仮想世界の勇者<2>
正樹の冷静で力強い声がボイスチャット越しに仲間達へ響く。画面には「異界の塔」の複雑なフィールドが広がり、次々と湧き出る敵や仕掛けが彼等の前に立ちはだかっていた。正樹はモニターに映る状況を瞬時に分析し、敵の配置や仲間達の動きを見極めながら次々と的確な指示を飛ばしていく。
正樹は再び大剣を振るい、敵の猛攻を受け止めつつ仲間達の動きに目を配る。敵勢力は次々と湧き出してくるが、ギルド「全日本バナナ・イーターズ」は見事な連携でそれを押し返していった。
[自分]「ヒロ、敵の主力部隊を引き付けろ。ルナ、左のサポートエリアを維持しながらヒューゴを援護してくれ!」
[ルナ]「了解!範囲回復とバフを同時に展開する!」
[ヒロ]「任せろ。おい、こっちだ、相手してやるよ!」
[ヒューゴ]「ギミック解除まであと20秒。防衛ラインを維持してくれ!」
画面の中では、敵の大軍が押し寄せる中、彼等のアバターが見事な連携で塔の中層階を切り抜けていく。各自の役割が的確に遂行され、正樹の指揮の下、ギルド全体がまるで一つの生き物の様に動いていた。
[自分]「次、ボス戦行くぞ。今日こそは『世界を繋ぐ者の遺物』ゲットしたいな」
[ヒューゴ]「全くだ。ランダム報酬だからってそろそろ出てきてほしいんだけどな」
画面の中についに最後のボスキャラが姿を現す。巨大な魔獣「虚ろなる双頭竜」。その両頭は光と闇のエネルギーを交互に放ち、フィールド全体を支配する。そのデザインはまさに壮絶。闇と光が交錯する体躯から放たれる圧倒的な存在感は、戦場に立つ仲間達のアバターを小さく見せるほどだった。
「来たな・・・ここが正念場だ!」
正樹の声が響く。
「ヒロ、左頭のヘイトを引け!ヒューゴは右側のギミックをすぐに起動だ!ルナ、全体回復を切らすな!全員、攻撃のタイミングを合わせるぞ!」
ボスの咆哮がフィールドに響き渡り、凄まじい攻撃が襲いかかる。だが、「全日本バナナ・イーターズ」の連携は崩れなかった。正樹の冷静な指示の下、パーティ全員が自分の役割を完璧にこなし、敵の猛攻をかわしながら反撃を繰り出す。
[自分]「右側に光の紋章が出現!ヒューゴ、触れてフィールドを有利に変えろ!ヒロは防衛ラインをキープしろ!」
[ヒューゴ]「了解!紋章に向かう!」
[ヒロ]「こいつ、マジでしぶといな」
[ルナ]「回復バフ、全員に展開。耐えて!」
戦場はまさに最高潮。画面いっぱいに広がるエフェクトが壮大な戦いを彩り、ボスのHPゲージが徐々に削られていく。しかしボスは残りHPが少なくなると同時に攻撃パターンを変化させた。双頭から放たれる巨大なエネルギー波がフィールド全体を覆い尽くし、仲間達はぎりぎりの状態でそれを耐え凌ぐ。
[ヒューゴ]「マサ、次の攻撃が来るぞ!何とかしろ!」
[自分]「全員、最終攻撃だ!スキルを集中させろ!」
最後の力を振り絞り、仲間達のアバターは全力で攻撃を繰り出す。光と闇が交錯するフィールドで放たれる必殺スキルの嵐がボスを直撃し、その巨大な身体がついに崩れ落ちた。
[自分]「やった!撃破成功だ!」
[ヒロ]「おっしゃー。マサ、最高の作戦だったぞ」
[ルナ]「みんな、お疲れ。本当にギリギリだったね・・・・・・」
[ヒューゴ]「ふぅ、さすがマサ。完璧な指揮だったよ」
正樹は椅子にもたれかかり深く息をついた。画面には「CLEAR!」の文字と共に、輝く報酬アイテムが表示されている。
[ヒロ]「今回のランダム装備は何かな・・・?」
全員が期待を込めて画面に目を凝らす。報酬のウィンドウが徐々に表示され、そこにランダムで割り振られたアイテムが並んでいく。
[ルナ]「お願い・・・そろそろ来て!」
正樹は息を飲みながら、報酬ウィンドウの最後に表示されたアイテムを確認した。
[自分]「・・・来た!」
ウィンドウには待ち望んでいたアイテム「世界を繋ぐ者の遺物」が輝いていた。独特の光と闇のエネルギーを纏ったデザインは、一目でその特別な価値を感じさせる。
[ヒロ]「マジか。ついに出たな!」
[ヒューゴ]「おいおい、本当に出るなんて奇跡だぞ!これ、ギルドの戦力が一気に上がるな」
[ルナ]「全日本バナナ・イーターズ、またランキング上がったね」
正樹は椅子に深くもたれかかり、達成感に満ちた笑顔を浮かべた。モニターの前で長時間緊張し続けた身体を軽く伸ばし、手元のゲームパッドを一旦置いてバナナを一房剥いた。
仲間達の喜びの声がヘッドセット越しに響き、正樹はニヤリと笑った。彼等と共にこの瞬間を共有できる事が何よりの喜びだった。現実の喧騒を忘れられるこの時間こそ彼にとっての最高の癒しだった。部屋にはわずかにモニターの冷たい光が瞬き、静寂が広がっていた。しかし、その光景は数分前まで激しい戦闘と仲間達との掛け合いが繰り広げられていた熱狂の余韻をしっかりと留めている。
画面の中では、正樹のアバター「マサ」が大剣を背に立ち尽くしていた。その甲冑にはボスとの激戦の傷跡が刻まれ、壮絶な戦いを物語っている。仲間達のアバターもそれぞれの個性を輝かせながら、その勝利の余韻に浸っていた。
彼の背後にある現実の世界はすっかり忘れ去られ、正樹はその瞬間、確かに仮想世界の勇者となっていた。
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