第に押されていく。正樹達もサポートに入ろうとするが、敵の波は広がり、全員が囲まれる形になってしまった。
[ヒューゴ]「くそっ!こんな状況じゃ柱にたどり着けねえ!」
[ルナ]「皆、ダメージがひどい・・・もう無理かも・・・」
正樹は歯を食いしばりながら叫んだ。
[自分]「ここまでだ!全員撤退する!」
[ヒロ]「マジかよ・・・!ここまできて引き返すのか!」
[ソフィア]「・・・私がもっと早く柱を抑えられれば・・・」
[ルナ]「それ以前に、勝手に動かなければこんな事にならなかったよ!」
混乱の中、正樹達は辛うじて残った転送アイテムを使い、拠点へ引き返した。画面に「全滅」の文字が表示される事はなかった物の、ギルドの士気は地に落ちていた。
拠点に戻ると、ギルドメンバー達はそれぞれ無言で椅子に座り込んだ。疲労といら立ちが入り混じった空気が漂う。しばらくの沈黙の後、ヒロが重い口を開いた。
[ヒロ]「・・・こんな事になるなんてな。正直、最悪の展開だ」
[ルナ]「私もヒロに同感。これ、完全にチームが崩れてるよ」
正樹は深く息を吐き、ギルド全員を見渡した。
[自分]「今回の失敗は俺の責任だ。指揮をもっと徹底すべきだった」
[ヒューゴ]「違うぞ。今回の原因はソフィアが勝手にやったせいだ!」
ヒューゴの言葉に場の空気がさらに張り詰める。ソフィアは目を伏せ、低い声で答えた。
[ソフィア]「・・・でも、私だって皆の為にやったんだ。自分勝手なつもりじゃなかった」
[ヒューゴ]「皆の為に動くならまず連携しろよ!一人で突っ込むんじゃなくて、全員で協力しなきゃダメだろ!」
[ヒロ]「まあまあ、ヒューゴ。そんなに責めるなよ・・・でも、正直、次もこうなら続けられねえよな」
正樹はソフィアに視線を向け、落ち着いた口調で言った。
[自分]「ソフィア、俺達のギルドでは全員で動く事が何より大事だと言ったはずだぞ」
ソフィアは唇を噛みしめ、拳を握りしめた。
[ソフィア]「・・・もう二度と勝手な行動はしない。必ず皆に合わせる。信じてほしい」
その言葉に、正樹は少し考え込んだ後、うなづいた。
[自分]「分かった。その言葉を信じよう。だけど次は同じ事を繰り返さないでくれよ。皆もそれでいいな?」
メンバー達はそれぞれ不満そうな表情を浮かべながらも、最終的には同意した。
[ヒロ]「まあ、次はちゃんとやれよ。俺等もう撤退なんてゴメンだからな」
[ヒューゴ]「俺はまだ納得してないけど・・・いいだろ。次で全てが決まる」
ソフィアは小さく息をつき、改めて全員に頭を下げた。正樹はギルドメンバー達に向き直り、最後に言った。
[自分]「よし、今日はここまでだ。次の挑戦までに装備と作戦を練り直して万全の準備で臨もう。絶界の頂は俺達の絆を試してるんだ。今度こそクリアしてやる」
ギルドは静かに解散し、それぞれが心の中に様々な思いを抱えながらログアウトしていった。消えていく彼等を見届けて、自分もログアウトした。
ポンッ
その時、正樹のスマホに通知が来た。
「お荷物のお届けが完了しました」
「何か頼んでたっけ?」
スマホの画面を見ながら玄関のドアを開けてみると、ドローンが配達したと思われる段ボールが一つ置かれていた。何が送られてきたのかがきになる正樹はその場で段ボールを開けた。中には黄色いバナナがギッシリ詰まっている。
「バナナ・・・?いや、頼んだ覚えはないぞ」
自分の記憶が間違っているのだろうか。正樹は首をかしげながら段ボールを部屋に運び入れた。
正樹は段ボールをデスクの上に置き、中身を改めて確認した。バナナが見事に整列して詰まっている。黄色く熟した果実が輝く様に見えるが、彼の記憶には心当たりがない。
「いや、これ誰が送ったんだ?」
彼は段ボールの外側を調べた。配送ラベルには差出人の名前も住所も記載されていない。
「妙だな・・・」
正樹は手に取った一本のバナナをじっと見つめた。手触りも香りも普通のバナナだ。だが、何かが引っかかる。彼はしばらく考えた後、スマホで最近の注文履歴を確認する事にした。「八百勝の特選バナナ」。いつも自分が注文している店だが、最後に注文したのは三日前。ちょうどギルドのメンバーが久し振りに全員集まった頃だ。
「・・・やっぱり頼んでない。どういう事だ?」
ふと視線を感じ、正樹は部屋を見回したが、そこにはいつもの静けさがあるだけだった。少しゾッとするような感覚を振り払う様に彼はバナナを一つ取り出して皮を剥き、口にした。
「・・・普通だ。甘くて美味い」
だがその瞬間、スマホに再び通知が届いた。画面を開くと、そこには一言だけメッセージが表示されていた。
【ありがとう】
正樹は息を呑み、スマホを見つめた。差出人は記載されていない。ただその短い一文が、不気味な静けさと共に部屋に響くような感覚を与えた。
「・・・なんだ、これ?」
彼の心臓は不自然な速さで鼓動を打ち始め、部屋の空気が一変する様に感じられた。正樹はスマホを握りしめたまま、未知の何かが背後に迫っているかの様な錯覚に襲われた。
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