その彼女(ひと)

金子ふみよ

第1話

 スーパーの駐車場にいた。私が運転する車に冗談交じりに乗ることを勧めた。気分は冗談にも教習所の教官が助手席に乗るような感じだったのだが、発車すると高揚感で普段以上に饒舌に話しかけていた。普段ならもっとスピードが出たまま曲がるカーブも速度を落として進む。楽しい。一言で表すならば、そうなのだ。それなのに、助手席にいるその女性が誰なのか思い出せない。互いに見知った関係であるのには間違いない。そうでなければ、勧誘などしない。気心の知れた女性。それなのに誰だかわからない。彼女は一体誰なのだろう。心弾むようにして運転しながら談話を楽しめるような女性。彼女が誰だかわかったのなら、私はきっと幸福に違いない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

その彼女(ひと) 金子ふみよ @fmy-knk_03_21

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ