01-25.初めての力

 廃墟はいきょの街を歩き続ける彼女は、足元にひび割れた地面をみしめながら、どこかへと向かっていた。空はどんよりと灰色にくもり、煙と灰が舞う中、周囲に広がるのはかつて栄えたであろう町並みの残骸ざんがいだ。ぼろぼろにくずれた建物、割れた窓、壊れた看板──そのすべてが無残に風化して、死んだ世界の中でただ黙って立ち尽くしているようだった。


 足元が痛む。肉体の疲労が蓄積ちくせきしていくのがわかる。体を支えている翼も、時折ときおり、無理に広げたようなにぶ痛みを感じさせる。それでも彼女は歩き続けるしかなかった。何もかもが空虚くうきょで、目の前に広がる景色には意味を見出せない。ただ、足を動かさなければ、何も変わらないという現実だけが迫ってくる。


 その時、ふと、耳に微かな音が届いた。最初は風の音かと思ったが、次第にその音は明確めいかくな形を取っていった。泣き声──子どもの声だ。遠くから、必死に助けを求める声が聞こえてくる。


「助けて……助けて……!」


 その声に、彼女の胸が激しく波立った。無意識むいしきに足が速まる。泣き声の方向へと、足取りが向かう。

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