不協和音<1>
ギルド拠点を離れてプレイヤー達が集まる酒場で雑談をしていると、ふと背後から誰かの足音が聞こえた。振り返ると、一人の女性アバターが立っていた。彼女は軽装備の鎧を纏い、剣を腰に差している。髪はショートカットで銀髪、緑色の瞳をしたアバターだった。
[女性プレイヤー]「あの、すみません。全日本バナナ・イーターズというギルドを探しているのですが」
正樹とヒロは一瞬顔を見合わせた。ピンポイントで自分達の所に来るのは珍しい事だった。隣でヒロも興味深げにその女性プレイヤーを見つめている。
[自分]「俺達がそうなんだけど、何か用かな?」
[女性プレイヤー]「えっと、実は私を入れてもらえないかと思って・・・。よかったら、少し話を聞いてもいいですか?」
[自分]「まあ、別に大したギルドじゃないよ。今は俺とこいつしかログインしてないし」
[ヒロ]「俺達ってきっちりした戦略とかなしにやってるからな。まともなギルドを期待してるなら、ちょっと違うかもな」
女性は真剣な表情で二人の話を聞きながら、自分の剣を軽く地面に突き立てた。
[女性プレイヤー]「パーティの規模とか戦略よりも楽しくやれるかどうかの方が私にとっては大事です。正直、今まで一人でプレイしてきたんですけど、少し寂しくなってきて」
正樹とヒロは彼女の言葉に少し意外そうな表情を浮かべた。
[自分]「一つだけ確認させてくれ」
[女性プレイヤー]「何?」
[自分]「あんた、バナナは好きか?」
[女性プレイヤー]「バナナ・・・?」
[自分]「そう、完全栄養食品のバナナだよ」
[ヒロ]「それって卵の事じゃないか?」
[女性プレイヤー]「うん・・・好きだよ。普通に食べるし、便利だと思う」
その言葉を聞いた瞬間、正樹は大きくうなずき、満足げに笑った。
[自分]「じゃああんたは俺達の仲間だ。ようこそ、全日本バナナ・イーターズへ」
[ヒロ]「ハンドルネーム教えてくれるか?何て呼べばいい?」
[ソフィア]「私はソフィア。ソフィアって呼んで」
[ヒロ]「OKソフィア。俺はヒロ。こっちがリーダーのマサ」
[自分]「よろしくな、ソフィア」
[ソフィア]「よろしくお願いします」
・・・それにしても、と正樹はソフィアのアバターを上から下までじっくりと眺めた。
彼女のアバターは軽装な鎧と剣という戦士らしい出で立ちをしつつも、どこか洗練された美しさを兼ね備えていた。細部に至るまで緻密にデザインされた鎧や武器。肩当てには細かな紋様が彫り込まれており、腰のベルトにはまるで本物の革の様な質感がある。さらに、剣の刃にはうっすらと光沢が宿り、使い込まれた重厚感とともに絶妙なバランスを保っていた。軽装な鎧であっても高性能な物が揃えられており、剣のデザインからして課金装備か、あるいはイベントの高難易度報酬の可能性が高い。とてもじゃないが初心者が身に付ける様な装備ではない。
そして何よりも驚いたのはソフィアの顔立ちだった。彼女の顔立ちは驚くほど自然で、キャラメイキングの範囲を超えたリアリティを感じさせた。ゲーム内のキャラメイキング機能は確かに多様だが、ここまで自然でリアルなアバターを作るのは並大抵の技術ではない。どうやったらここまで細部にまで整えられ、解像度の高いアバターが作れるのだろうか。
イベント開始三日前の夜、ギルド拠点には久し振りに全メンバーの姿が揃っていた。正樹は全員のアカウント表示に自然と顔がほころんだ。
[ルナ]「おーい、みんな元気だった?久しぶりすぎてログインの仕方忘れそうだったよ!」
[ヒューゴ]「それはお前だけだろ。俺なんか仕事の合間にちょくちょくログインしてたぞ」
[ヒロ]「ちょくちょくって、結局誰とも会ってねえじゃねえか」
正樹は軽く咳払いし、ボイスチャットをオンにして話し始めた。
[自分]「えーっと、まず新メンバーの紹介からはじめようか。この一週間、俺とヒロで準備を進めてきたんだけど、実は新しい仲間が加わってくれてる」
[ヒロ]「皆もすぐ気に入ると思う」
正樹が合図を送ると、ソフィアのアバターが一歩前に進み出た。彼女は少し緊張した様子だったが、意を決したように口を開いた。
[ソフィア]「はじめまして。ソフィアです。戦士で、主に前衛アタッカーをやってます。ギルドに入れてもらえて嬉しいです。これから一緒に頑張りたいので、よろしくお願いします」
[ルナ]「ソフィアさん、はじめまして!女の子が増えて嬉しいよ。よろしくね!」
[ヒューゴ]「おお、頼もしい新メンバーだな。よろしく!」
[ヒロ]「な?いい感じだろ?お前ら、すぐ仲良くなると思ったよ」
ソフィアはみんなの温かい反応に、緊張した顔が少しほぐれるのを感じた。
[ソフィア]「ありがとう。私、こういうみんなで遊ぶのは初めてなんだけど、すごく楽しみにしてる。『絶界の頂』、全力でサポートするからね」
正樹はその言葉に満足そうに頷き、ギルド全員を見回す様にして続けた。
[自分]「ソフィアの言う通り、今回の『絶界の頂』は大きな挑戦だ。だけど、こうしてまた全員揃った以上、俺たちなら絶対にやり遂げられると思ってる。皆、準備はいいか?」
[ルナ]「もちろん!久々に皆で挑戦できるなんて、ワクワクしてきた!」
[ヒューゴ]「俺の準備は完璧だ。さっさと頂点まで登ろうぜ!」
[ヒロ]「俺も戦う準備万端だ。行く時は全力で突っ込むからな!」
正樹は笑みを浮かべながらギルドのエンブレムが映る画面に視線を移した。そのバナナを象ったシンボルはどこか誇らしげに見えた。
[自分]「よし、それじゃあ改めて、全日本バナナ・イーターズ、全員で『絶界の頂』を攻略するぞ!」
ボイスチャットで一斉に「おお!」という歓声が聞こえた。全員の声がボイスチャットに響き渡り、ギルド拠点は久し振りの活気に包まれた。正樹は新たな冒険への期待を胸に抱いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます