01-26.瓦礫の中で

 やがて、くずれた建物の残骸が目に入った。そこからかすかにれる影が見える。瓦礫がれき隙間すきまに埋もれるようにして、誰かが動いているようだ。彼女は慎重に近づいた。


「大丈夫……?」


 声を掛けると、瓦礫がれき隙間すきまから小さな手がふるえるように動いた。その小さな手の持ち主は、傷だらけでほこりにまみれた少女だった。


「だ……誰……?」


 少女はおびえたように問いかける。その瞳には焦点しょうてんがなく、ただ彼女の声の方に向けられているようだった。


「私は……ただの通りすがり。君、大丈夫?」


 彼女は自分の声に驚いた。人に声を掛けるのはこれが初めてだった。少女がいる場所は瓦礫がれきに覆われ、身動きが取れない様子だった。


「痛い……ここから、出たい……」


 少女はか細い声で訴えた。彼女は背中の翼が見えないよう、自然に隠すようにしながら手を伸ばした。


「動かないでね。助けるから」

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